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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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お出かけしましょう

窓の外が明るくなるのを布団の中でじっと待っていた珠美は、部屋の中の様子が見えるようになるとすぐにベッドから起き出した。


「ニャ? もう起きるのぉ~?」


ミーニャはまだ眠そうだ。


「まだ寝てていいよ。私は病院生活に慣れてるから早く目が覚めちゃったのよ」


珠美が入院していた病院では、四時にはもう朝の活動が始まっていた。同室の患者の中には三時半頃には起きだしてくる人もいたくらいだ。

もともと夜更かしのクセがあった珠美は、入院したばかりの頃、そんな病院の習慣に困惑したものだったが、日を追うごとに早寝早起きのリズムが身体に浸透していった。

今では苦も無く早起きすることができる。



「さぁ、朝ご飯を作ろうかな」


手早く服を着替えて、冷たい井戸水で顔を洗うと、元気が湧いてきた。

朝の空気は澄みきっていて、清々しい。

林から聞こえ始めた鳥の鳴き声は、お日様が昇ってきていることをみんなに教えてくれていた。


昨日炊いたご飯がまだ残っていたので、お湯でふやかして即席のおかゆにする。

その後でお弁当を作るために、新たに米を洗って、お釜をクドに仕掛けた。

もう一つのクドでジュワッと音をたてながら目玉焼きを焼いた。これは後半にお湯を少し入れて蒸し焼きの半熟にするのがコツだ。

つくしの卵とじとおかゆ、それに出来立ての目玉焼きで朝食だ。


ふふ、美味しいな。


珠美がクドの側でご飯を食べていると、ミーニャとペロルも起きだしてきて、川に水を飲みに行っているのが見えた。二人とも食料は林の中で調達するようで、こちらを振り返って珠美に異常がないことを確認すると、木々の間に駆け込んで行った。


ここでご飯にすることが多いから、ガーデンテーブルと椅子を置いたらどうかしら。

今、珠美は薪の束に腰かけて、昨日、つくしのハカマを取るときに持ち出してきた丸椅子をテーブルにしている。これでも役をなしているが、できたらテーブルでゆったりと食事をとりたい。

それに目玉焼きに醬油をかけたものも子どもの頃を思い出して懐かしかったが、どちらかというと珠美はソースで食べる方が好きである。

村の店にソースが置いてあるといいな。

それからおかゆには梅干しとたくわんよね。なんでもいいから漬物が欲しいなぁ。これも手作りしなきゃ。


こういう暮らしはスローライフと言われているが、欲しいものを連ねていっていると何かと気忙しいものである。


漬物は、大根と昆布、それに鷹の爪、塩、酢、砂糖などの調味料でなんとかなりそうだったので、朝食の後で作ってみた。

千枚漬けほどの薄切りはできなかったが、カブではなくて大根でも似たような味にはなるだろう。


そうしているうちにご飯が炊きあがったので、お弁当用に塩むすびを握り、残りをお(ひつ)にとって布巾をかけておく。

これは屋内の涼しいところに保管しておくつもりだ。


お弁当のおかずは、砂糖を利かせた甘めの玉子焼きとつくしの佃煮(つくだに)と大根の漬物になった。

弁当箱が見当たらなかったので、小さめの(おけ)に入れて、手ぬぐいで包んでいくことにした。

漬物のほうはしっかりと水気を切ったが、それでもまだ汁気が出そうだったので、クマザサを採ってきて入れ物を作ってみた。

お箸もここで使っているものを持っていくことになるが、これもお弁当用に手作りしておきたいなぁ。



出かける準備ができたので、小屋からリヤカーを出していたら、ミーニャとペロルが帰って来た。


「ニャ、村へ行くのね。いってらっしゃい。帰りにサミーの牧場へ寄って、ムー乳を買ってくるといいニャ」


「あら、ミーニャは一緒に行かないの?」


「私はここで留守番してるニャ」


どうやらミーニャは一時間も歩いて行くのが嫌らしい。ペロルが後でそう教えてくれた。



珠美はリヤカーを引いて、ペロルと一緒に歩き始めたのだが、川土手の上の道は思ったよりも狭かった。

リヤカーの幅が道幅と同じくらいなので、土手の下の道にくだって降りるまでは、川に落ちないようにと神経を使った。


やっと土手から降りた所は、牧場の外れだった。


「ここがサミー牧場なのね」


「うん、サミーは前世でも牧場をしていたらしいよ。従業員も五人いるから、手広くやってるみたい」


「へぇー」


牧場のほとりの道を村に向かって歩いている間中、いかにも牧場だなという臭いがずっとしていた。

牛のようなムーだけではなく、馬や羊などもいるようだったので、もしかしたらあそこに見える小屋の中に豚もいるのかもしれない。

肉や羊毛も分けてもらえるのだろうか?

ミーニャは『肉は林の中にたくさんある』と言っていたが、最初はハードルが高すぎる。大自然での狩りはこの世界に慣れてからにしよう。



サミー牧場を通り過ぎて、なだらかな峠を抜けると、やっと村の家々が見えてきた。

建物の雰囲気としてはヨーロッパ調のレンガ造りのものが多いが、所々にアジア風の木造建築があったり、見たこともないようなドーム型の家もあったりして、異なる文化を持った人たちが寄り集まっていることがよくわかる。


デルム村に入ってしばらく行くと、やっと村の中心地のような広場に着いた。


石畳みが敷きつめられた広場には中央に水が湧き出ている小さな噴水があった。ペロルがすぐに水を飲みに行ったので、珠美も飲んでみた。


「うわぁ、冷たい! ずっと歩いてきたから、これは美味しいわ」


「だよね。この湧水があったから、ここに村ができたんだってさ」


珠美たちが湧水を堪能していると、後ろから声をかけられた。


「こんにちは。もしかして地球からの新人さんかな?」


珠美が振り返ると、そこには日本人っぽいおじいさんが立っていた。そばには年老いたラブラドールが座っている。


「こんにちは。そうです、地球の日本から昨日やって来ました」


珠美が応えると、おじいさんは急に目の色を変えて、(かつ)えたように珠美の顔を見てきた。


「おおー、日本から! 初めてじゃ、この世界に来て初めて日本人に会えた」


おじいさんのあまりの興奮ぶりに、戸惑ってしまった珠美だったが、この後、詳しい話を聞いてそう思う気持ちがわかった。

おじいさん、以前は藤堂平助(とうどうへいすけ)さんという名前だったそうだが、ここではヘイと呼ばれているそうだ。


どうもこの人とは、これからお付き合いが始まりそうな予感がする。

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