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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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ハーフェンの港

鉄火丼に新鮮なすりおろしワサビをちょいとのっけて、とろみのあるお醤油をまわしかける。


「……かー、美味しすぎるぅ~」


昨夜はネギトロのお寿司を食べたのだが、今日の昼ご飯は鉄火丼だ。

超豪華なマグロ三昧の日々である。


「し・あ・わ・せ」


「よく食べられるね、珠美。さっきまで急流下りでキャーキャー言ってたくせに」


「あら、そういうペロルも、もうペロリと食べてるじゃない」


「僕は、あの船に慣れてきたからね」


珠美とペロルはエルフの船に乗って、例のバトック川を下ってきている。

今は、小人がいるトルーサ山の横を通り過ぎて、もう少し河口近くまで下ったところにある河原に船を着け、お昼の弁当を食べているところだ。



行商人のウノスは陸路を通って海産物を運んでいたようだが、珠美たちはエルフの船があるため、少し遠回りではあるが川を利用することにした。


「珠美が馬を用意しなくていいって言ったら、あの魚屋のおじさんは驚いてたね」


「うん。でもトランスも新しい馬を用意しなくて済んで、助かってるんじゃないかしら」


馬やマジックバッグを持った魔法使いが必要だから、どうしても魚の代金が跳ね上がるのよねぇ。


「でも、ミーニャは仕事が増えたことを愚痴らなかったね」


「それはなんせ扱ってるものが……」


「「魚だから!」」


ミーニャの現金さには笑ってしまう。

珠美の職業が増えるといつも呆れていたが、今回に限っては目を輝かせて「それって、すっごい職業じゃニャい!」と褒めてくれた。

食欲の前には、人だろうと猫だろうとすべての生きとし生けるものが(こうべ)を垂れるということのようだ。



昼食を終え、再び船は走り出した。

バトック川の川幅は徐々に広がっていき、中州を利用して架けられた大きな橋をくぐりぬけると、前方に潮止めの(せき)が見えてきた。


「わわわ、まさかあの堰を飛び越えるつもり?」


けれどエルフの船は、今回は大人しく岸辺に向かうと、そこに留まった。


「そういえば、この船って、川専用だったかも」


そうか。

この船を借りた時に、セレンがそんなことを言ってたね。


「ということは、ここから港までは歩いて行かないとだめなんだね」


「じゃあ、船には橋のたもとで待っててもらって、街道を歩いていこうよ」


ハーフェンの港はバトック川よりも北側にあると聞いていたので、船を北岸につけてもらい、珠美とペロルは土手を登っていった。


街道にはガラガラと音を立てて馬車が行きかっていた。

それに結構な人通りだ。

荷物を山のように乗せた荷車を引く男たちがいる。すごいスピードで伝令を伝えに走っていく男もいた。子ども達もあちこちでかけまわっているし、ほっかむりをした行商姿のおばさんたちは、日に焼けたたくましい姿で大きな荷物(かご)を背負い、のしのしと歩いている。


珠美がこちらの世界に来てから、まだ見たことがない大勢の人だ。


「港町って、賑やかなんだね」


「そうだね。あ、珠美、あそこを見て! すっげー大きな船が入ってきてる」


海の方を見ると、巨大な帆船がしずしずと海の上をすべり、陸へと近づいてきていた。

入港準備をしているのだろう、せわしなく看板の上を動き回っている船員の影が小さく見える。


へえー、ああやって帆をたたんでいくんだね。


「あれくらい大きな船だと別の大陸まで行けるのかしら?」


「たぶんね。ケトラ大陸の船は、ハーフェンの港にも来てるんじゃないかな」


「ケトラって、ダンジョンがあるところだっけ?」


ペロルは珠美の質問に首を振った。


「違うよ、それはウノス大陸。ケトラ大陸は王国や皇国なんかが多いんだ」


「ああ、王様とか貴族がいるところね」


この世界に来たばかりの頃、ペロルに教えてもらったことを思い出す。

珠美のいるこのカーント大陸は議会による民主制らしいが、王が治めている国が多いケトラ大陸では、いまだに君主主導の封建制がしかれているらしい。



珠美たちがハーフェンの港町の中心部に着いた時、大きな宿屋の前で何か揉め事が起こっていた。

どうやらあまりに大勢の人が急な宿泊を頼んだために、宿屋の受付ともめているようだ。

大きな声が街道を行き交う人たちの耳まで届いてきた。


「だーかーらぁ、護衛と姫様を分けて泊まらせるわけにはいかないの!」


「はぁ、そのように言われましても、予約がありませんと部屋数が揃えられないんです、はい。他をあたっていただくしか……」


それは宿屋がそういうのも仕方がない状況だよねぇ。

しかし権力のごり押しが通ると思っているお付きの人は、今泊っている客を他の宿へ移動させろとまで言い出していた。


わ~、ここの宿の人もお気の毒だなぁ。


珠美がそんなことを考えながら側を通り過ぎようとしていた時、姫様御一行と思われる集団の中に見知った人影を見つけた。


「あれ?」


どうやらその人物も珠美のことがわかったらしい。


「わぉ、やっぱりきたのねタマミ。あなたを待っていたのよ」


銀色の髪をさらりと揺らして、エルフのセレンが珠美の側にやって来た。

しかしなぜかセレンの腕は後ろ手に縛られており、縄を握っていた屈強な男が珠美の方をジロリと(にら)みつけている。


これっていったい、どういう状況なわけぇ??

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― 新着の感想 ―
[良い点] 食欲の前には、人だろうと猫だろうとすべての生きとし生けるものが頭こうべを垂れるということのようだ。 ↑↑ そして世界は動いていくのだ~\(゜∀゜)/(笑)
[一言] マグロは足が早すぎるのでなかなか美味しくは食べられないのですよね。 そういういみで醤油という調味料は偉大です。 もっともとってその日に食べるのが普通だった縄文時代ではマグロもたくさん食べ…
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