工作しましょう
まずは釘が欲しいな。
鉄の棒と銅の塊を台所のテーブルにのせた珠美は、椅子に座って『金属加工』魔法の呪文を唱えた。
「【カルク キンキン キンカコウ】」
頭の中で大・中・小の釘をイメージしながら鉄の棒を睨むと、もとの棒の中から太さが違う棒がニョキニョキ生えてきた。そして一本分ずつポキンポキンと切り離されて、叩く頭の所がちゃんとある、先が尖った釘ができあがっていった。
うほほ、これは面白ーい。
楽しくなった珠美は続けて針金を作ることにした。
どうしようかな、全部を鉄の針金にするよりも、鉄を芯にして銅を周りにコーディングした錆びにくそうなものも作ってみようかな。
珠美は残っていた鉄を半分に分けて、二種類の針金を作っておくことにした。
呪文を唱えると、金属の塊の中から細い線がシュルシュルと出てくる。まるで子供の頃にやった、へび花火のようだ。できた針金がちゃんと輪っか状にくるくると重ねられていくところは、本当に蛇がとぐろを巻いているさまを思わせた。
鉄と銅の二つの金属を合わせて一本にした針金の束は、外側になった銅の色がつやつやと明るく輝いていて綺麗だった。
銅の塊が少し残ったので、調理用ストーブで使える、打ち出し鍋の小さいサイズを作っておくことにした。
牛乳、いやムー乳が手に入ったらミルクパンになるだろう。
「【カルク キンキン キンカコウ】!」
ふぅ~
銅鍋を作る時には少し魔力を使ってしまった感じがする。あんまり「カルク」は作れなかったな。
やっぱり形が複雑になると、魔法を使う時に集中力も必要になるみたいね。
台所の寸胴鍋に釘を山盛り入れた珠美は、鍋に手をふれたまま呪文を唱えて、それをいったんお腹の『コンテナー』に収納した。
そして両脇に針金の束を抱えると、『防雨・傘』魔法を使って農具小屋までやって来た。
「あー、重たい。針金って結構重いのね」
「もともとは金属の塊だもん、あたりまえだよ。そっちも『収納』してくればよかったのに」
すぐ隣の犬小屋にいたペロルがやって来て、濡れた身体をブルンと震わせて水を弾き飛ばしながら、呆れて言った。
「私もそうしようとは思ったのよ。でも針金って細いからなんかいけそうな気がしたんだよね」
ともかく針金の束は小屋の入り口近くの壁際に下ろした。
『収納・コンテナー』に手を入れて釘が入った鍋を想像すると、重たいものでもスッと浮いて必要な場所へ出てくる。中にまだ入っているタケノコともちゃんと区別ができるようだ。魔法ってホント便利だな。
その釘入りの寸胴鍋も針金の隣に出した。
「竹箒を作ろうと思ってきたけど、これを置く作業台が必要ね」
珠美は何かないかと思って小屋の中を見回してみた。すると奥の方に何枚かの板と一緒に、太い丸太が3本ほど転がしてあった。
この板は田んぼの取水口の堰止めとかに使うのかな?
