四苦八苦の買い物
しばらく話をしていると、スパポーンさんが、珠美にぜひとも紹介したい人がいると言ってきた。
「実はね、裏の家に住んでいる人なんだけど、珠美と同じ日本人なんだよ」
「あ、さっき本人にそこで会って、もう裏の家に行ってきました。ヘイじいさんもミヨンばあちゃんもいい人ですねぇ」
珠美がそう答えると、スパポーンさんは身内を褒められたかのように、とても嬉しそうな顔になった。
「ヘイじいさんはねぇ、ずっと日本からの転生者を探してたんだよ。ここは田舎だろ? なかなか転生者じたいも少なくてさ。じいさんがタマミに会えて、本当に良かったよ」
側にいたおばさんは、しみじみと話し込んでいる二人の話に上の空で頷きながら、どこかソワソワしていた。
「それじゃあ、私は用事ができたから帰るわね! アルマ、シャリナのドレスを頼んだわよ」
「あ、ああ、来月の花祭りまでには用意しておくよ」
おばさんは、スパポーンさんに注文を念押しすると、いそいそと帰っていった。
珠美を一通り尋問したことで、満足したのかもしれない。でも、今聞いたばかりの珠美のニュースを広めに行ったというのが一番ありえそうだ。
「クククッ、これでタマミもデルム村の有名人だね。ベラ・タング夫人にかかったら、あっという間に村中に噂が知れ渡るよ」
やっぱり?
お喋り好きの人だったから、そんなことじゃないかと思ってたわ。
「あの人はタングさんとおっしゃるんですね。あの、さっきおっしゃってた花祭りというのは、この地方の春祭りですか?」
「そうだよ、皆で花を飾った山車を引いて、村中を練り歩くんだ。村の教会には創造神が祀られててね、春の花祭りの他に夏の星祭り、秋の収穫祭、冬の生誕祭なんかがあるよ。今年はタングさんとこのシャリナが花の精になるんだ。花の精なら北の林にでも行けばもっと綺麗な本物がいるんだけど、シャリナは有力者の子供だからね、仕方がないよ」
なんだか楽しそうだな。
この世界には、この世界なりの宗教があって、お祭りもあるのねぇ。
ずっと話ばかりしていても買い物が進まないので、珠美は店の棚を物色しながら次々と商品を選び出していった。
最初に農場に必要な野菜の種や苗を揃え、次に釘や針金、紙やすりなどの製作に使えそうなものを会計テーブルに並べていく。
すると、スパポーンさんが先に記録していくから、住民カードを出すように言ってきた。
珠美はミーニャに渡されたカードを出して、食料品のところを見に行った。
すると計算をしていたスパポーンさんが、会計機をにらみながら教えてくれた。
「タマミ、買えるのはあと1万ドドルだよ」
そんなに買ったかしら?
「え? 野菜の種なんかはそんなに高いの?」
「いいや、種なんかは、そんなに高くないよ。でも最初にこのカードに入ってたのは、3万ドドルだったみたいだ」
えーー、もうミーニャ、カードで使えるのは10万ドドルじゃないじゃん!
どうしたらいいんだろう。
この後は食料品や布も買って、帰りに牧場でムー乳や肉も買おうと思ってたのに……
呆然として考え込んでいる珠美を見かねたのか、スパポーンさんがアドバイスをしてくれた。
「私がこの世界に来た時には、カードに7万ドドル入ってたよ。最近の転生者は、10万ドドルから始めるって聞いたことがある。でも牧場をやってるサミーはタマミと同じで3万ドドルから始めたよ。さっきタング夫人に説明してたけど、タマミは魔法やスキルを持ってるんだろ? 自分で作ったり育てたりできるものは、買わずに神様のギフトを使ってごらん」
なるほど。
珠美は魔術書の目次を思い出しながら、買うものを厳選していくことにした。
例えば製品になっている釘や針金ではなく、鉄の棒にしたらいくらか安くなるみたいだ。
苗もやめて種だけ買うことにした。
ふぃ~、頭を使うなぁ。
とことん考え抜いて商品を選び、やっと下着の替えを作る布のお金を捻出した時には、スパポーンさんと一緒にハイタッチをしたぐらいだ。
借金をしても半年間カードがグレイになるだけで、その間にお金を返せばカードの色は元に戻るらしい。お金を返せなくなるとカードはブラックになって、差し押さえに遭うそうだ。
「魔法がある世界でも、生きていくのは大変なのね」
「でも一般人はグリーンカードのままだけど、サミーはAランクになってるからレッドカードだよ。魔法使いはやりようによっては、短期間に大富豪にもなれるのさ。タマミもいいものができたら、うちに製品を売りにきな。村で売れないものでも、仕入れの時に町に行くから、私が高く売ってきてやるよ」
「ありがとう、スパポーンさん。これからもよろしくお願いします」
カードの限度額いっぱいを使って購入した荷物をリヤカーに乗せると、珠美は待っていてくれたペロルと一緒に家へと向かった。
帰り道は、リヤカーが重くて体力を削られたが、初めての村への訪問にしては得るものが多かったと思う。
こういうのが充足感っていうのね。
最初は何から作っていこうかしら。
頭の中で段取りを練りながら、珠美は家路を急いでいた。
「あれ? サミー牧場には寄らないの?」
牧場のゲートを通り過ぎたので、ペロルに不思議そうな顔をされたが、懐が寒いので今は贅沢ができない。
「作ったものが売れてから、買い物に来ることにする」
「ふーん、まぁ牧場はどこにも逃げないからね」
珠美にしても、村で唯一の魔法使いに会ってみたかったが、落ち着いたらまたいつでも会えるだろうとも思っていた。
桜の花びらが舞っている向こうに農場の家が見えた時には、一日の疲れが吹き飛ぶような気がした。
ミーニャが家を出て、こちらに迎えに来てくれている。
「お帰りニャ、珠美!」
「帰りました」
家に帰るって、いいな。
ここが私の家になったんだなぁ。
頭の中で夕食の献立を考えながら、珠美はリヤカーを裏庭に乗り入れたのだった。




