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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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アクセサリー

村の雑貨店の扉を開けると、スパポーンさんとトロールが話をしていた。

今日は郵便馬車が来る日だったんだな。


珠美の姿を見ると、即座にトロールが声をかけてきた。


「やぁ、お嬢さん。また会ったね」


「こんにちは。お久しぶりです」


「君はリザン町に進出したらしいね。もう少しの間、僕たちを儲けさせてくれるかと思ってたよ」


スパポーンさんが聡の店のことを話したのだろう。トロールは片手で鼻の下の髭を伸ばしながら残念そうにそう言った。


「すみません、そういうことになりました。ただ、これから植える農作物や山の収穫はこちらにも持ってきますので、よろしくお願いします」


「可愛い子にお願いされちゃうと、我慢するしかないねぇ」


「トロール、タマミに絡むのはいいかげんにしな。タマミ、無理はしなくていいからね。私としたら、たまに買い物に来てくれるだけでいいんだからさ」


「ええ、ありがとうございます。それで、アルバイト料が入ったので、さっそく買い物に来ました」


「よしきた。今日は早めにトロールが来てくれたから、今なら何でも揃ってるよ」


スパポーンさんはトロールをグイッと押しのけて、レジ台から出てきてくれた。

トロールはしぶしぶ脇によって、仕方なくさっきまでしていた納品書の確認に戻った。


「今日は家のカーテンを作る布が欲しいんです。それからいろんな色の糸と……和紙、ええとここでは何ていうんだろう、手芸や工作用に使う綺麗な紙はありますか?」


「ああ、あるよ。滅多に出ないんで奥の倉庫に入れてるんだ。布と糸を選んだらそっちに案内するよ」


「そんなものを買って何をするの?」


「トロール! あんたはその仕事を済ませちまいな! 今日、早くきたのはシャリナを口説きにいくためだろう」


「ハイハイ、あー怖い。お嬢さんもアルマみたいなたくましい女にだけはならないようにね」


「チッ、あんたは余計な一言があるから、モテないんだよ」


クスクス、この二人のやり取りを聞いていると漫才でも見てるみたいだ。

長年の付き合いというやつだろう。



まず、明るいグリーンの布とドット柄のレースのカーテン生地を選んだ。そしてカラフルな色彩の刺繍糸や縫い糸も買い込んだ珠美は、スパポーンさんに連れられて、奥にある店の倉庫にやってきた。


「へぇー、こっちにこんなに広い倉庫があったんですね」


扉を開けると、テニスコートを二面は作れそうな広い土地がある。そこには溢れんばかりの雑多な物が詰め込まれていた。


「タマミが言った綺麗な紙なんかは日焼けすると商品価値がなくなるからね。こっちの保存魔法がかかった倉庫に入れてるんだよ」


「なんだか宝物がいっぱい詰まった洞窟みたい」


「ハハッ、そう言われればそうだね。私は色んなものを集めるのが好きでね。それが高じてこんな商売をしてるのかもしれないねぇ」


スパポーンさんは商売を始めた頃のことを思い出してでもいるかのように、懐かしそうな顔をしてぐるりと倉庫を見渡した。そして脚立を出して、棚の高い所に入っていたたくさんの紙の束を下ろしてくれた。


「わー、綺麗! この光沢のある色紙は使えそう」


和紙のような手触りの紙があったので、上品な水色や少しラメが入ったようなピンク、紫の濃淡があるものなど、たくさんの上質な色紙を珠美は次々に選び出していった。


「そんなに買うのかい? こういう紙はカードを送り合う生誕祭の頃にしか売れないんだよ。トロールじゃないけど、何に使うのか気になるね」


「ふふふ、この紙でアクセサリーを作るんです」


「はぁ? 紙でアクセサリーが作れるのかい? すぐに破けるんじゃないの?」


「その辺りは魔法と日本に昔から伝わっている技術で処理します」


「へぇ~、たぶんサトくんの店に卸すんだろうけど、どんなものができたのか、一度見せて欲しいね」


「いいですよ。また、持ってきますね」


珠美は、産まれたばかりの孫のおくるみを作ってやろうと毛糸を買いに行った時に、たまたま手芸用品店で見かけた『ミズヒキ』アクセサリーを作ろうと思っていた。

祝儀袋や結婚の結納の時に使う、あの水引(ミズヒキ)だ。

亀甲(きっこう)の形のペンダントや、梅の形の中に真珠を入れたイヤリング、松の形の髪留めなどがあったかな。古くからある形を現代風の洗練されたデザインにアレンジしてあって、とても素敵だった。


値段がちょっとお高めだったから、下手に作って失敗したらと思って、買えなかったのよねぇ。

でも、今の自分には魔法の後押しがある。

挑戦してみる価値があるでしょう。



いい買い物ができたので、家に帰った珠美はさっそくミズヒキ・アクセサリーを作ってみることにした。


聡に預けられた重たいダンボール箱を出して、安くて軽い合金でネックレスのチェーン、それにイヤリングやバレットの留め具を作っていく。

最初は想像力が足らず、『金属加工』魔法がうまく発動できなかった。けれど不格好な物でも一つ作ってたたき台ができると、改善する部分だけに集中すればいいので、次からはすぐにいい物が作れるようになった。


チェーンを作る時にも捻じってみたり、輪っかの形を変えてみたりして、色んな種類のものを作ることができた。これはデザインに合わせて使えばいいだろう。


ストラップは、まず金具を作り、刺繍糸をミサンガのようにより合わせて、飾り紐にも工夫してみた。

うん、これならカバンにぶら下げられるから、女子学生にもウケるかもしれない。



紙の水引の方は、こよりをよって紙の細長い棒を作り、それに金銀の糸や綺麗な色紙を巻いて装飾して使う。

耐久性を持たせるために、のりで固めた後、念のために保存魔法をかけておいた。

この保存魔法は家に帰ってから習得したものだ。


『保存』・・・【マモリ タマエ コノママニ】


この魔法は、手芸をする時だけでなく、これからの生活にも使い勝手が良さそうだ。



水引で作る基本の淡路(あわじ)結びは、ユーチ〇ーブを何回も観て覚えていたので楽勝だ。

これを応用していったものが梅や松、それに亀甲型になっていく。


まずはストラップを作って腕ならしをして、その後でアクセサリーをいくつか作っていたら、楽しくなってしまった。

何個か作っていくうちに手馴れてきて、満足がいくものが作れるようになってきた。


淡いパール紫の紙で作った梅の形のミズヒキに、中央に小さなクズ真珠を何個もつけて、下に垂れ下がるようにティアドロップ型の真珠をあしらったイヤリングは、いくつか作った中でも渾身(こんしん)の出来だった。

これはいいわ~

ちょっと私も欲しいかも。

これだけはちょっとお高めの銀を使って台座をこしらえてみた。

おー、上品な感じ。店のショーケース用に一つぐらい高いものでもいいよね。


ポコットの店が開店した後、このイヤリングをあのダニエラ・エイブンザークが買ってくれたことで、珠美は一躍有名になってしまうのだが、この時の珠美はそんなことはまだ知るよしもなかった。

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