よもぎ団子を持って
二日続きの雨がやんで、久しぶりの青空が帰ってきた。
珠美はしっとりとした春の匂いのする空気を胸いっぱいに吸って、朝の畑仕事に出かけた。
「おー、出てる出てる!」
大根の丸いハート型をした双葉、ピンピン出ているニンジンの長ぼそい双葉、ゴボウの芽も下から土を持ち上げている。
大根は明日あたりに最初の間引きをしてみよう。
雨の後に勢いを増している草を削ったり刈ったりして、朝の仕事を終えると、泥だらけになった鎌や削り鍬を小川に洗いに行った。
いつも穏やかに流れている川の水なのに、今日は水量を増しているので、水しぶきが勢いよく珠美の手や鎌にぶつかってくる。
「冷たいっ、昨日の雨は林の奥の方でもたっぷりと降ったみたいねぇ」
「恵みの雨だね。新芽が喜んでるよ」
ペロルの言う通り、そこらじゅうの木や草が根から水を吸い上げて、生き生きと空に向かって伸び始めたように見える。
川辺に生えている柔らかいよもぎの葉を見て、珠美はよもぎ団子を作ろうと思い立った。
農具を小屋に持って行って、よく水分をとった後、油を含ませた布で金属部分を満遍なくなでておく。こうしておかないとすぐに錆びついてしまうのだ。
手を洗いながらこれからよもぎ団子を作ると言うと、井戸端にいたミーニャに怪訝な顔をされた。
「昨日、小豆を水に浸けてないんでしょ? 餡子はどうするニャ」
「ちょっと時間はかかるけど、赤飯とは違って、餡子は当日でも大丈夫なのよ~」
バンブーにもらっていた小豆を洗って、ザルにあげると、珠美は川べりによもぎを摘みに行った。
やわらかな葉を選んでよもぎを摘んでいると、すぐそばにシャジッポが芽を出していた。これも折れやすいところでポキンと折って持って帰る。
シャジッポは珠美の母親の好物だった。地方によってはイタドリともいうらしいが、サラダにしたり油炒めにして食べたりする。かじると酸っぱいが、何ともいえない爽やかな春の味がする。
漬物にすると梅干しのような味になるので、箸休めにちょうどいい。珠美はシャジッポをサッと湯がいて皮をむき、繊維を断つように切ると、軽く塩をふっておいた。
残りは油炒めにするので3㎝ぐらいに切り、多めの塩でたたんで一週間ぐらい置いておく。
シャジッポの処理がすんだので、よもぎ団子を作ろう。
上新粉を作るので、精米したお米を洗ってよく乾かしておく。
まずは餡子作りだ。
① 多めのお湯を沸かして小豆を入れ、豆の表面にしわが寄るぐらいまで茹でていく。
② 茹でた小豆をザルにあげて、お湯の方は全部捨てる。これは渋み抜きというかアク取りになる。
③ 鍋に戻した小豆を、今度はひたひたの水で煮ていく。豆が踊らないように弱火でコトコト煮込んでいく。
上に浮いてきたアクをとったり、豆が水面から出ないように水を何度も足しながら煮ることがポイントだ。
④ たまに豆を一粒とって、手でつぶしてみる。中にまだ芯があるかどうかをこれで判断する。なめらかにスッと潰れたら茹であがりだ。
⑤ 茹でた豆をザルにあげ、次に鍋に砂糖、三温糖そして水を入れて煮溶かしていく。義母はザラメを使っていたが、珠美は簡単にできることを優先して普通の砂糖を使う。こだわっている部分は雑味のある三温糖を入れることだ。そのほうがまろみのあるやさしいコクが出るような気がしている。
⑥ 溶けた砂糖の中に茹でた小豆を入れて煮ていく。砂糖を入れると焦げやすくなるので、火加減に注意する。ここからは水分量を見極めることが大切だ。
⑦ 気持ちだけ塩を入れて味をしめると、木べらの後がハッキリと残るまで水分を飛ばして、すぐにバットに餡子をとる。鍋にずっと置いておくと、砂糖焼けして苦みがでるらしい。
煮るのに時間はかかるけど、これで餡子の完成だ!
餡子をお腹の収納倉庫に入れた珠美は、今度は団子を作ることにした。
乾かしておいた米を『粉砕』魔法で粉々にして、上新粉を作る。
それに水を加え、耳たぶぐらいの硬さにしたら団子状に丸め、蒸籠にしいた布巾の上に丸めておいていく。
米炊き用の釜に水を入れて、その上に蒸籠を置き、ふたをして蒸していく。
団子を蒸している間に、洗ったよもぎを下茹でして、色が鮮やかになったらザルに採り、冷たい水の中で色止めをする。
このよもぎを細かく刻んですり鉢ですっていくのだが、珠美はここでも『粉砕』魔法を使って手順を省略した。
蒸しあがった団子をボールの中ですりこ木を使ってついていく。
もちもちとつきあがった団子によもぎの粉を混ぜると、きれいな草餅の色になってきた。
春の色ねぇ。
餡子を取り出して、丸く広げた草団子の中に入れ、お尻を閉じながらクルリと丸めると、よもぎ団子の完成だ!
もちとり粉がないので、お皿にくっつかないように上新粉を下にまぶしておいた。
「美味しそう」
ペロルの口からは、もうよだれが垂れている。
「あらら、でもこれはペロルとミーニャには食べられないかも。喉にひっかかるかもしれないからねぇ」
「ええー?! ニャーんだ。いい匂いがするのに残念ニャ~」
珠美が作っている間、ずっと炊事場の周りをウロウロしていた二人は、がっかりしたようだった。いつも冷静なミーニャまで、思ったより肩を落としているように見える。
よほど食べたかったのね。
しかたがないなぁ、後でムー牛肉でも炙ってあげることにしよう。
というわけで昼ご飯は、クレソンを添えたムー牛肉のステーキになった。副菜は残っている山菜の煮物だ。
ワサビ塩やワサビ醬油で食べるムーのステーキは、さっぱりしていていくらでも食べられた。
ペロルとミーニャもこの肉を食べたらすっかり機嫌が直ったのだが、ペロルがつい余計なことを言ってしまった。
「このムー牛肉って美味しいよね! 神庭の滝で珠美にもらった時には、びっくりしたよ」
これを聞いたミーニャの眉間にピキンと青筋が立った。
「どーしてニャ! 私は貧乏な珠美に極力たからないように我慢してるのにぃー」
「待って待って、そんなに怒らないでよミーニャ。昨日作った雑貨を売りに行ったら、今度はもうちょっと生活に余裕が出ると思うから、そうしたら三人でもっと美味しいものを食べようよ、ねっ!」
「本当ニャ? いつからそうなるニャ? 昼には村に行くのかニャ?」
食べ物の恨みというのは恐ろしいものだ。
ミーニャにニャアニャア責められた珠美は、とうとう午後から村に行くことになったのだった。




