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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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神庭の滝

堆肥(たいひ)を作っておかなければならない。


エルフのセレンには笑われたが、農業をする上で土作りと堆肥作りは、一番重要な課題だ。

特に完熟牛糞はふかふかの肥沃(ひよく)な土を作ってくれるので、ガーデニング好きにとっては頬をすりよせたくなる肥料だ。実際にスリスリはしないけれど……ふかふかになった堆肥を手に持って、臭ったりはする。

ミミズやダンゴムシが住み着いてくれて、完璧に発酵が終わった堆肥は、臭くないんだよね。

どこか懐かしい森の匂いがする。

人は昔、エルフのように森に住んでいたんだろうな。


珠美は堆肥を発酵させるムロ作りから始めた。

ココットがいる西の原っぱに向かう途中の、丈の高い葦が生えている手前に、足で土の上に四角い形を書いておく。この場所に決めたのは、裏庭から真っ直ぐ進んだ西側にあることと、すぐ南側にある畑に堆肥を運びやすいことが理由だ。それに、家の東にあるペロルの犬小屋からも遠いしね。



竹で四隅に柱を打ち込んで、四角の箱状になるように周りを竹で組んでいく。

大き目のお風呂のようなものが出来上がったら、底に短くした木や竹の枝を敷いて水はけをよくする。

その上にどっさりと落ち葉やおがくずやわらを入れ、またその上に牛糞、米ぬか、野菜のくずも入れる。

珠美は竹の葉っぱやタケノコの皮、竹炭なども『粉砕』魔法で砕いて入れた。


これを何段も交互に積み重ねていく。

積んでは踏み固め、積んでは踏み固めしているうちに、落ち葉と糞のミルフィーユができあがった。


箱の一番上まで重ねたら、その上にわらのムシロをかけて、風で飛ばないように石で重石をしておく。

普通は10日ごとに切り返しをして発酵を促していくのだが、ここで珠美は軽く『発酵』魔法をかけておいた。後は自然の太陽熱で温かく発酵していくことだろう。



朝起きてすぐにこんなことをしていたので、朝ご飯を食べるのが遅くなってしまった。


朝食はあげとジャガイモとノビルのみそ汁、それに目玉焼きにした。

みそ汁にあげを入れるとしみじみと美味しい。その上、目玉焼きにソースをかけた日には、心が喜びに震えてしまう。


「あー、やっぱり目玉焼きにはソースだよね~」


こちらのものは日本のソースよりも酸味が強い気がするが、これはこれでアリかもしれない。

そして『新鮮適温収納・倉庫』のおかげで、ご飯は炊きたてのホカホカだ。これもまた忙しい珠美にはありがたい魔法だ。


「珠美、今朝の魔法は何にするの?」


まったりと食事をしていたら、しびれを切らしたミーニャが魔法習得の催促に来た。

そう言えば、今朝は魔術書を見ないで、堆肥を作ってたな。


Dランクになったら魔術書を読める時間も長くなるし、習得できる魔法も増えるので、ミーニャは楽しみにしてたみたいだ。珠美は今、持っている魔法で不自由していないので、つい後回しになっていた。


