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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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羊毛

今朝の畑仕事はニンジンの間引きだ。


白い朝もやが漂う中、珠美は葉っぱについていた(つゆ)の冷たさを指先に感じながら、ツンツンと伸びているニンジンの細い双葉を間引いていった。

双葉の間には、もうやわらかいフリルのような本葉が出てきていて、春の湿った空気をふんわりとまとっている。

こんな朝には、畑の野菜たちもどこか幻想的に見える。



朝ご飯は、塩気を効かしたシャケフレークを入れた大きな塩むすびにした。ジャガイモとワカメの味噌汁を作って、きゃらぶきも『収納倉庫』から出して並べる。


「おいひい~」


おにぎりというものは、どうしてこんなに美味しいのだろう。

塩気の効いた爆弾のようなご飯をほおばって、味噌汁をゴクンと一口飲むと、幸せが頬っぺたの中を駆け巡る。



朝ご飯が済むと、洗濯や掃除をサッとすませて、真新しい黄色いシャツを羽織る。

ふふ、新品の服を着ると気分が浮き立つな。

町へ出かける前に、珠美は朝の慣例になっている魔法習得をしておくことにした。


何にしようかな。

温泉を作る時に困ったから、今日はやっぱり『建築』魔法よね。


けれどミーニャの意見は違ったようだ。


「店の商品を陳列する手伝いをするんなら『念力』をとっておくと便利ニャ」


「そうなの? 『収納倉庫』でも運べるよ」


珠美の意見に、ミーニャはノンノンと首を振った。


「お店の商品を自分の倉庫に入れたり出したりしていたら、珠美にはそんなつもりがなくても泥棒してると思われちゃうニャ」


なるほど~


魔術書を読んでみると、両方取れそうだったので、二つの魔法を習得しておくことにする。


『建築』・・・【トントン カンカン タテマショウ】

『念力』・・・【ネン ネン リキ リキ】


また手作り魔法と生活魔法だ。

魔法というのは、日常の生活を助けるために産み出されたのかもしれないな。



注文を受けた熊手などを納入するため、珠美はまずサミー牧場へ寄ることした。


ポレーヌ川はもやにすっぽりとおおわれていて、エルフの船が進む波音もどこか知らない世界の中にスッと消えていくような気がする。シーンとした静けさが辺り一面を支配していた。

どこかで魚が跳ねるポチャンという音がするのだが、視界は真っ白で何も見えない。こんな天候では、この船でないと、とても航行できないだろう。


牧場の(はしけ)に着いたことも、よくわからなかった。

先にペロルが船から降りたので、すぐ後を追いかけるようにして、珠美はゆっくりと川土手を登っていった。


「どこもかしこも真っ白になってる。どっちに行ったらいいの?」


「馬のいななきが聞こえるから、たぶんあっちが厩舎だよ」


ペロルの耳には、微かな鳴き声が聞こえているようだ。

先を行くペロルを見失わないようにして、珠美がおそるおそる進んでいくと、もやの中からやっと見たことがある厩舎の建物の影が表れてきた。

それと同時にようやく珠美にも、生き物がゴソゴソと動いているようなあたたかい音が聞こえてきた。


やれやれ、やっと人が住んでる下界に降りてきたって感じ。


馬の運動場の柵を目当てにしながら、今度は牧場の事務所を目指していると、突如としてもやの中から大柄な人間の影がヌッと進み出てきた。


「わっ、なんでこんなところに突っ立ってるんだ?! ぶつかるじゃないか!」


……ゴルジさん。

それはこっちのセリフだよぉ。心臓が喉から飛び出るかと思った。

ああ、びっくりした。


「おはようございます。今日は先日、注文を受けた竹の熊手と箒を持ってきました。サミーさんは……」

「こ、ここにいます」



見えなかったけれど、ゴルジの後をサミーがついて来ていたようだ。


「早くできたんですね。竹を曲げたりするのに、もっと時間がかかるかと……その、思ってました」


たぶん、実際に作業すると3~4週間ぐらいはかかるのかもしれない。


「魔法で作ったので、早くできました。それで、そのぅ……こちらの小さい熊手の方は、厩舎の餌場の掃除や垣根の下の落ち葉掻きとか、それに溝掃除にも使えるかもしれないと思って試しに作ってみたんです。ゴルジさん、使ってみてもらえますか?」


「あ、ああ。しかし姉ちゃんは商売人だな、いい心意気だぜ」


やったー! ゴルジさんに褒められちゃったよ。


「歳のわりには、ずうずうしいがな」


あら。

でもまあ、使ってくれるのならいいか。

ゴルジのいかつい顔の筋肉が、少しだけ緩んでいるように見える。

この提案は、悪くはなかったのかもしれない。


「あのぉ、それでは代金の精算をしますので、事務所の方に来てもらえますか?」


「はい。あ、そうだサミーさん、バターとチーズがあったら売ってもらえますか? それに毛糸を作りたいので、羊の毛を刈ったら分けて欲しいんですが」


珠美が羊のことを尋ねると、サミーはパッと顔をほころばせた。


「昨日、最初の毛刈りをしたばかりですよ。何トン持っていきますか?」


「トン?! そんなにたくさんあるんですか?!」


「そりゃあいくらでもあるぞ。うちに羊が何頭いると思ってんだ」


ゴルジにそんな風に言われたが、珠美としてはどのくらいの量を毛糸にするのか、何も考えてきていなかった。

珠美がここで買ったら、後の羊の毛は全部、農業協同組合に卸してしまうと聞いたので、収納するところはあるし、多めにもらっていくことにした。

毛糸の玉や、毛糸で編んだものをポコットの店に売れるかもしれない。

たくさん仕入れても、自分の冬服にも使えるし、まぁなんとかなるでしょう。


この後、珠美はもっと仕入れとけば良かったと後悔するのだが、この時点では信用買いをして1トン仕入れるなんて途方もない掛けだと思っていた。

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