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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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村での初売り

昨日の夜は、ニンジンのきんぴらをして、卵を入れたジャガイモの味噌汁と冷ご飯で夕食にした。

タケノコ掘りに時間がかかったので、家に帰ってから竹箒を二本しか作れなかったが、これもタケノコと一緒に村に持って行ってみようと思っている。


朝早くに畑の見回りをして、ニンジンには特にたっぷりと水をやった珠美は、弁当を作り始めた。


いつもはお弁当には炊きたてのご飯を入れるのだが、『新鮮収納・コンテナー』魔法が使えるので、前日炊いた冷ご飯でも悪くなる心配がない。

珠美はお腹の収納から釜を出して、弁当用の塩握りを作った。

おかずは昨夜作ったニンジンのきんぴらと、今朝の朝ご飯の残りの卵焼き、それに大根の漬物だ。

そして、ふふふ、出来立ての弁当用のお箸も一緒に入れて、(おけ)を手ぬぐいで包んだ。


手ぬぐいか……これも悪くはないけど、できたら弁当用の風呂敷を作る布が欲しい。

それに作業着だけじゃなくて、よそいきの服も一着作りたいな。

昨日の6000円、もとい6000ドドルで(ふところ)があたたかくなったので、つい欲が出てきてしまう。でも、まずは基本の物からだよね。自重(じちょう)だ、珠美。



昨日、竹箒が二本しかできなかったのは、弁当用の南天箸を作っていたせいもある。

箸の持ち手辺りに、木の皮の風合いを残して凝ったものを作っていたら、夢中になって我を忘れていた。

やり始めると、本気になっちゃうのよね。

それに『木工』魔法を発動していたせいか、なんか手技が職人っぽくなっていた気がする。


そのあたりのことを考えると『竹細工』魔法もゲットしておいた方が良さそうね。

それから、服を作るための『裁縫』魔法も必要だ。ここにはパタンナーが描いた洋服の製図がない。

珠美は身体の寸法を測って服の製図を起こすのはやったことがないので、この魔法がないと簡単な服しか作れないと思う。


こんなことを思っていたので、今朝、習得した魔法は手作り魔法の章から選んだ次の二つになった。


『竹細工』・・・【トナリノカキニ タケタテカケタ】

『裁縫』・・・【チクチク チョキチョキ ソーイング】


なんか早口言葉みたい。『竹細工』魔法を使う時は、舌を噛みそうだなぁ。



朝の用事が済むと、珠美はペロルと一緒にデルム村へ出かけることにした。

ミーニャはいつもの通り、留守番をしている。「私がいニャいとこの家も寂しいでしょう」なんてことを言ってたが、疲れることはしたくないという気持ちがバレバレだ。


小川の橋を渡る時に桜の木を見たら、すっかり葉桜になっていた。

この間の雨で、花びらがほとんど散ってしまったようだ。




「リヤカーを引いていないと、早いわね」


「うん、もうすぐ土手から牧場の端に下りるところだよ」


ペロルと二人で大川の土手の上の道を、スキップしたり走ったりしながら村へ向かっていると、あっという間に土手を下りるところまで来ていた。

収納魔法は本当に便利だ。


サミー牧場のほとりの道を歩いていると、馬に乗った人が遠くから近づいてきた。

よく見ると、昨日会ったサミュエルさんだ。


「こんにちは! お、お出かけですか?」


「ええ。デルム村へ買い物に行ってきます。帰りにムー乳とお肉を買いに寄ってもいいですか?」


サミーは、足踏みをしている馬の手綱を右手だけで器用に操りながら、左手でカーボーイハットをクイッとあげて、照れくさそうに笑った。


「お待ちしてます。あの、肉は何の肉がいいですか?」


「ムー牛と豚……ココット鶏の肉もあったらいただきたいです」


「わかりました。えっと、こちらの世界では豚はまだイノブタと呼ばれていて、地球のものよりも野性味が強いですから、ハーブを上手く使って調理してみてください」


「へぇ~、わかりました。臭み取りに気をつけます」


サミー、親切。いい人だな。



村に着くと、庭仕事をしていた人たちがわざわざ顔をあげて、珠美とペロルが歩いて行くのをジッと見ているような気がした。


「なんだか、有名人にでもなったみたい」


「実際、有名人なんじゃないの? 村では二人目の魔法使いだしね」


「そっか」


たぶんベラ・タング夫人があちこちで珠美たちのことを話して回ったのだろう。

お店のスパポーンさんが、こうなると予言してた気がする。



雑貨店に着いたのは、珠美が考えていたよりも早い時間だったらしく、スパポーンさんが店の鍵をちょうど開けたところだった。


「おや、いいところに来たね。今日はタマミが大好きな食料品が入ってるよ」


何のことを言っているのかと思ったら、上から覗き込むタイプの魔導冷蔵庫の中に、前に来た時にはなかった豆腐と揚げが置いてあった。

これには珠美も思わず声が出た。


「豆腐?! この世界にも豆腐があるの?!」


「はっはっは、ほら驚いた! これはヘイじいさんが喜ぶね。じいさんが会社を定年してから、試行錯誤の上に作りあげたのがその豆腐だよ。よほど食べたかったんだろうね。私も南部から『にがり』を仕入れさせられたよ。ここの村や隣町の人たちにも太らないチーズだとか言われて、ある程度の人気もあったんだけど、80歳になる頃から身体が辛いって言って、作らなくなってたんだ。この間、タマミに会って、元気が出たんだろうね。昨日作ったらしくて、久しぶりに売りに来たよ」


すごい、ヘイじいさん、すごい。

これは嬉しいな。久しぶりに冷ややっこが食べられる。それにお豆腐の味噌汁! それから湯豆腐でしょ、豆腐ステーキもいいな。麻婆豆腐は香辛料を揃えないと作れないかしら?


