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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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大根の間引きとトルーサ山

昨日は家に帰るのが遅くなったので、朝、干していた作業着が夜風に吹かれて冷たくなっていた。


今日は洗濯を室内に干しておくことにする。

これはいよいよ室内物干し場を作らないといけないな。


洗濯がすむと、珠美はいつもの畑の見回りに行った。

今日は大根の一回目の間引きをしておくつもりだ。


大根の皮の表面には細い根が生えている点々が一列になって付いているが、ここから養分を吸収しているそうだ。反対側にもこの点々があって、この点々の向きが大根の双葉の向きと同じ方向になる。

つまり肥料がある方向に向いている双葉の株を残しておくと、効率よく肥料を吸収させることができる。


珠美は株と株の間に追い肥えをする予定なので、なるべく畝と同じ方向に双葉が出ている株を残して、弱そうなものだけ間引きをした。


小さな可愛いカイワレ菜を見ていると、珠美の頭の中に大好きな食べ物が浮かんできた。

今夜はこのカイワレ菜を生かす料理を作ることにしよう。



だがまずは朝ご飯だ。

昨夜はご飯を炊かなければならなかったので、簡単にできるカレーライスにした。カレーはまだ余っているので、山でお昼ご飯に食べようかな。


朝はサバの塩焼きをして、大根おろしをかけてさっぱりといただいた。豆腐とわかめの味噌汁をすすり、炊きたての保存ご飯にきゃらぶきやシャジッポの塩漬けを添えて食べていると、とても異世界に来ているとは思えなくなってくる。

いつも日本で食べてた朝食みたい。



しっかりとご飯を食べたので、珠美も朝から絶好調だ。

朝の魔術習得は、『建築』とどっちにしようか悩んだけど、結局『浄化』にした。

これはCクラス以上にならないと習得できないらしく、呪文を覚えた途端に魔力が大量になくなった気がしたので、今日はこれ一つだけにしておいた。


『浄化』・・・ヨドミモ スベテ ショウカセヨ


「これ、今は生活魔法だけど、いずれ上位になると光魔法になるニャ」


ミーニャが夢見るような顔をしてそんなことを教えてくれた。

何か思い出でもあるのかしら?



今日も珠美はペロルをお供にお出かけだ。


「よく出かけるニャア。今日は早く帰って来る?」

「うん、なるべく早く帰れるようにするよ。家のことを頼むね」

「わかったニャ」


なんだかミーニャが妻で、珠美が仕事に行こうとしている夫のようだ。

昨夜は生のアジをたっぷりと食べさせてあげたし、朝ご飯は焼いたサバを一緒に食べたので、やっとミーニャも気持ちが落ち着いたようだ。

また増えてしまった町の仕事のことは、なにも言わずに納得してくれたみたい。


よし、今日も頑張って稼いでこなきゃね。



大川の水の色は昨日よりも澄んできていたが、まだ水かさは多かった。

エルフの船はそんな流れの速い川をもろともせず、昨日とは逆向きに上流へと進んでいる。


「珠美、あそこにある大きな菩提樹(ぼだいじゅ)が、うちの農場の西の端になるんだ」


ペロルが教えてくれた右岸の向こうに、朝日を浴びた大きな木が堂々と立っていた。

学校で習ったドイツ語の歌の歌詞が、自然に口をついて出てくる。

若い頃に覚えたものは、よく記憶に残っているものねぇ。



「ペロル、トルーサ山というのはこの大川の上流にあるの?」

「違うよ。もう少ししたら西の方へ流れていく支流があるんだ。珠美が大川って言ってるこの川は、ポレーヌ川っていって、西部地方から南部地方も通ってずっと南の海まで流れていっているよ。カーント大陸の三大河川(かせん)の一つなんだって」

「ふぅん、じゃあこのポレーヌ川は南部地方へいく頃には、もっと幅の広い大きな川になってるんだね」


珠美の家のすぐ前を流れているポレーヌ川とやらが、そんなに有名な大きな川だとは思ってもみなかった。

ペロルは珠美に頷いて、今度はポレーヌ川から枝分かれしている川のことを話してくれた。


「これから行く支流は、バトック川っていうんだけど、ものすごく急流でね、このエルフの船じゃなきゃ航行できないだろうな。そのバトック川が西海(にしうみ)に流れ出ていくところに、ハーフェンっていう港町があるんだけど、今朝、珠美が食べたサバなんかもここから運ばれてきてるんだ」

「え、そうなの? 郵便馬車のトロールさんは南にあるリザンの町から運んできてるんだと思ってたよ」

「たぶん川を通れないから、陸路で町まで魔法使いが運んでるんじゃないかな。だから魚なんかが高いんだよ」

「なるほどぉ~」


専門家に運ばせるということは、難易度の高い流通経路なんだろうな。



「ここだよ! 船くん、こっちの川を下って、トルーサ山の(ふもと)に船を着けてくれる?」


ペロルの指示で、船は大きく鋭角に曲がりながら左側の支流に入って行ったが、ここの川幅が狭かった。

両側が切り立った断崖で、川の両岸にも大きな岩があちこちにある。その岩を器用にヒョイヒョイよけながら船は下っていくのだが、珠美の頬には冷や汗と水しぶきがタラリとつたっていた。


これ、急流下りじゃん!

なんかこんな危ないスポーツがあった気がする。リフティングじゃあない……ラフティングだったかな?

階段状の滝のようなところを滑り降りて、頭の先からたっぷりと水をかぶったところで、やっと船足が緩んだ。


「ひぇ~、ビッショビショ」


『バリア』魔法をかけとけばよかったかも。


「スリル満点だったねぇ」


珠美はペロルと顔を見合わせて、苦笑いをした。


うん、セレンが珠美にトルーサ山の管理を頼むのも無理のないことかもしれない。

これは現地へ行くまでが大変だわ。



川幅がやっと広がってくると、プールのように丸くくびれた川岸が見えてきた。船は船尾をぐるりと回すようにスピンしながら、その岸辺にスッと寄せてピタリと留まった。


「いつ見ても鮮やかな運転ねぇ。でもここがトルーサ山なの……ね」


珠美が岸辺に降りて見上げると、繁った木々の向こうに雪を岩肌に残した高い山がそびえたっていた。山頂からはモクモクと白い噴煙が上がっている。


火山だ……


遥か彼方に見えるトガリの山々の連なりからはポツンと離れた独立した(みね)を持っているようだ。(ふもと)に広がる樹海などをみると、富士山の活火山バージョンといったらいいだろうか。


わー、なんか、わけがわからない。

こんな大きな山をどうやって管理したらいいんだろう。


抑揚がなくなった脳内の言葉に、珠美の精神がウンウンと同調していた。

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