1102.実戦っぽく(31)
「おっと」
足に上手い事ボーラが巻き付いて足止め用魔道具にねちょねちょにされて足の止まったミノタウロス(小)だが、腕が動くと足元を拘束する縄や粘着液を何とかしようとするかと思っていたのに反して隆一の方へ斧を投げてきた。
まあ、粘着液に触れたら手もくっついた可能性が高いので、行動としては正解だが、隆一としてはちょっと想定外だった。
とは言え、まだそれなりに距離があったので一歩横にずれたらあっさり避けられたが。
「風矢!」
ザクっと良い感じに首筋に攻撃魔術が当たり、暫くジタバタ動いていたものの数分後にミノタウロス(小)は死んでいた。
「回収する素材は魔石だけでいいのか?
肉とか骨は?」
デヴリンが解体用ナイフを取り出しながら尋ねた。
「やっぱ二足歩行な相手はあまり食べるのも道具に使うのも微妙だから、魔石だけで良い」
ある意味、二本足で歩けるのだからミノタウロスの足の骨は四本足のレッドブルよりも強い可能性はあるが、まあカルシウムが多くて強くても失明者用インクに向いているかどうかは分からないし・・・どちらにせよ、きっと17階のバターブルの方が良いだろう。
というか、それを言うなら17階のバターブルと17階のミノタウロス(中)を真面目に比較研究するべきか。
17階のミノタウロス(中)の方が大きい上に危険度が増していて、見た目も鬼っぽさがマシマシだった気がするので、あちらだったらあまり気にせずに利用できるかもしれない。
とは言え、素材としては採取難易度が上がるせいでコストが上がるから、ダメな気もするが。
そう考えると、もしも17階のミノタウロス(中)がバターブルよりも良い素材だったら12階のミノタウロス(小)を使うことを真剣に検討すべきかもしれない。
まあ、隆一としては17階にはバターブルの素材を取りに定期的に行くつもりなので、その際にミノタウロス(中)を倒してくるのも吝かではないが。
「意外とミノタウロス(小)レベルでもそのボーラもどきで止められるんだな。
そろそろヤバいかと思ったんだが」
デヴリンが取り出した魔石をリヤカーに放り込みながら言った。
「だな。
まあ、転ばせて時間稼ぎをしている間に倒しているだけだから、10階のゴーレムみたいに長時間拘束できるかは不明だが」
今朝とおってきた時は相変わらず拘束されたまま転がっていたゴーレムだが・・・あれらはそのうち死ぬ(?)のだろうか?
ゴーレムだとロボットっぽいので『機能停止』と言った方がしっくりくるが。
迷宮内の魔素を吸収して動いているのだとしたら別に果てしなく転がしておいても大丈夫な気もしないでもない。
流石に5日ぐらいたったら倒して終わりにしようと思っている隆一だった。
5階のアイアンゴーレム(小)はリポップ確認をしたいので10日ぐらい待つつもりだが。
と言うか、拘束して他の場所に動かしても倒しさえしなければリポップしないとなったら、上層部だったら迷宮内に研究スペースなり、別荘なりを安全に作れることになる。
まあ、そこら辺は下手に誰かに特権を認めると後が面倒なことになりそうだし、違法組織の隠れ場所なんかに使われたら隆一が誘拐された時の隠し場所になったりしかねない。
隆一が発明した追跡用魔道具だって迷宮で数階層潜ってしまったら効果が無い。
・・・そう考えると、迷宮内で安全な区画を作れるかも知れないという情報は、広まらない方が良いだろう。
「・・・考えてみたら、アイアンゴーレム(小)を縛って他の区画に放置してもリポップするのかしないのかの実験に関して、誰にも言わないでくれるか?
あれって悪用したら誘拐犯とか言った犯罪者の隠れ家づくりに使えそうだ」
なんと言っても迷宮内は広いし、金になる魔物が出ない区画を態々回る探索者は滅多にいない。
そしてそう言うのが来ても、殺してしまえば死体は直ぐに迷宮に吸収されるし、探索者が戻って来なくても誰も探そうとしない可能性の方が高い事を考えると・・・スラムよりも犯罪者にとって都合がいい隠れ家になりかねない。
「・・・そうだな。
と言うか、もう調査も止めた方が良いんじゃないか?
うっかり調べた始めたらリュウイチってしっかり結果が出るまで色々調査する上にメモをとらないか?」
デヴリンが指摘した。
「・・・確かに。
帰りにあのアイアンゴーレム(小)を倒しておくか」
出来ればしっかり結論が出るまで実験を続けたいところだったが、確かにやり始めたら比較研究とかであちこちの階層で色々と実験をして、その詳細を自分用に記録しそうだ。
それを目撃されて自分が誘拐されては目も当てられないので、ここは涙を飲んで実験は止めるべきだろう。
誘拐ターゲットの家を下調べしている時に最適な隠れ家のアイディアが出てきたら皮肉すぎw




