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第二章 解き放たれた漆黒の心 4

【砂岩の陰】




 爆発する砂塵を背に何とか見つけた岩陰に身を隠してようやく一息、全員の顔に疲労の色がありありと見える。


「ユウト、だいぶ手ひどくやられたみたいだけど大丈夫かい?」


 体中が軋むように痛む感じはするが動けないわけじゃない。叩き落とされた時にはリリィクが障壁を張ってくれていたのもあってか骨が折れているような感覚は今のところ無いし満足にとは言い切れないが戦うことは出来そうだ。


「ああ、何とか動けるし大丈夫だ」


 リリィクが不安そうな目でこちらを見てくるが、それには大丈夫だと頷いて見せた。


「しかし、私の力でもここまで明確に押されるのは正直初めてだな。正気に戻す以前に動きを止めることすら難しいように思うが……」


 ミューがそう言うのももっともだ。この中では間違いなく一番力を持っているミューの障壁すら工夫次第で容易に貫いて来る。そんな相手に対して撃退ではなく正気に戻させるのは骨が折れそうだ。そもそも、どうすれば正気に戻るのかも分からない。その鍵はあの女性が持っていると信じたいところだが。


「あの人ってストラー側の人なんでしょ?ホントに信じて大丈夫なのかなぁ?」


「確かにそうですね。ですが、水間からの伝言というのも気になります。話だけでも聞く価値はあるでしょう」


 龍弥からの伝言、しかも大事な伝言と言っていたからな。俺としては聞かないわけにはいかない。


 ……しばし無言、音によるダメージは各々深刻というほどではないものの確実に疲弊しきっているからこその沈黙だ。


 その静けさを破るように砂を踏みしめる音が近付いて来る。全員が一気に緊張感を高める。が、音が飛んでくる気配はない。そしてその足音の主が姿を現したことで少し緊張が緩くなる。


「こちらに隠れていたのですね。お待たせしました」


「ああ、えっと……」


 さっき助けてもらった礼を述べようとして名前を知らない事に気付いた。


「ナナ、とでもお呼びください。龍弥様からはそう呼ばれています。なるべく時間は稼いだつもりですが、正直あの子に魔道砲がどれだけ有効かは未知数です」


 ふぅ、とため息を吐く。思ったよりも魔道砲の手ごたえがなかったんだろうか?


「そして、今彼女に掛かっている洗脳を解くために一番重要なのは時間を経過させること。全身にまとわり付いた香手のヒナマリアスの能力がその効力を失うまで耐えることが重要なのです。もしくは少しでも彼女自身に抗う切っ掛けが芽生えれば拭い去ることも可能かもしれません」


 時間を稼ぐ、か。あれだけの力で俺達が圧されていた相手に、一人増えただけでどこまで対抗出来るか不安ではあるが……


「正直、私でも対応しきれなかった相手だ。何か策はあるんだろうな?」


 ミューが尤もな意見を言う。実際彼女の障壁すら工夫次第で抜いてしまえる相手だ。生半可な方法ではあっという間に全滅するだろう。


「難しいのは百も承知ですが、私が局地的に強力な砂の結界を張ります。皆さんはその地点への誘い込みと、結界発動後に周りから障壁で結界をさらに強固にしてもらいたいのです。結界の起点になる楔は先程四か所に打ち込んでおきました。この地点になります」


 彼女が砂に手を当てると周囲の見取り図のように砂が移動していく。


「この大きな丸が僕等の居る場所かな?」


「はい、そして少し広めに囲えるように配置した楔は菱形の四点です」


 彼女が指差す先を見る。俺達の居る点からそれほど離れていないようだ。問題はその地点に彼女が入ってくれるかどうかだが……


「勇人、先程のダメージもあるでしょうからあまり前に出過ぎないように気を付けてくださいね」


「ああ、なるべく近付き過ぎないようにはするよ」


 とは言ったもののあの速さだ。こっちが近付かないようにしていても詰められれば意味はない。気を引き締めてかからないと……


 そんな事を考えていると不意に通信機が鳴った。


「俺のか。こちら勇人」


「ココだ……。少し聞きたいことがあるのだが、時間、いいかな……?」


「ああ、少しだけなら大丈夫だ」


 いつ彼女が戻って来るか分からない。手短に頼むと伝えると、今から歌う歌について知っていることがあったら教えてほしいとの事だった。そうして歌ってくれた歌は俺にとっては馴染み深いものだった。


「ああ、それは『葵べりぃ』の『深海への鎮魂歌』だな」


 『葵べりぃ』とはふざけた様な名前だが、陽の守の国で、いや、世界中で『盤上の異端者』とも呼ばれ凄まじい人気を誇ったアイドルの名前だ。誰もが彼女の歌を絶賛し、テレビやラジオで彼女の曲が流れない日はなかった。もちろん俺や龍弥達も彼女の歌には不思議とのめり込んでいたのを思い出す。あれ程の影響力を持った人物を俺は見たことがなかった。


 何故過去形なのかと言うと、数年前に彼女はとあるドームのライブを最後に突然行方不明になってしまったからだ。彼女とそのマネージャーをしていた兄の『葵やどり』を除いた観客、関係者、警備員等ドームに居た全員が首を刎ね飛ばされた状態で発見された事件だ。未解決の事件故への好奇心か、はたまたそもそもの人気故か、行方不明になって以降も彼女の歌は売れ続け今も世界中で流れ続けている。


 俺としては二人の行方も気になるが、今は何故その歌をココが知っているかの方が気になる。


「ココは一体何処でその歌を聞いたんだ?」


「……ふむ、その辺りの記憶も含めてリリ姉さんに関する記憶はミューに一応渡してあるよ。君の記憶が戻って、そしてリリ姉さんが良いと言ったなら見せてもらうといい……。……そこにこちらがココである理由も含まれているからね……」


 情報に感謝する、と言うと彼女は一方的に通信を切ってしまった。


「葵べりぃか、なんだか懐かしいな……」


「ココから歌の質問……ですか?つまりその人物が私達の……」


「どうやらお喋りの時間は終わりだ。来たぞ」


 リリィクが俺に話し掛けてきたのを遮ってミューが鋭い声で警戒を促す。一気に緊張感が高まっていくのを感じる。


「大まかな作戦しか立てられませんでしたが、皆さんよろしくお願いします」


 ナナの言葉に皆黙って頷き戦闘態勢に入る。ここを突破出来ればラトラへ、ようやく自分の記憶とご対面できるわけだ。何としても彼女を正気に戻して先に進まねば!

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