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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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思わぬ展開

バンブーがおにぎり一個と取り換えてくれたのは、珠美の大好きな豆大福だった。


おにぎりよりも豆大福の方が価値が高いのではないかと思って恐縮していた珠美だったが、バンブーがミヨンばあさんのキムチを「美味しい美味しい」と言っておおかたたいらげてくれたので、泣き笑いをすることになった。

うん、これなら平等な取引かも。

大切にしてたキムチがとうとうなくなっちゃった……グスン。



バンブーが姿を現したのは、珠美が竹林のことをよく知っているようだったからだという。

珠美の知識は近所のおばちゃんの受け売りなので、そんなに詳しくないんだけどな。


「ここの竹林は広いから、私たちの目が行き届かなくて荒れてきてるのよ。あなたは魔法が使えるみたいだから、管理人になってくれない?」


バンブーはケロリとした顔でそんなことを言うのだが、農業も軌道に乗っていないのに、珠美にそんな暇があるだろうか?


「ううん、でも……私も今は食べていくのが精いっぱいだからねぇ」


「そうなの。あ、さっき大福を食べてた時に黒豆や小豆(あずき)が美味しいって言ってたでしょ?」


確かに、そうだけど。

さっきデザートで食べた豆大福の黒豆は、丹波産のもののようにふくよかで大きかったし、小豆の味がしっかりと出た餡子(あんこ)も絶品の美味しさだった。

村の店にはこういう日本料理に使うような豆類があんまりなかったのよね。


「豆はうちでたくさん育ててるから、それを報酬にするというのはどう?」


え?! それは願ってもない申し出だ。


「やる! やります。やらせていただきます!」


食欲に負けた珠美は、竹の精バンブーに安請け合いをしてしまったのだった。



ペロルが帰ってくるとバンブーはスッといなくなった。

どうやら犬が苦手らしい。


「珠美、またタケノコを掘ろうか?」


土を掘るのが大好きなので、やる気満々のペロルだが、さすがにこれ以上採ると茹でる時の下処理が大変だ。


「午後は古い竹を何本か切って、持って帰ろうと思ってるの」


「ふ~ん、何に使うの?」


「薪にも肥料にもなるし、竹炭でしょ、物干し竿だけじゃなくて竹箒も作れるわね」


こうしてみると竹っていろいろと使えるな。管理人になれて良かったのかも。


孟宗竹の古竹を切り倒すのには時間がかかった。

古いけれど、さすがに硬い。

これは魔法を覚えたほうがいいかもね。


他に物干し竿用の細い竹も何本か切った。

リヤカーがいっぱいになったので帰ることにしたのだが、帰りに林で山椒の葉を少しもらっていくことにした。

やっぱりタケノコといえば、木の芽和えでしょ。


珠美が『収納・買い物かご』魔法を発動して、山椒の葉を入れようとしたのだが、呪文を唱えると目の前に変な文字列が出てきた。


〔レベルアップに伴い、収納魔法が進化しました。『収納・買い物かご』魔法は『新鮮収納・コンテナー』に統合されます〕


「ペロル、これってどういうこと?」


「うー、僕はミーニャほど詳しくないけど、収納魔法は入れられる容量が増えていくんだってさ。新鮮ってついてるのは、食べ物なんかが入れた時の状態で維持されるから、腐らないんだよ」


「へぇ、もっと便利になったということか」


コンテナーというのがどのくらいの大きさなのかわからなかったので、試しに採ったばかりのタケノコをいれてみると、次から次へと入っていき、とうとう十一個の大きなタケノコが全部、収納ポケットに入ってしまった。

まだまだ入りそうな予感。

あれ? そうしたら塩漬けにしなくても、新鮮なタケノコがいつでも食べられるって言うことじゃない!

これは……本当に便利だわ。


珠美は欲が出て、もう一度タケノコを掘りに行こうかと考えたが、来がけに発酵させてしまったボカシ肥料のことを思い出して、踏みとどまった。

時間ができたんだから、ペロルのためにもあの肥料を畑に入れてきた方がいいかもね。


情けは人の為ならず

この判断が、後から珠美を助けることになるのである。



家に帰ると、ミーニャが待っていてくれた。


「珠美、ヒゲがぴくぴくするから、明日は雨になりそうニャ。濡れたらダメなものは屋根の下に入れておいたほうがいいニャ」


これは早く帰ってきて良かった。

草木灰も集めて畑に鋤込(すきこ)んでおかなくちゃ! 雨に打たれたら、せっかくの養分が流れてしまう。


珠美は下半分の皮をむいたタケノコを一つだけ大鍋に入れ、井戸水をたっぷりそそぐとクドに火をつけた。

薪には取ってきた古い孟宗竹を(なた)で割って使うことにした。


「ミーニャ、畑のことをしてくるから、ちょっとここを見ててくれない?」


「了解ニャ。春先のタケノコだからそんなに()でなくていいんでしょ?」


「うん、まだエグミは出てないだろうから、(ぬか)も入れなくていいと思う」


「それじゃあ、茹であがったら火をかいて出して、鍋に漬けたままにしとくね」


「さすが、ミーニャ。竹は()ぜるから気をつけてね」


「ニャ」


採りたての新鮮なタケノコを皮ごと丸焼きにして、食べようかとも思っていたが、収納魔法があればそれはいつでもできそうだ。

とにかく畑の肥料のことを優先することにした。


猫車にスコップやバケツを乗せていこうとしていた時に、陰に干していたジャガイモの種芋が目についたので、これも一緒に植えてしまうことにする。


朝、作っておいた草木灰を、根菜類を育てる予定の畝に打ち込んでしっかりと深く耕した。

よしよし、次はジャガイモね。

西の端っこに作っていた畝に溝を掘っていき、ボカシ肥料を置いた両脇に種芋を置いていく。その上に土をかぶせて、鍬で表面を平らにならせば、ジャガイモの植え付けは完成だ。


ついでにトマトとナスの畝に溝施肥(みぞせひ)をして、土に混ぜる元肥えを好む野菜の畝にはボカシ肥料をまんべんなく混ぜ込んだ。

やったー、下準備の完成です!


予定外の作業をしたので、西の空が暗くなっていたが、東の空からは大きな満月が昇ろうとしていた。ミーニャの天候予想の通り、お月さまは薄雲のカサをかぶっている。


わぁ、朧月夜(おぼろづきよ)だわ。

珠美は歌を歌いながら、薄明りのあぜ道を歩いて畑から帰って来た。

今日が満月なら、雨が上がって種を蒔くのはちょうどいい時期になりそうね。

地球の月のリズムとは違うだろうが、異世界でも月の満ち欠けは植物に影響するかもしれない。


夕食に珠美が食べたのは、冷ご飯とカボチャの甘酢オイル漬けと目玉焼きだった。

疲れ果ててしまったので、さすがに凝った料理をつくる元気がなかった。

目玉焼きに醤油か……ソースが欲しいな。でも高かったのよね。

そうだ、タケノコを売ったらどうだろう? それに竹細工も売れるかも。


珠美はどんな製品を作ろうかと算段を始めた。

竹かご、竹箒、スプーンやフォークも作れるよね。耳かき、生け花の竹かご、焼き串もたけだったかしら。洗濯ピンチやトングなんかも、もしかしたら作れるかも。

たくさん売れたら、布を買いたいな。どうしても作業着の洗い替えが必要だ。


そんな妄想で頭の中を一杯にしながら、珠美は茹でたタケノコをお湯から出して、再び水を張った鍋に浸した。そしてそのまま夕食の後片付けをして、夜の支度もしたのだった。

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