茎踏みと新たな友
畑のゴボウは本葉が5枚以上になり、背も高くなってきた。
よしよし、ここで「茎踏み」をしておきましょうか。
コボウは茎踏みをした後に、いち早く元に戻ろうと立ち上がった株を間引きしなければならない。
そんな下手に元気な株は、又根になっていることが多いのだ。
ごめんね~
軽く踏むからね。
ひどく茎を傷つけないように、珠美も加減してゴボウの列を歩いて行った。
畑の仕事が終わると、珠美は久しぶりにデルム村に買い物に行くことにした。
「何で今日いくの? エルフの船はまだ帰ってきてないよ」
ペロルは船が帰ってきてから買い出しに行くのだと思っていたらしい。
「暖かくなってきたから合い物のシーツの布が欲しいのよ。それに調味料も買い足したいし。あ、調味料といえば小人族に頼まれたカレー粉を買うのを忘れてたわ。ほらぁ、やっぱり行っとかないとね」
「ペロル、珠美は『身体強化』や『飛行』の魔法を試してみたいんじゃニャい?」
ミーニャには珠美の思惑はバレバレである。
「あ、僕は留守番でぇーす」
聞いてもいないのにゼスは手をひらひらと上げて留守番をかってでた。昨日のピクニックがだいぶ堪えているらしい。
ということは、ミーニャとゼスは留守番ね。
ペロルと一緒に村へ向かって歩き始めたのだが、大川の土手までくると珠美は魔法で『身体強化』をした。
「ペロル、かけっこの勝負をしない?」
「えー、珠美が僕に勝てるのかなぁ」
「ほほう、ちょっと身体が大きくなったからって、いやに自信満々じゃないの」
いざ尋常に勝負勝負。
土手の上を笑いながら競争して走っていると、周りの風景がビュンビュン後ろに飛んでいく。
気持ちいいー
「ひぇ~、珠美、すげー速い」
「ホホホ、追いついてごらんなさい」
「よぉーしっ!」
調子に乗って走っていたら、サミー牧場へ下りる所を通り過ぎてしまっていた。
あらら、さっきの坂を降りるんだったわ。
珠美は『飛行』を使うことにした。片足でポーンと地面を蹴ると、空を歩くような感じで土手の下の道に向かって降りていく。
んふふ、スリル満点ね。
ペロルは珠美の後を追って、転がり落ちるように土手を降りてきた。
「ズルいよ。競争してる時は『飛行』は禁止だよー」
「ごめんごめん」
ペロルと二人でじゃれ合っていると、遠くで馬のなき声がした。振り返ると、こちらに駆けてきているサミーの姿が見えた。
あら、サミーさんじゃない。五日前に会ったばかりなのに、なんだか久しぶりな気がするわね。ちょうどいいから花祭りの日の待ち合わせ場所を聞いておこうかしら。
「珠美さぁ~ん、良かった。お訪ねしようと思っていたんですよ」
「花祭りのことでしょ? 私も時間や場所を聞いとこうと思って……どうかされました?」
近くにきたサミーがひどく驚いた顔をして珠美の方を凝視している。
サミーだけではなくて、彼が跨っている馬もこちらを呆れた顔をして見ているような気がする。
「サミーさん?」
「珠美、変身したことをサミーはまだ知らなかったんじゃない?」
ペロルに言われて気が付いた。
そういえば、変身したのはサミーが帰った後だったかもしれない。
「ホホホ、驚かれましたよね。ちょっと魔法上の手違いがありまして、14歳ほど老けてしまいましたの。これではタングさんを誤魔化すためのデートは無理ですわねぇ」
「………………」
「ちょうどよかったです! 村でサミーさんにお似合いの方を探させてもらおうと思ってたんですよ。今日にでもミヨンさんに聞いておきますね~」
「……えっ? あの……」
「それでは、またー」
珠美は『身体強化』魔法を使って、サミーの前をサッサと逃げ出した。
ひー、恥ずかしすぎる。
15歳じゃなくなってたのをすっかり忘れてしまってたわ。
こんなおばさんが15歳のシャリナ・タングのライバルになれるわけがないじゃない、ねぇ。
サミーと神様の使徒である馬のニームは、未だ信じられない思いで珠美たちを見送っていたが、珠美が走っていくスピードがおかしいことにも徐々に気づきつつあった。
「諦めなさい、サミー。あの人は魔法使いの中でも規格外過ぎるわ」
「……いや、しかし…………」
そんな会話が後方でなされていたのだが、もちろん珠美たちには聞こえていない。
「そろそろスピードを落とさないと、村の道では危ないよ」とペロルに言われ、珠美は『身体強化』を止めて、普通の足取りで村の中に入っていった。
村の広場にやって来た時、教会の中から大勢の人たちが出てきているのが見えた。
何か、会合でもあったのかしら?
珠美たちが村の店に向かっていると、どこかで見たことがあるようなおばさんが、珠美を手招きしていた。
「あんた、魔法使いの新人さんだったよね。あれ? 見た目がちょっと……」
「あー、魔法でちょっと老けちゃいまして、ホホ。でも新人の魔法使いで間違いないですわ。珠美といいます」
「よかった、やっぱりアルマの知り合いの珠美さんだった。覚えてるかい? 私はそこの宿屋のマーサだよ」
「ああ、ベッド&ブレックファーストの!」
珠美が村で初めて商売した時に、郵便馬車のトロールが泊まっていた宿屋のおかみさんだ。
マーサは側にいた若い女の人を大きな手で前に押し出して、珠美に紹介してくれた。
「教会の裏にとんがり屋根の小さな家があるだろ? この子はあそこに住むことになったローレンというんだ。あんたと同じ新人魔法使いでね、まだ転移してきて間もないそうだから、仲良くしてやっておくれ」
「ローレン・スチュワートといいます。地球のイギリスからやってきました。ここでは22歳になっているようですが、享年は46歳でした。よろしくお願いします」
「あ、私は同じく地球の日本からきた珠美といいます。享年は……ちょっと忘れかけていますが、たぶん60歳前だったと思います。今は29歳です。こちらこそ、よろしくお願いします」
挨拶をしながら、珠美はワクワクドキドキしていた。
きたきたきたー!
これ、この人、サミーにぴったりじゃない?!
ペロルの方を見おろすと、ペロルもニヤリと笑って珠美を見上げていた。