珠美は豆腐を三丁と揚げを五枚も買ってしまった。これでも豆腐の方は買う人がいるとかで、遠慮した数だ。

スパポーンさんに腐らないかと心配されたが、収納魔法を習得したことを伝えると、納得してくれた。どうもサミーから収納魔法の効用のことを聞いていて知っていたようだ。


それで思い出した珠美は、スパポーンさんの前にタケノコを50個と竹箒を二本出して、買ってもらえるかどうか尋ねた。


「おお、掘りたてのタケノコかい? タマミの収納魔法はさっき言ってた新鮮収納なんだろう?」


「ええ、今は鮮度が保たれるようになっています」


スパポーンさんはそれを聞くと、すぐにタケノコと箒をもう一度全部、収納するように言った。


「私についてきな。郵便馬車のトロールがこの時間ならまだ宿屋にいるはずだ。タケノコは村で売るよりも隣町や、まだ先にある大きな町で売った方が高く売れるんだよ。中国人の転生者で問屋をしてる人間がいるから、そこに(おろ)そう」


スパポーンさんはすぐに店を閉めると、村の広場のそばにあったベッド&ブレックファストに入って行った。珠美はペロルに外で待つように言って、スパポーンさんの後に続いて民宿の中に入った。

ここは入り口の垣根につる薔薇を這わせているようで、花のつぼみがあちこちについているのが見えた。日当たりのいい所ではクリーム色の花が咲き始めている。

民宿の中は普通の家がちょっと広くなっているといった感じで、家庭的な雰囲気が漂っていた。


「マーサ! トロールはまだいるかい?」


玄関を入るとすぐにスパポーンさんが叫ぶと、奥の方から大きな声が聞こえてきた。


「ああ、みんなブレックファスト・ルームだよ!」


どうも東側にある部屋から声が聞こえてきているようだ。


二人でその部屋のドアをくぐると途端に、眩しい光といい匂いのする空気に包まれた。

庭に面したところにある大きなガラス窓が広々と開けられていて、春の眩しい陽光がそこからたっぷりと入ってきている。その窓の側に並べられた四つのテーブルのうち、二つのテーブルの前に人が腰かけていた。北側に独りで座っていた男の人が、ゆったりとコーヒーを飲みながら、突然入って来たスパポーンさんを見てニヤついている。

どうやらこの人がトロールさんらしい。


「おはよう、アルマ。また僕に会いたくなったのかい?」


「バカ言うんじゃないよ、商談にきたのさ。キムに念話器で連絡をしてみてくれる? 掘りたての新鮮さ抜群のタケノコ50個と職人が作った竹箒が2本いるかどうか、聞いてみてほしいんだ」


「ふーん、提供者はそこの女の子か。新鮮ってことは、君も魔法使いなんだね」


トロールは洒落(しゃれ)た口ひげをナプキンで(ぬぐ)いながら、珠美の方をジロジロと見た。


「はい。こちらの言葉でいうと、ここに来たばかりの新人で、珠美といいます。よろしくお願いします」


「おやおや、礼儀正しいお嬢さんだ。そういうことなら、連絡をとってみるよ」


トロールは携帯電話のような形をした板に向かって話をしていたが、すぐに商談がまとまったようで、にっこりと口角を上げて話を切りあげた。


「タケノコは一個300ドドルなら引き取るってさ。箒の方は僕が見て2000ドドルの価値があったら持って来いって言ってたよ。ちょっと見せてくれる?」


珠美がスパポーンさんの方を見ると、笑って頷いてくれたので、竹箒を二本とも目の前に出した。


「ほう、竹箒を美しいなんて思ったことはなかったけど、これはいい出来だね」


「だろ? タマミは製作魔法が使えるからね!」


なんだかスパポーンさんのほうが鼻高々で自慢げだ。

珠美もおじいちゃんの作り方を褒めてもらったようで嬉しかった。


結局、ここに持ってきたものを全部、キム商会に卸すことになった。

300×50=15000 と 2000×2=4000 で、しめて19000ドドルになる。

その内一割を紹介料としてスパポーンさんに払うと、珠美の手元には17100ドドルが残った。

これで昨日の6000ドドルと合わせて、23100ドドルだ!

二日でこれだけ稼げたのなら、なかなかのものである。


スパポーンさんは商品や手形のやり取りをトロールと交わしていた。

トロールは現人魔法使いで、大容量のマジックバッグを持っているため、鮮度を保たなければならないものは別途料金を取って運んでいるそうだ。

クール宅急便みたいなものだね。

こういう仕事のし方もできるんだ。


社会の仕組みも垣間見えて、勉強になった珠美だった。

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