「そうねぇ、何にしようかな。ミーニャのお勧めはある?」


「もう、人ごとみたいに。そうね、Dランクだと『解体』『建築』『浄化』、うーん低ランクでまだとってないのもあるニャ『羊毛』とか『染色』とか」


「ほうほう」


『羊毛』や『染色』はいいな。羊の毛を刈るのは春じゃなかったかしら? 今度、サミー牧場に行った時に聞いてみよう。

『解体』は家を解体するのかと思ったら、普通は獣の肉を、皮と肉と骨に分けて解体する時に使うそうだ。


珠美はミーニャのお勧めを順番にゲットしていくことにした。


『羊毛』・・・【フワワフ モモフ ヒツジノケ】

『染色』・・・【ヒタス ソメツケ イロドリリ】

『解体』・・・【サスレバ ミゴトニ カイタイス】


なんか生活魔法と手作り魔法だけがどんどん増えていく気がする。

生きていくのに必死な感じだな。



朝の畑の見回りをして、水やりも終えた珠美は、ずっと行こうと思っていた山菜採りに出かけることにした。

お弁当には、卵焼きを作って、ムー肉と玉ねぎを甘辛く炒めた。箸休めは最後のウドの花の塩漬けだ。

今日採ってくる山菜で、何か常備菜を作りたいな。


「さぁ、ペロル、出発よ! 最初にワラビがある所に連れて行って」


「了解!」


ペロルが走って行ったのは、農場のそばを流れている小川の所だった。

サラサラと音を立てて流れる小川沿いの林の中を、上流へ向かってグングン進んで行く。



「ちょっと待ってよ。まだ着かないの?」


「うーん、もうちょっと」


「さっきもそんなことを言ったよね」


そんな会話を何度もしながら歩いて行くと、林の木々が突然途切れて、小川の両側にぽっかりとした草地が広がる所に出た。

その向こうには崖の上から流れ落ちてくる綺麗な滝があった。


「わぁ、こんなところに滝があるのね!」


神庭(かんば)の滝だよ。この滝のところまでがうちの農場の土地なんだ」


「うそっ、そんなに広いの?」


「そうだよ」


珠美は家がある周りだけが農場の土地だと思っていた。

ペロルによく聞いてみると、東は林沿いの道が大川の土手に上がる辺りまで、南は大川の土手まで、西は珠美が管理している竹林も入れて、もう少し西に行ったところにある菩提樹(ぼだいじゅ)の大木の辺りまでが全部うちの土地らしい。


……大地主じゃん。

さすが神様だね。



「ほら、珠美が言ってたワラビってこれでしょ?」


ペロルに言われて足元を見ると、ワラビやゼンマイがそこら中に頭をもたげていて、太いフキも群生していた。


「何? ここって、山菜の宝庫じゃない!」


珠美は夢中で採り始めたが、途中から今後のことも考えて、採りつくさないようにまばらに手折っていくことにした。

ある程度、採ったら茎を揃えてフキの葉で包み、枯れたシダの茎を使って束ねていく。そしてすぐに『新鮮適温収納・倉庫』に入れていった。


しばらく食材集めをして、腰が痛くなってきた時にようやく手を止めた。


「あー、よく採った。これだけあったら一年中もつよね。ちょっと休憩しよう」


ワラビやフキの汁で汚れた手を小川で洗っていると、水辺に見たことのある植物が生えていた。


「これって、クレソンじゃない! 肉の付け合わせに採っていこう。あっちは何の葉っぱかな?」


「こういう時に『鑑定・植物』を使うんだよ」


「そっか」


ペロルに言われて呪文を詠唱してみた。


「【ミレバ ピタリト アテマショウ】これなぁに?」


すると目の前にステイタスを確かめる時のような文字列が浮かんできた。


ワサビ  アブラナ科

常緑 多年草 宿根性


日光の直射を嫌い、夏涼しく、山間部の渓流付近で、清澄(せいちょう)な水が常に流入する場所を好む。

根は刺身などの薬味として有名だが、葉や茎も三杯酢に浸し、つき出しとして食べることができる。


「おー、ワサビだったのか。根っこは見たことがあるけど、葉っぱは知らなかったよ。本当だ、ここは日陰になってるね」


小川が少し湾曲して木陰を通っているのだが、その陰の部分にワサビの群生があった。

ワサビの場合、根っこごと採ってしまうことになるので、珠美は自分用とヘイじいさんへのお土産用の二つだけ株を掘り上げることにした。

ゴツゴツした薄緑色のワサビの根は,蕎麦(そば)屋さんで出てくるおろし器に乗っかったワサビとは違って、新鮮で野性味があふれていた。



神庭の滝のそばの平たい岩の上で、珠美はお弁当を広げることにした。

遠い昔に遠足に行った時のように、こういうところで弁当を食べるのはワクワクする。

久しぶりの肉を口に入れると、じゅわりと浸み出てくる旨味のある油に、涙が出てきそうになった。


「美味しいわ~ ムー肉すごい。柔らかいし油が甘い」


いつかA5ランクの肉がホテルの懸賞で当たったことがあったが、それに匹敵する美味しさだった。

ペロルがうらやましそうに見るので、お腹の収納から出した生肉を『ウィンドカッター』で少し切って、火魔法の『ファイヤー』であぶってあげた。


「うおー、この肉うまい! 大きくなったらムー牛を倒そう」


……なんか不穏な言葉が聞こえた気がするけど、聞かなかったことにしよう。


滝のミストが風の向きによって、ときたま降りかかってくるが、それにもマイナスイオンの清涼さを感じていい気持ちになる。

ここは、本当に神様の庭みたいなところだな。


珠美は、山菜狩りの後のゆったりとした午後を楽しんだ。

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