エルフの予言
珠美が事務所を出て歩いて行くと、馬の運動場の柵に白銀の髪をなびかせた綺麗な女の人がもたれかかっているのが見えた。仕事をしているようでもなく、ただ馬が走るのをぼんやりと見ている。
「来たのね、新人のマミ」
会釈しながらそばを通り抜けようとした珠美に、その女の人は謎の言葉をかけてきた。
「?? えっと、こんにちは。新人って、私のこと?」
「ええ」
「私の名前は珠美ですけど……」
「そう、タマミなのね。でもそんなことはささいなことよ。そのネックレス、やっぱりバンブーと友達になったのね」
ネックレス? どうやって見たの?!
珠美はバンブーからもらった勾玉を服の上からしっかり押さえると、まだ馬を見ている女の人の横顔をうかがった。
女の人は俗世のことなど何も気にしていないというように、穏やかに微笑みながら柵から離れると、やっと珠美の方に目をやった。
「はじめまして、地球の方。私はスーラ星からの転生者、セレンといいます」
「はぁ……」
「早速、ゴルジに怒鳴られて委縮してるのね、かわいそうに」
怒鳴られてって、このセレンという人はどこかでさっきのことを見てたのかしら? あの怖い人はゴルジっていうのね、なんかピッタリの名前。
「珠美、この人はエルフだよ」
ペロルに言われて女の人の耳を見ると、どこかのテレビドラマで観た宇宙人のような尖がった耳が、サラサラと風に揺れる銀髪の中に見え隠れしていた。
わ、ホントだ。生エルフだ。
「この子はあなたの御使いね。パイロットには会った? ああ、いやサミーがあのお喋りオウムをあなたに会わせるわけがないわね。ニームには……会ったようね」
「ニーム?」
「馬よ。朝、会ったんでしょ? 彼女もサミーの御使いよ」
なんかこの人と、いやこのエルフと話してると頭が痛くなる。
なんでもお見通しのような気がするし、話の筋もつかみどころがない。
「えっと、それでセレンさん、何か私に用事でも?」
「セレンでいいわ。人間の寿命で換算するとタマミとは歳頃も近いし」
へぇ、物語の説が正しいのならエルフというのは長命よね。じゃあもしかしてセレンは百歳を超えてるのかも。
「わかりました。それじゃあセレン、お腹もすいてきたので話の要点をまとめて教えていただけますか?」
「フフフフ、ハハ、アッハッハ、傑作だわ~ 私に向かってそんな風にズバリと言ったのは、あなたが初めてよ~」
ずいぶん辛抱強い人たちばかりに会ってきたんですね。
セレンは涙が出るほど面白かったらしく、ヒィヒィ言いながらお腹を抱えて笑い続けていた。
しばらくして、白魚のような手でこぼれた涙をふきながら、ようやく話の核心を持ち出してきた。
「ふぅ~、ククッ、あの……あのね、フフッ」
「……ええ」
「タマミに西の山を任せるわ」
「はぁ?」
……今度は要点すぎて、わけがわからない。
「トガリ山脈の手前に、独立した峯を持ったトルーサ山があるの。そこをお願いするわ」
「お願いするって言われても、どうして私にそんなことを頼むんですか?」
山を一つ任せるなんてこと、地球での話だったら大ごとだ。
「そこは遠いよ、珠美」
ペロルがアドバイスしてくれたので、これを幸いにとすぐに断る。
「私は神様に農場を任されているので忙しくて、そんな遠い所の山は管理できません。お断りさせて……」
「待って。これは大きな予言なの、あなたはそれを受けなければならないわ」
「でも……」
「距離はどうとでもなるのよ。エルフの船を貸し出すから」
セレンがそう言った途端に、ペロルが珠美の服を引っ張った。
「受けたほうがいいよ、珠美。エルフの船はこの世界では一番早いんだ」
「そう、そこのボクの言う通り。上りも下りも川である限り自由自在よ」
セレンによると海は航行できないが、川ならばどこへでもいけるらしい。ペロルが魚を捕りに行けるし、村まで行き来するのに今、歩いて行っている時間の四分の一の速さで行けると熱心に言うので、とうとう珠美も根負けした。
「わかりました。どこまでお役に立てるかわかりませんが、できるだけのことはやってみます」
セレンは加勢してくれたペロルの頭を優しくなでて、珠美に向かってにっこりと微笑んだ。
なにがどうしてこうなったんだろう。
上手く丸め込まれてしまった感がぬぐえないが、なんだか仕事が増え続けていく気がする珠美だった。




