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神様に借りた農場  作者: 秋野 木星
第一章 四月
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竹の秋

お弁当は、塩にぎりのおむすび三個と、ゆで卵二個、そしてカボチャの甘酢オイル漬けをメインにして、漬物類を添えることにした。添え物は食べずに大事にとっておいたミヨンばあさんのキムチ、それにウドの花の塩漬けとつくしの佃煮だ。

一時期よりも豪華なメニューになったなぁ。


珠美はリヤカーに、唐鍬(からぐわ)を乗せた。これは普通の鍬より幅が狭く厚みがあり、ツルハシに近い働きをする。これでタケノコを掘っていく。

そしてノコギリも持っていくことにした。何本か古い竹を取ってくれば、物干し竿などを作れると思う。竹を束ねるロープも忘れないように乗せておいた。


ペロルに案内してもらって、家の裏庭を横切って歩いて行く途中で、ボカシ肥料を入れているバケツにふと目が止まった。

そういえば『発酵』魔法を習得したんだったわ。肥料を発酵させておかないとね。


珠美はリヤカーを置いて、バケツに向かって呪文を唱えた。


「【キンノ シゴトハ グンバツヨ】!」


呪文を言い終わるとすぐに、バケツの中から何とも言えない肥料の臭いがしてきた。


「珠美、何してるの? 早く行こうよ!」


先に行っていたペロルがこちらに走ってこようとして、はたと足を止めた。


「うげぇーーー、くっさい! くっせぇ、くっせぇえ~ なんだよぉ、いい匂いになるっていってたのに、これなのぉ?」


「あー、ペロルごめんね。ハーブの方はいい匂いだけど、これは酷いわね。早めに使ってなくなるようにするから、もうちょっと我慢して」


やっぱり犬の嗅覚にこの臭いはきつかったか。明日にでもバケツごと畑に持っていこう。



ペロルをなだめながら西の方へ歩を進めると、高い(アシ)が群生している向こうに、青い草が茂る原っぱが現れた。

そこでは茶色や白色の(にわとり)があちこちでミミズや虫をついばんでいた。白い汁が出る草は、ココットの好物のようで、三羽が争うように葉っぱを引っ張り合って食べている。

ココットって、やっぱり鶏の一種なんだね。


「ここにミーニャは卵を捕りにくるんだよ」


「そう。ココットには本当に助けてもらってるな。今度、米ぬかや貝殻を砕いたものを持ってお礼にこなきゃね」



西の原っぱを通り過ぎ、林の縁に沿って北の方にぐるりと回り込むと、ザワザワと風に揺れる竹林が見えてきた。

春は竹の秋と呼ばれているように、タケノコに養分を渡した後の竹たちは、どこかくすんだ葉の色をしている。竹林の中には、薄茶色く枯れてきている竹もたくさんあった。


孟宗竹(もうそうちく)だね。でもあっちには淡竹(はちく)や真竹もあるみたい」


場所によって幹の太さが違うので、三種類の竹があるようだ。

珠美は春先に出る孟宗竹のタケノコが好きだったが、義母は細い淡竹のタケノコが好きだった。出回り始めると喜んで、毎年必ず近所にもらいに行っていた。

まぁ、淡竹もさっぱりした味で美味しいけど。

真竹は竹細工によく使われているから、もう少ししてから出てくるしなやかな新しい竹を採って帰って、弁当箱や竹かごを作るのもいいな。


「こっちこっち、ここの地面の中に芽があるよ!」


ペロルが呼ぶので、珠美が唐鍬を持って行ってみると、なんにもないと思える地面を、早くもペロルが掘り始めていた。

ここ掘れワンワンだね、これは。


「あら、さすがねペロル。この親竹の節の所に白い粉があるから、これは美味しい三年生かもね」


「何? その三年生って」


不思議な顔をするペロルに、珠美が近所の竹林を管理していたおばさんに教えてもらったウンチクを教えてあげた。


「孟宗竹の親竹は生まれてから四年間はせっせと養分を地下茎に渡してタケノコを作るけど、五年も経つと自分が生きているだけのおばあさんになるんだって。でも節が黒くなってくる四年目の竹のタケノコよりも、若い三年目の竹のタケノコの方が美味しいんだってさ」


「へぇ~」


珠美は唐鍬を両手に持ち地面につけると、おもむろに『掘削』魔法を発動した。


「【ディグディグ ディグダ ダグディディグ】!」


ザッザッザクッ、鍬を入れると、土がプリンのように軽い手ごたえで気持ちよく掘れていく。

掘っている時に、タケノコや地下茎を傷つけないようにと意識すると、対象物をよけながらきれいに穴を掘ることができた。

魔法って、便利だ。


「ほら! そんなに大きくないけど、ここにあったでしょ」


「ほんとね。助かったわ、ペロル。私にはちっともタケノコが見えなかったもの」


竹の枝の方向に地下茎が伸びていくらしく、親竹の根元から50㎝ぐらいの所にタケノコができるそうだ。

でも珠美にはプロのおばさんが言う、地面を踏んだ時の足の裏の感触というのがちっともわからなかった。

珠美が見つけた地面から出ているタケノコは、これはもう売り物にならないといつも言われたものだ。

ペロルがいてくれて良かった。



この後もペロルと珠美の連携は冴えわたり、大物のタケノコを十個ほど掘り出してリヤカーに積むことができた。一個はすぐ料理に使って、後は塩漬けにしておく予定だ。


「お腹が空いてきたから、そろそろお昼にしましょうか」


「うん、僕はこの奥の狩場で食べてくるよ」


ペロルが何を食べているのか聞いたことがないけれど、聞かないほうがいいだろう。

犬はもともとは狼だもんね。

うん、うちの子たちは野生児だ。



珠美が『ウォーター』魔法で手を洗って、竹の落ち葉が積もった所に腰を下ろし、お弁当を広げた時のことだ。

急に竹の葉の強い匂いがあたりに満ちてきた。


「あー、お腹ペコペコ。まずはおむすびからね」


「三個もあるじゃない。私にも一つちょうだい!」


「嫌よ。今日は重労働だったから、精をつけなきゃ」


「じゃあ代わりにこれをあげる」



「うん。…………え?!! ちょ、ちょっと、あなた……誰?!」


何の気なしに会話をしてたら、側に甚平さんのような緑色の着物を着た女の子が立っていた。


「私? バンブーよ。竹の精」


竹の精?!


これって………日本昔話?

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