1108.実戦っぽく(34)
今日は昼に8階の邪魔にならない一角でバーベキューをする予定なので、隆一はいつもよりも遅い時間にリヤカーに肉や箱状のバーベキューグリルを乗せ、手伝い兼護衛のヴェルタンを伴って王都迷宮にやって来た。
実際にBBQをやる時はヴェルタンは警備でアリスナやメイドに肉を焼く方は手伝ってもらう想定だが、流石に迷宮でのBBQに一般人であるアリスナやメイドを連れて来る訳にも行かないので、ヴェルタンに警備がてらにどんな風にやるのかを見ておいてもらい、他の人員へ説明してもらうことになっている。
本当だったら近所の隣人を呼ぶ前に一度隆一邸の人間だけで練習をしたいところなのだが・・・練習をしたら匂いが出るだろう。
匂いが出るからお詫び代わりにと呼ぶのに、練習を先にするのは微妙な気がする。
とは言え、流石に一度も本番をやらずに人を呼んで色々と失敗ばかりだったら呼ばれた方も迷惑だろう。
1度ぐらいは隆一邸の庭でやり、肉を焼く匂いをバラまいて周囲の隣人の興味を引いてから招く感じで良いかも知れない。
それはさておき。
「全部パックして来たのか?」
迷宮前に待っていたデヴリンが隆一が押して来ていたリヤカーの中を見て眉をあげた。
ちなみに隆一邸を出発した際にヴェルタンが被雇用者である自分がリヤカーを押すと言っていたのだが、普段はどうせ何か持って行く際には隆一が押しているのだし、一応何かがあった場合に護衛役であるヴェルタンは身軽な方が良いだろうと隆一が押し切って自分で押してきた。
「肉が悪くなったり、悪くなった肉に触れていた野菜を食べたりして食中毒をおこすのはバーベキューで良くあるアクシデントなんだ。
全部肉と野菜は先に家で切って貰ってあるが、肉なり野菜なりが余った際に持って帰っても安心して食べられるように小分けして真空パック状態で冷やして持って来た」
今日はリヤカー全体に冷却の術を掛けてある。
バーベキューグリルまで冷えているが、まあそれは火をつければすぐに熱くなるだろう。
「あ~。
確かに食中毒は困るな」
デヴリンが苦笑しながら言った。
「そう言えば、基礎能力値を上げたら腐った食材でも食べて大丈夫なようになるのか?」
元々、腐ったりかびたりした食材だって納豆やチーズのように無害なものはあるのだ。
食中毒だって基礎能力値を上げまくれば打ち勝てるのかも知れない。
日本でだって、大人数で頼んだ魚や弁当に皆が当たっても一人けろりとしている人間は時折いたから、食中毒への耐性だって個人差はある筈。
「ある程度は体調を崩しにくくなるが・・・探索者が食う物に困って僻地で食べる食材はキツイ毒だったりマジで腐ってることもあるからな。
食料確保で失敗したせいで依頼に躓いたり帰って来なかったりする探索者はいるから、基礎能力値が上がっても食中毒へは常に注意を払い続ける方が良いと言われている」
ダルディールが苦笑しながら答えた。
確かに迷宮の下層や僻地の危険な魔物が多いような場所で食中毒で下痢になったりしたら悲惨だろう。
迷宮の方がまだ転移門がある階層まで這ってでも戻れば何とかなるが、僻地だったりしたら薬を入手できる地域まで戻れる前に体力が尽きて終わりな可能性が高い。
そう考えると、安易に自分で食材を確保して料理するよりも、くそ不味い保存食で我慢する探索者や軍人の考え方も理解できる。
水で戻せるドライフードにあれほどフリオスが喜んだのも、そのせいなのだろう。
「あ、デヴリン、ダルディール、うちの警備をしているヴェルタンだ。
ヴェルタン、迷宮で俺のお守り役をしてくれているデヴリンとダルディールだ。
二人がうちに来た際に顔は合わせているかも知れないが、紹介はしてない・・・よな?」
二人が隆一邸に来たことは何度かある筈だが、ヴェルタンの紹介をした記憶はない。
「「よろしくな」」
「よろしくお願いします」
どちらも微妙に相手に対して同情を籠めているような笑顔で挨拶していたのは・・・気のせいだと思うことにした隆一だった。
隆一のお守りは大変だね〜とお互い同情し合っていたりw




