月の終わり ~四月~
ヘイじいさんに聞いて、ローレンの聖女としての役割を珠美は理解することができた。
「どこの村にも教会はあるんだが、聖女が常駐している所は少ないんじゃ。たいていは教会管理人が聖女の家と教会、それに村の祭りなどの行事を管理しとる。うちの村は、ほれ、材木業をやっているタングのところの甥の……」
「イアンさんですよ、おじいさん。あそこの奥さんはしっかりしてるから、お祭りの時にも皆をよくまとめてくれてるのよ」
ミヨンによると、親戚のタング夫人と少しぶつかることもあるけれど、イアン夫婦は村のためによくやってくれているということだ。
しかし聖女降臨があると、村にとっては医療の面で非常に助かるらしい。聖女は治癒系の魔法が使えるらしく、今までは病気や怪我をすると隣町の医療院まで出かけていたそうだが、これからはローレンが治してくれるだろうとヘイじいさんは言っていた。
「わしもさっそく、ローレンに世話になっての。腰に治癒魔法をかけてもらったんじゃ。まだ魔法に慣れていないのですみません、と言うておったが、うまいこと治っとるようじゃ。今日はなかなか調子がいい」
「無理をして畑仕事をするからですよ」
「お前が草が気になると言ったんじゃないか!」
「まあまあ、草が生えてきたら私が来た時に魔法で刈っちゃいますからいつでも言ってください。以前も聡さんのところの店で、駐車場の草を刈ったことがあるんですよ」
「そうか、魔法か。それはいいな、今度は珠美に頼むとしよう」
「でも、その魔法は大丈夫なの? また歳をとってしまうことはない?」
ミヨンは、珠美があっという間に年老いてしまったことを本人よりも気にしていた。
「オンマぁ、これは呪文を統一した時の弊害なんですよ。魔法を使う時には関係ありませんから」
「まぁ、でも気をつけなさいよ。珠美はものすごい魔法を使うと聡からの手紙にも書いてあったわ。魔法も使いすぎたら疲れるんじゃない? 山奥に独りで住んでるんだから、何かあった時には困るでしょ」
まぁ、今はゼスもいるのでそういう心配はないかも。
でもそういえばここのところ、魔力を大量消費しても疲れることがないなぁ。
統一呪文を取得したばかりの時に一度、魔力の枯渇を経験したが、その後は魔法を使ってもなんともなかった。ミーニャやゼスにもよく規格外と言われるので、その問題はもうクリアできたのかもしれない。
珠美は全然、気にしていなかったが、他の場所では気にして見ている人たちもいたようだ。
「あのゼス・ダンバールが注目するとはね。珠美ちゃんて、意外に大物なの? ふっ、これは面白くなってきたわね~」
「あなたも遊びすぎよ。何、あの制作チートは。能力加算がかかるバランスがひどく偏ってるじゃない」
「ふふん、いいでしょ。戦闘チートは飽き飽きしてたのよ。世の中、破壊よりもやっぱ創造よねー」
「もうっ、あなたのおかげで、あの村に聖女を降臨させちゃったじゃない。あんな小さな村に聖女って……」
何やらもめているようだが、これもまたいつものこと。
珠美が異世界に来て過ごしたAprilが終わった。
最初はお金もなく、野草を食べて食いつないでいた。
タケノコを採りに行った時に、竹の精であるバンブーに出会った。
そこから竹を使った細工物を作り、村の店のスパポーンや郵便馬車のトロールなどの商売人たちと出会う。
この辺りから少しずつ魔法の制作チートを使って、食べていけるようになる。
元新選組八番隊、隊長の藤堂平助とミヨン夫婦に出会ったことは、珠美にとって大きな転機となったようだ。
平助の息子夫婦である、聡とバーバラが始めた雑貨屋、ポコットに関わることになる。
雑貨制作のチートが爆発したのはこの頃だ。
牧場経営者のサミーと出会い、野草だけではなく肉も食べられるようになる。
羊毛を購入できたところから、思わぬことに雪男のグルとも親交を結ぶ。
親交といえば、エルフのセレンの縁から船を貸し出してもらった。
トルーサ山の小人族に出会い、木材を確保し、温泉にも入った。
リザン町の魚屋と知り合ったことから、魚も安価で手に入れられるようになる。
そして仕入れに訪れたハーフェンの港町で、大魔法使いのゼス・ダンバールと会う。
統一呪文を習得する時に変身し、その後ゼスに魔法の教えを受けた事は、これからの珠美の人生にとって、どんな影響が出るのだろうか。
今回は、聖女ローレンとも知り合った。
セレンの誘拐事件も含めて、また新たな展開がありそうだ。
珠美が始めた農業はまだほんの初期の段階だが、これから5月を迎え、より充実した農作業の日々が待っていることだろう。
珠美の異世界生活は、これからもまだまだ続きそうである。




