1104.実戦っぽく(33)
突進してくるレッドブルにクロスボウからボーラを発射する。
狙い通りにボーラが前足に絡みつき、もんどおりを打って倒れた魔物にぶつかった足止め用魔道具が発動して地面へレッドブルを拘束した。
「風矢!」
隆一が攻撃魔術を放ち・・・それがレッドブルの口から吹かれた炎にぶつかって散らされた。
「えぇ?!」
思わずびっくりして棒立ちになった隆一に構わず、レッドブルが更に首を曲げて隆一の方へ火を吹こうとあがく。
「ほら、さっさと倒さないとどんどん味が落ちるぞ~」
デヴリンがノンビリ声を掛ける。
「おっと。
水槍!」
レッドブルの火息に当たっても完全に無効化されないようにより強力な槍系の魔術を叩き込んだら、今回は良い感じにあっさり首に刺さり、レッドブルを倒した。
「魔物ってこっちの攻撃に魔術とかあっちの攻撃を当てて来るんだ??」
解体の為にレッドブルの傍にしゃがみ込んだデヴリンの傍に近づきながら隆一が尋ねる。
「もっと下層の方に行ったらそう言うこともあるが、今のは偶然だな」
さっくり魔石を切り出しながらデヴリンが答えた。
「あ、偶然なんだ」
物凄いシビアなタイミングで大したもんだと隆一は感心したのだが、どうやら単なる偶然だったらしい。
「まあ、レッドブル相手だったら風よりも水系の方が良いし、攻撃の方向も口からの火息に当たらない様に首の後ろぐらいから狙う方がいいだろうな」
ダルディールが助言した。
隆一が屈みこんでレッドブルの首元を確認したところ、火息で温められた風矢もいくらかは首の近辺にぶつかったらしく、毛皮が一部焦げている。
火が水に負けるとは限らないが、同じ魔力だったら風の方が質量が無い分だけ火息に散らされやすいのだろう。
「・・・と言うか、下層の魔物ってこちらの攻撃を自分の攻撃で弾くのか??」
アーマーボアもバターブルも突進系の攻撃がメインなので攻撃をぶつけて相殺できるようなのにはまだエルダートレントとミノタウロス(中)しか遭遇していない。
エルダートレントは攻撃魔術ではなくデヴリンの斧で倒してきたので元々弾かれる攻撃その物をしていないが、ミノタウロス(中)でもそんな経験はない。
まあ、前回はダルディールに盾でノックバックして貰ってから攻撃したので、向うの体勢がちゃんと整っていなかったのかも知れないが。
17階ではバターブルに集中していたのでミノタウロス(中)は一応の経験程度に1体しか倒さなかったし。
「ミノタウロスとかオーガは棍棒で矢系程度の魔術だったら叩き消すこともあるぞ?
毎回じゃないが、確実に当たると思ってうっかり油断していると攻撃を無効化された上に殴られて大怪我する探索者パーティもちょくちょく居るからな。
まあ、偶然でもそう言うことは起きうるから、魔物と相対する時は攻撃が当たって相手が死ぬまで常に油断せずに次の手を準備しながら戦うんだな」
デヴリンが言った。
やっと攻撃魔術をそれなりのスピードで魔力を練って発射できるようになった程度の隆一では自分が打った攻撃を弾かれたり失敗した場合に次の攻撃を既に準備できている状態にしておくと言うのは中々厳しいが・・・常にダルディールにおんぶ抱っこして戦うつもりなのでない限り、その程度出来ないのに下層に行くのが間違いなのだろう。
「努力するよ・・・」
「ちなみに、このレッドブルの肉と骨はどうする?」
抉り出した魔石を袋に入れたデヴリンが尋ねる。
「一度火を吹かれた肉と骨と、それをせずに倒せた場合の違いを確認したいから、それはそれで持って帰ろう」
次のを攻撃させずに完封できるかは不明だが。
きっと12階のレッドブルが死に絶える前に一度は完封に成功するに違いないと期待する隆一だった。
「あれ?
今日は妙にレッドブルが少ないな」
By 午後に12階へ降りて来たとある探索者




