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(10)夫の生活は何かと不健康らしい−2

 そうだ、温泉へ行こう!

 突如一面の銀世界にされてしまい、私は不意にそう思いついた。雪といえば温泉、温泉といえば雪見酒である。何より温泉は健康に良い。古来より、温泉は万病に効く。恋の病以外、治せないものはないのだ。異論は認めよう。


 この世界にも温泉は存在する。ただどこにでもあるというわけではない。


 温泉の源泉は普通に出かけるのが難しい山奥にある上、その山はとある理由により領主といえど開発が難しいことが多いのだ。


 だが、夫の管理する領地にはある。なぜなら私が開発したからだ。まさに私は妻のかがみ。世の奥さまがたに見習っていただきたい良妻ぶりだと自負している。


 まず第一の難関、足の確保についてはお金で解決した。私の実家はとてつもない成金だ。うなるほどの金に物を言わせて、お金持ちの旅行客向けに転移陣を設置してしまったのである。ほほほほ、実家が太いのも才能の内なのだ。


 あらゆる対策をかけており、怪しい人間の立ち入りもバッチリ防いでいる。セキュリティの高さには定評があるのだ。そのぶん、費用はかさむが利用者はそれくらい払えるお客さまたちばかり。


 もちろん一見さんはお断り。常連さんからの紹介がなければ利用できないし、新規のお客様がなにかやらかした場合の責任は紹介者にとってもらうことになっているので、変な輩がやってくることもない。


 おかげさまで温泉事業は左うちわ。お客さまが新しいお客さまを呼ぶという素晴らしい流れができている。


「お嬢さま、ちなみに温泉事業の取り扱いはどうなっているのです?」

「領地は旦那さまのものだけれど、開発者は私よ。だって、旦那さまでは、守護者さまとの対話ができなかったもの」


 第二の難関は、これだ。温泉の出る山には、それぞれ守護者と呼ばれる聖獣たちが住んでいるのである。気高く気まぐれ。気に入られている者以外は、会うことすら難しい。


 ちなみに私は一発で友人判定を受けたが、可愛い夫のために三顧の礼どころか百顧でも千顧でもするつもりであった。雰囲気がウザかったので、早めに会えたのかもしれない。


「王国の法も、抜け穴ができないように根回しして急いで整備を進めたから、開発者の権利はきちんと確保されたわ。開発するだけした挙げ句、権利を奪われたり、かすめ取られたりするなんてまっぴらですもの」


 善良過ぎるほど善良な夫は、私から権利を奪った挙げ句、離婚して私をポイ捨てするようなことはないと思うが、世の中、悪人は山ほどいる。開発者が守られるような仕組みづくりは重要だ。


 それに、夫にお金まで備わると、唯一の私のアドバンテージが失われてしまう。お金で夫を買ったような結婚なのに、私の存在価値がなくなってたまるかってんである。



 ***



「ベス、そういえばどうやってこの温泉街を開発したのか、教えてもらってもいいかな」


 うまいこと夫を丸め込んで温泉旅行に出発したところ、珍しく夫に、温泉開発の件について質問を受けた。この辺り、夫は今まで遠慮して聞いてこなかったのにどういう風の吹き回しだろうか?


「ゴドフリーの領地にも、温泉が出る山があるそうなんだけど、どうもうまく開発がいかないらしくて。相談を受けたんだ」

「まあ、ゴk()b()リーさまが?」

「うん、いつもゴドフリーには教えてもらうことが多くって。だから、僕が教えてあげられることならできるだけ力になってあげたいんだ。もちろん、商売のノウハウは、他言無用のものだってあるとは思うんだけれど。ヒントだけでも、どうにかならないかな?」


 お願いっと言わんばかりのきゅるきゅるお目々で訴えかけられて、思わず卒倒したくなった。前世、私の幼い頃にうるうるお目々のチワワに見つめられるCMか流行っていたそうだが、確かにこんな生き物にお願いされたら拒否することは難しい。


 とはいえだ。お願いごとが、ゴk()b()リー卿のためというのが、まったくもって気に食わない。夫の親友は、相談女か。弱いところを見せつつ相手の同情と関心を引き、夫のことをぱくりといくつもりなのかもしれない。ここはなんと返事をするのが正解なのだろう。できれば、夫にはあまり嘘はつきたくないし……。


 少々悩んだ末、私はかなり端折った状態でアドバイスを伝えることにした。


「簡単な話です。山の守護者さまと友人になれば良いのです」

「お嬢さまは、こちらの山の守護者さまと大変仲良しでいらっしゃいますものねえ」

「ええ。楽しく女子会をさせてもらっておりますわ」

「ありがたいことに、お付きのわたくしも女子会に参加させていただいております」


 私と侍女は目を合わせて、ねーっとタイミングよくうなずいてみせた。


 もちろん、各地の山を守る守護者たちの友人になるのは、そう簡単なことではない。だが、それすら理解できないようなら、最初から友人になることは難しいのだと思う。何せ彼らは、人間の常識とはかけ離れた存在なので。


「守護者殿と友人になる……。そんなにうまくいくものだろうか?」

「さあ、それはなんとも。守護者のみなさまの趣味や関心、性格や年齢もさまざまですから。けれど、まずはご挨拶に伺わなければ話にならないのではないでしょうか?」


 さすが、コミュ障の夫。守護者さまとのやりとりについて、一筋縄ではいかない匂いを嗅ぎつけたらしい。その感覚の鋭さ、さすが! 散歩で社交の難しさに直面したからかしら。偉い!


 ちなみに私の友人でもある守護者さまは、転生者ではないが長生きしているだけあって、世界の事情に非常に詳しい。そういう意味でもとても頼りになる。ようやく夫を紹介することができるということで、私は今回の旅行が楽しみで仕方がなかった。

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