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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
33/77

繋がり

珠美は村へ出かける前に魔法を習得して、ステイタスを確認しておくことにした。


天候の関係で、ここのところすっかり生活リズムが狂ってしまっていた。計画的に魔法の習得をしようと思っていたのに、全然実行できていない。

喉元過ぎればすぐに熱さを忘れるんだから、困ったもんだな。


以前、習得できなかった『消臭』魔法に加えて、『草刈り』魔法も覚えることにした。


『消臭』・・・【ニオイ ケス アルヨ】

『草刈り』・・・【ヤレカリ クサカリ】


これで畑仕事も楽になるし、イノシシの牙でボタンを作れるかもしれない。

ぼたん鍋ならぬ、ボタン牙だねぇ。

ボタンから頭が離れない珠美だったが、『消臭』魔法は他にも使い方があるだろう。



「次はステイタスの確認ニャ」


「そうだね『ステイタスオープン』!」



名前  (日色(ひいろ)) 珠美(たまみ)

年齢  15歳

種族  異世界人、ヘブン人

職業  農場管理者、竹林管理者、山林管理者(トルーサ山)、生活雑貨製作者

ギフト 製作(日常生活に必要なスキル、農業従事者に必要なスキル、手作りができるスキル)

生活魔法  言語1、料理(野草料理は集約されました)、光・ライト、精米、ウォーター、発酵、、鑑定・植物、解体、抽出、消臭

農業魔法  耕作・畑、新鮮適温収納・倉庫、防虫、木材乾燥、草刈り

手作り魔法  金属加工、木工、粉砕、竹細工、裁縫、羊毛、染色、研磨、成形

土魔法  掘削

風魔法  ウィンドカッター、バリア(防雨・傘は生活魔法より移動、集約)

火魔法  ファイヤー


レベル 82


体力 Cランク 5点(Bランクまで後35点)

魔力 Cランク 11点(Bランクまで後29点)



「あれれ? 生活雑貨製作者って何?」


なんかまた職業が増えてるんですけど。


「あれだけ色々と作ったら増えるニャ。それよりランクがCになってるニャ~」


「本当だ。早いね」


ミーニャに言われてカードを確認してみたら、色が青色になっていた。

この間オレンジ色になったばかりで、ちっとも使ってないのに青色カードだよ。

なんだか税金の青色申告を思い出してしまう。


「それに野草料理と防雨・傘が、料理とバリアに集約されてる。料理は肉を食べだしたからだってわかるけど、バリアって何?」


「自分の身の周り2m四方ぐらいが雨や風、降りかかってくる火の粉とか、ニャんでも防げる機能があるんニャ」


「へぇ~、ものすごく便利そうだね」


「便利なんてもんじゃないニャ、こんなステイタスを持ってる人はそういないニャア」


そうなんだ。

ありがたいね、神様に感謝しとこう。

珠美は家の天井を見上げて、手を合わせておいた。



村へは船で行くつもりで、珠美とペロルは、土手を下り、大川へとやって来た。

けれど岸辺には、エルフの船の影も形もない。そこにはただ、濁った川がゴウゴウと音を立てて流れているだけだった。

まるで辺り一帯のものを飲み込んでしまったかような濁流(だくりゅう)を見ながら、珠美はすっかり途方に暮れてしまった。


「どーしよう、山の管理を頼まれてたのに何にもしないうちに船をなくしちゃった! 川の水が増えてるから流されちゃったのかしら?」


ペロルは珠美の側で、冷静に周りを見回していた。そして、うろたえている珠美を見上げながら、有益なアドバイスをしてくれた。


「船を呼ぶ呪文を使ってみたら? 大雨を避けてどこかに避難してるのかもしれないよ」


「でも(いかり)を下ろしておいたのよ。そうよ、錨があるのに流されることはないよね」


「そうだねぇ、あの船はエルフの魔法の塊みたいなもんだからな、雨ぐらいでどうかなるとも思えないけど……」


ペロルが言った魔法という言葉に、珠美はハッとした。

そういえば船に指図するだけで動いてくれてたんだったわ。


「コホン、森と川との契りと共に、我、(なんじ)のもとに来たる。新たなる船出を願うなり、セレン・ラシーナ」


珠美が呪文を言い終わると、ゴボゴボと大きな泡が湧きだしてきて、川の中から船が浮かび上がってきた。


「……びっくりした。この船、自分で川の中に沈んでたの?!」


「みたいだね……」


さすがにペロルも驚いたようで、口をあんぐりと開けていた。

船の方は平気な顔をして、ゆらりと横揺れをした後にピタリと止まった。


水の中にいたはずなのにちっとも濡れていない船内の椅子に座ると、珠美は船の錨をあげて下流に向かうように指示した。

船はすぐに岸を離れると、茶色に渦巻く川の流れに身を任せ始めた。

いや、流れに身を任せているのではない、もっとスピードが出ている。

珠美の顔にはビュンビュンと空気の塊があたってきた。


「ちょ、ちょっと、これは早すぎない?!」


「ひぇぇぇぇぇ、すげえ! ヒャッホー!」


ペロルの方は喜んでいるみたいだ。けれど珠美は顔をこわばらせて椅子の肘をギュッとつかんでいた。

遊園地のジェットコースターよりも早いかもぉ。


あっという間にサミー牧場の船着き場が見えてきて、すぐに遠ざかってしまった。


「待って! デ、デルム村に行きたいのよぉ~」


珠美の悲鳴に、やっと船足が緩んだ。

船はすぐ先に見えてきている船着き場に向かおうとしているようだ。

珠美はここに来たことはなかったが、たぶん村の共同船着き場なのだろう。何本かの(はしけ)が川に突き出ていて、今は三隻の船が係留してあった。


エルフの船は、今度はゆっくりと一番近い(はしけ)に向かっている。

ガタンという音がすることもなく、船は艀にピタリと吸い付くように留まった。


「つ、着いた……」


「珠美、大丈夫?」


「うん」


ちょっと足がガクガクするが、無事に着いたことにホッとした。

珠美は船を降りると、錨を下ろした。そして船に向き直った。


「ありがとう、なんだか早く着けたみたい。ちょっと村で用事を済ませてくるから待っててね。森と川との契りと共に、新たなる訪れがなされるまで、しばらくの休息を願う、セレン・ラシーナ」