「ねえ、ペロル。ここの木は使ってもいい物?」
ペロルは可愛らしい小さな頭をちょっとだけ捻って考えると言った。
「ええっと、たぶんその板の方は農業に使うものだと思うよ。丸太は使ってもいいんじゃないかな」
やっぱり板は堰止め板ね。
でも丸太かぁ……製材魔法はまだ習得してないのよね。
あれ? でも『ウィンドカッター』が応用できるかも。
珠美は『ウィンドカッター』といえば風の刃を忍者の手裏剣のように飛ばして、相手をバッタバッタと倒すというイメージだった。でも硬い孟宗竹を切るためにこの魔法を習得したんだから、横に切るのも縦に切るのも一緒だよね。
製材所のあの丸い電動ノコギリをイメージすれば何とかなるかもしれない。
試しに、太い孟宗竹を縦割りしてみることにした。
「【ビュン キット カット】!」
すると孟宗竹がパカンと真っ二つにきれいに割れた。
へぇ、これは気持ちいいな。
あ、この割れた形って、節があって小物入れにちょうどいいじゃない。
珠美は大・中・小の釘を入れるために、30㎝ぐらいの長さに半割りの竹をカットした。ついでにクドがある炊事場と家用にも、それぞれ一つずつ小物入れを切っておくことにした。
トレーになるように節は繋げたまま残して、三か所のくぼみができるようにしている。
釘入れ以外は何を入れるのか思いついていないけど、何かには使えるだろう。
穂先の方の残った竹は、縦に四等分に割って服の整理棚を作ることにした。
まずは真竹で両枠を作って針金でしっかりと固定するでしょ。それからこの四等分した竹を並べて平らな板を作っていく。この棚板になる部分にはキリで二つ穴を開けておいて、枠に乗せてから針金でくくり付けていけばいいよね。
お店のディスプレー棚のように棚を二段にして、下に靴を置くスペースができたらいいな。
珠美は早速、手ごろな長さの割り竹を一本持って、家に走っていった。
ベッドと北側の壁のすき間に持ってきた竹を当ててみたら、少しだけカットすれば丁度いい長さになってここに収まるということがわかった。
ついでに棚の奥行きの長さも測って鉛筆で印をつけておく。
この竹を長さの目安にして、小屋に戻ると竹を組んでいった。
珠美が工夫したところは、真竹の枠の柱に合わせて、孟宗竹の棚板の角を丸く切って、ピッタリと組み上げたところだ。少々手間はかかったが、満足のいく仕上がりになった。
服を出し入れする方の切り口は、ソゲがたたないように紙やすりで磨いておいた。
出来上がったばかりの棚を家に運んで、寝室に置いてみる。
ふふーん、いいじゃない。
これで替えのパンツ置き場ができたわね。
広い棚にのせる服が、今のところパンツ一枚しかないが、ここを服でいっぱいにする楽しみができたと思えばいいよね。
ノリに乗った珠美は再び小屋に戻り、木の丸太の方も全部『ウィンドカッター』で製材して、板と角材を作った。
どこに棚を作ろうかな。採光を考えると入り口の近くのほうがいいよね。それに天井までの作りつけの棚にした方が使い勝手が良さそうだ。
小屋の西の壁には、鍬なんかの農具がたくさんぶら下がっている。
使えるのは東の壁かな?
そこに棚を作って釘などの工作道具を整理するでしょ。そしてその棚と直角になるように南の壁にひっつけて大きい作業台を作ったら、箒を作る時に腰が痛くならないかも。
製材した板は竹とは違って製作しやすかった。
さっき作ったばかりの釘がここで大活躍だ。
机の脚は右側のぶんだけコの字型のものを作り、下の方には竹炭を塗って防腐予防をすると、『掘削』魔法を使って、小屋の入り口脇の地面に埋め込んで固定した。棚の両側の枠板の下側も同じようにする。
棚の方は壁と一体化させたので、裏板を貼る手間がはぶけた。
棚板を渡すときには枠板にホゾを切って、そこに板をスライドさせて入れる。念のためにホゾの下に受け棒を打ち付けておいた。
ホゾのほうも、大まかに『ウィンドカッター』で切って、ノミと金槌で滑らかになるように仕上げをしたので、簡単に入れることができた。
机の表面になる板はその道具入れ棚の、下から三段目の棚板に渡しかけるようにした。それも南の壁に沿って作ったので安定感があり、机の表面の板をコの字型をした足台に打ち付ける時にものすごく楽だった。
できた!!
小屋の東南の角を使って、鉤型に完成した道具棚と作業台は、真新しい木の匂いをプンプンさせながら、珠美の心に大きな満足感をもたらしてくれた。
これで製作作業がグーンとはかどりそうだ。
……お腹が空いたな。
もしかしたらお昼をとっくに回っているのかもしれない。
そういえばタケノコがあったじゃない!
珠美は服の汚れをはらって手を洗うと、昼食を作ることにした。
山椒の葉をすり鉢ですって、そこに砂糖とみりんと味噌を入れて香りのいい甘味噌を作る。タケノコを刻んで入れて混ぜたら、タケノコの木の芽和えのでっきあがりぃ。
ご飯のブブ漬けに大根の漬物、つくしの佃煮を添えたら、贅沢な春の定食だ。
珠美はご飯を食べている間に、残ったタケノコで煮物を作っておくことにした。
昼からここのガーデンテーブルも作っておかなくちゃね。
料理の品数が増えてきたから、丸椅子のテーブルでは狭くなってきている。
タケノコの木の芽和えは本当に美味しかった。
やっぱり春先のやわらかなタケノコだと、根元の方まで丸ごと食べられる。
ああ、余は満足じゃ。




