カイン
バーバラのインテリアセンスは、やはりプロ並みだった。
新築の家では、部屋ごとのテーマや色合いがもう決められてあり、壁紙やカーテンなどがそれぞれに用意されていた。
主寝室は落ち着いたアースカラーだったし、応接間は地球でいうところの格調高いヨーロピアン調で、リビングダイニングは明るいカントリー風になっていた。
「わー、この壁紙、いいですねー」
珠美は、主寝室でお腹の『収納』からキングサイズのベッドを出すと、灰色がかったダークグリーンのつる草が描かれた壁紙に触ってみた。
表面に少し凹凸があるので、光の加減で陰影ができていて、高級感が漂っている。
壁の下の方に濃いこげ茶の腰板がぐるりと貼ってあるのも、珠美の好みだ。
「ふっふっふ、いいでしょう~ この壁紙はちょっと奮発したのよ。向こうの家は若い時に建てたから、インテリアが若者風で、ここのところ落ち着かなかったのよ。新しい家はそのへんを考えて、終の棲家に相応しい雰囲気にしてみたのよねー」
「さすがですねぇ。私も、もうちょっと家に手を入れたいな」
「これからよ、珠美。うちのバイトを辞めたら、少しは時間が取れるんじゃない?」
「そうですねー」
職業欄が増え続けている珠美に、そんな余裕のある時間が取れるのは、いったいいつになることだろう。
ちょっと遠い目になった珠美だった。
リザン町の聡たちの新しい家では、珠美の参戦もあったからか、思っていたよりも早く引っ越しの荷物が片付いたようだ。
後は、細々した整理になってくるので、お手伝いの珠美たちはもうお役御免といったところだろう。
珠美は、聡とバーバラに今日の納入商品を確認しておいてもらうことにした。
「これが追加注文の木工製品です。けん玉以外は4個ずつでしたよね」
「そうよ。だけど、もうできたの?」
「ええ、一度作ると複製するのは簡単なんですよ。それでこっちが、バーバラさんが言われてたカントリー風の作業着とエプロンです。エプロンの方は、男性用やフリルのついた女の子用の物も作ってみました」
「へぇー、いいじゃない! 珠美はやっぱりデザインセンスがあるわ」
バーバラは喜んで服を広げて見てくれている。
ソードとランスは、珠美が机の上に出した木のおもちゃに飛びついていたが、聡とカインは男性用エプロンを腰に当ててみて、お互いに見せ合いっこをしていた。
「男のエプロンなんてと思ったけど、これはカッコいいな」
「ですね、黒や紺色を使ってるし布地がゴツイから男がつけても違和感がないですね」
金髪のカインが黒のギャルソン風エプロンをつけると、スマートできまっている。
できたら上はチェックのシャツじゃなくて、白シャツを着てもらいたいな。
聡がすぐにカードの機械を使って、納入商品の精算をしてくれた。
「珠美さん、僕たちはもう少し家の後片付けが残っているから、この商品はまたお腹の『収納』に入れて、店の方に運び込んでおいてくれる? 後から値札をつけるから、休憩室の机の上に置いといてくれたらいいから。今日はその作業を終えたら帰ってくれてかまわないからね」
「はい、わかりました」
聡さんと話をしていたら、バーバラが横にいたカインに目配せするのが見えた。
「僕が店の鍵を預かってますから、一緒に行きますよ」
「カインは帰り道だから、送ってもらってね、珠美」
どうやら、聡夫婦とカインとの間で話がついていたらしい。
「ありがとうございます。それじゃぁ、聡さん、バーバラさん、短い間でしたがお世話になりました」
「とんでもない! お世話になったのはこっちよ!」
「これからも商品の制作の方は頼むよ。それに店が開店したら、遊びにきて」
「はい!」
一つ、仕事が終わったな。
アルバイトとはいえ、何かを始めるお手伝いは面白かった。
そういえば最近は山に行けてないな。トルーサ茶の仕入れもあるし、小人たちのところに顔を出しとくかな。みんな元気にしてるかしら……
「……さん、珠美さん、聞こえてる?」
あ、考え事をしてたらカインさんが話しかけてくれてたみたいだ。
「すみません、ちょっとボ~っとしてました」
「疲れたんでしょう。あんなに魔法を使い続けたら、普通はぶっ倒れてると思うな」
「はは、そうですね」
「珠美は普通じゃないけどね」
「もう、ペロル!」
ペロルが走って逃げていく後姿を、カインはなにか考えながら見ていた。
「あの犬……ペロルくんのことだけど、最近、うちの庭を覗いてた犬によく似ているんですよ」
「え?」
「たぶん、珠美さんがポコットでアルバイトをしている時に、連れてこられていたのかな? うちはポコットのちょうど裏手になるので」
「ええっ?」
「うちにも犬がいるんですよ。ミラーマっていって、ペロルくんと同じ柴犬なんです」
「えええーー?!」
うわっ、もしかしてこの人ってペロルの思い犬の飼い主さんなの?
「そ、そうなんですか。ペロルがご迷惑をおかけして、すみません」
「ハハハッ、そんなに恐縮しなくてもいいですよ。うちのミラーマも気にして窓の側から動かなかったりするんで、意外とペロルくんのことを好きなのかもしれません」
「はぁ、それは……光栄です?」
「プッ、珠美さんて面白い人だなぁ。女の人なのに年齢を……気にしないし。それに、あのエルフの船に平気で乗っているし」
「いえ、私も今日のスピードにはまいりました」
「あのスピードに耐えられる人間はいませんよ、死ぬかと思った。僕もスノーマンの船には一度乗せてもらったけど、エルフの船はそれよりももっと早いですね」
え? スノーマン?!
「船って……もしかして、グルさんのことですか?」
「グル? すみません、スノーマンにも個別の名前があるんですか? 昔からみんなあの雪男のことをスノーマンって言ってたから、それが名前だとばかり思ってました」
「ふふ、たぶんグルさんのことね。私もバーバラさんから紹介してもらったんですよ。うちで農作業の手伝いをしてくれて、毛糸を大量に買っていってくれました。いい人ですよね、彼」
「いい人か……珠美さんは、彼が怖くなかったんだね」
「ええ。最初に窓からのぞかれた時には驚きましたけどねー」
思い出し笑いをしている珠美のことを、カインは自らを嘲るようなどこか苦し気な表情をして見ていた。
カインというこの男は、どうやらこれからも珠美に関わってきそうである。