この時、珠美には、船が横揺れしながらニヤリと笑ったように思えた。



船着き場からは真っすぐ東の方に道が伸びていた。道沿いには倉庫のような大きな建物があり、その隣には広い庭に豪華な馬車寄せのある家が一軒建っていた。次に赤いとんがり屋根の可愛らしい家があって、その隣には見慣れた背の高いレンガの建物があった。


「あ、この建物は見たことがある。教会だよね」


「うん、そうだよ」


「やっぱり、村の広場だ。そうか、ここに出るのね~」


珠美たちがやって来た道は、村の噴水がある広場に直接つながっていた。

広場の向こうにはベッド&ブレックファーストの民宿が見える。前回来た時は蕾だったつるバラが、すっかり満開になっていて、民宿の垣根はモコモコとしたクリーム色の花びらでうまっていた。先日の雨のおかげで、花だけではなく葉っぱも生き生きとしている。

その右手の奥の方にはスパポーン雑貨店が見えていた。


これは便利だ。船で来ると一気に村の中心部に着けるのね。



珠美は店の方には行かないで、最初にヘイじいさんの家に行くことにした。

持って来たよもぎ団子をオヤツに食べて欲しかったのだ。


ペロルは行く先がわかったのか、珠美よりも先に、ヘイじいさん家の庭の方へ走っていった。たぶんまた、ここの犬と遊ぶのだろう。


「こんにちは~」


路地を抜けて、マサキの垣根のある玄関に着くと、珠美はいつものように大声で奥に声をかけた。


「珠美か?」


「はい!」


「あがってこい。お茶を飲んでいけ」


「はぁい、失礼しまーす」


ヘイじいさんの言葉に甘えて、珠美は靴を脱いで玄関に上がった。上がり(がまち)に大きな革靴が揃えて脱いであったのが目に入り、珠美はふと疑問に思った。

お客さんでも来ているのかしら?


廊下を通って居間に入ると、ヘイじいさんの隣に、大柄な男性が胡坐(あぐら)をかいて座っていた。

珠美は家族のようにくつろいでいる男の人を見て、部屋の入り口で立ち止まってしまった。

え? お客さんって感じじゃないみたい。これって、入っていいのかしら?


その時、台所の方からミヨンばあさんがお茶のおぼんを持って出てきた。


「ほらほらタマミ、中に入って。この子は私たちの息子で(さとし)というのよ。遠慮はいらないわ、さぁ」


「は……い。すみません、水入らずのところにお邪魔してしまいまして……」


「何言ってるのよ、あなたも娘でしょ」


「オンマぁ……」


珠美がミヨンの方へ助けを求めながら、おずおずと座卓の側に座ると、ヘイじいさんが大声を出して笑った。


「なーんだ珠美らしくない。借りてきた猫みたいだぞ」


「父さん、そんなことを言っても初めての人間がいたら遠慮しますよ。珠美さん、僕は不肖(ふしょう)の息子で(さとし)といいます。珠美さんの噂は両親からたっぷりと聞かされてるんですよ、新人さんでこちらに来たばかりなんでしょ?」


「そうです。あの、私は日色珠美(ひいろたまみ)と申します。北の林で農業をしております。ご両親にはこっちに来て以来ずっとお世話になっているんですよ。どうか、今後ともよろしくお願いします」



聡は日焼けした顔をほころばせて、頭を下げる珠美を眩しそうに見ている。


「本当に見た目と中身が一致しない人だな。パッと見にはうちの長男とあまり変わらない歳に見えるのに、しっかりしてるし。やっぱり中身が僕と同年代っていうのは親父のホラじゃないんだなぁ」


「だからさっきから言ってるだろう、珠美は魔法使いなんだよ」


どうやらさっきまで珠美の噂話をしていたようだ。


隣村に住んでいる聡は、父親の後を継いで金属鉱石を扱っている会社に勤めているそうだ。

息子さんが三人いて、一番下の子が10歳だと聞いた時に、珠美は助かったと思った。

よもぎ団子はすぐにお茶菓子として出したのだが、ワサビのお土産が一つしかなかったので、ちょっと出しにくかったのだ。


「オンマ、これはこの間の種のお礼。それからこっちは聡さんの息子さんにあげてください」


珠美がワサビと山菜をミヨンに、聡には竹で作った虫の置物と山菜を、お腹の『収納倉庫』から出すと、三人とも驚いた。


「おいおい、採りたてのワサビじゃないか! いいぞー、今日は郵便馬車が来るから刺身が食べられる。おい、ばあさん、早めに生きのいい魚を買いに行ってくれよ」


へいじいさんはホクホク顔だが、ミヨンと聡の目は竹の虫に釘付けになっている。


「まぁ、本物みたいね」


「僕も最初は本物の虫かと思って、びっくりしたよ」


「タマミはこんなに美味しいお団子が作れるだけじゃなくて、職人並みの工作もできるのね」


ミヨンは手放しで感心してくれていたが、聡はじっくりと珠美の作品を見て、何か考えているようだった。


どうもこの虫たちが、珠美に新たな繋がりを運んできてくれそうだ。

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