1106.魅惑の味?(13)
「結局、二種類の肉を食べ比べてみて、どう感じました?」
食事が終わり、アリスナが全員から個別に聞き取りをし終わった時にはそれなりに遅くなっていたので隆一は翌朝に詳しく話を聞くことになった。
「う~ん、歯ごたえとか後味に多少違いがある気はしたが、どっちが美味しいって一概に言えない気がしたかな?」
実はそこまで隆一は肉にこだわりが無かったのかも知れない。
それなりに食事に拘りが出来てきたと思っていたのだが、それなりに落差が無いと違いに好悪を感じる程は拘っていない気がする。
「レッドブルの肉も完全に魔力が抜けてスカスカになると美味しくないという話は料理をする人間の間ではそれなりに有名ですが、ある意味一撃程度の違いだったらこう、どれ程美味しい脂身であろうとがっつり脂っこいのが好きか、多少の脂身がある程度が好きかといった感じに違いが出るように、優劣ではなく好みの話になるんでしょうね。
昨日の食事にしても、煮込みだったら攻撃後の肉の方が良いという方が何名かいましたし、別の方はローストビーフだったら攻撃後の方が良いという方もいます。
年齢層とか男女でも違いが出るでしょうし、食べる方次第な微細な違いだと思います」
アリスナが隆一に解説した。
「つまり、一撃程度の火息だったら極端に味に違いは無いのか・・・」
あれだけ苦労したのに。
「味としては、そうですね~。
それでも一撃も火息を吐かせずに倒すのは難しいですから、希少価値として高値がつきますし、貴族や豪商なんかはそれを使うことに誇りを持って客を招く時なんかは確実にそれをって料理人に指示することも多いですよ」
アリスナが言った。
なるほど。
明らかに美味しいから好まれるのではなく、単に難しくて希少価値があり、高くつくから見栄の為に求められるのか。
「そうなると、出汁には殆ど違いは無い?」
肉ですら微妙に違いがあった程度なのだ。骨から煮だす出汁に違いがそれ程出るとも思えない。
「まあ、多少は違いがあるようですよ?
スープを飲み比べます?」
アリスナが笑いながら応じる。
「・・・まあ、俺的にはどっちでもいいって感じだから、取り敢えず猫のおやつに出した際に反応に違いがあるのかだけ、試して後はもう無理をしなくて良いってことで終わりにしよう」
どうせ猫用のおやつは将来的には外注して、突進牛や突進豚の出汁になる可能性が高いのだ。
変に贅沢に慣れさせない方が、後から『これは違うでしょ?!』と拗ねられないで済みそうだ。
◆◆◆◆
「火息前のレッドブルって俺でも知っているぐらい有名なのに、本当はあまり違いが無かったんですね」
昨晩の試食に参加していたエフゲルトが実験室で猫用ち〇ーるもどきを隆一と一緒に作りながら呟いた。
「まあ、魔力がスカスカになるまで火息を吐かせたら不味くなるっていうのは本当らしいから、一度も吐く前が一番美味しいだろうっていう思い込みと、火息を吐かせずに倒すのが大変だから希少価値があるっていう事で金持ちの虚栄心にアピールするっていうのが合わさって実際の味の違い以上に評判になるんだろうな」
まあ、隆一よりももっと味覚の敏感な料理評論家みたいな人間には明らかに美味しさが違う!!!と思わせる何かがあるのかも知れないが。
「え、確かに味に違いは多少あった気はしますが、美味しいかどうかは値札を見て判断しているってことですか?」
エフゲルトが微妙な顔で聞き返す。
「高ければ美味しい筈っていう思い込みは良くあるだろ?
ぼろっちい下町の食事処よりも、高級レストランの方が美味しいに違いないって食べる前から思っているから、実際に味だっていいと感じるのさ」
ある意味、味覚のプラセボ効果に近いかも知れない。
そう考えると、値札なんぞ知ったこっちゃない猫の評価が一番正直かもしれない。
どんな評価になるか、ちょっと楽しみになった隆一だった。




