生存欲求
生きたいという欲があった。
生き残りたいという熱望は、深優の内に根付いている。双剣を抜く。
対峙する異形は全体が暗色で、点々とした赤い明滅があちこちにある。それは人を襲い喰らう。人を餌とすることで膨張し、更に強大になる。右手の剣を一閃し、左手の剣でとどめを刺す。赤い葉がどこからともなく舞い落ちる。双剣を振るって異形の残滓を払い、鞘に戻す。息を吐き、天を仰ぐ。
蒼天に輝く太陽。
深優が双剣を手に戦うのは、無辜の人々を守る為だけではない。何より、自分自身が生き残りたいからだ。一日でも長く。一分一秒でも長く。醜い生存欲求かもしれないが、深優はそんな自分を肯定した。そうでなければ生きていくことが出来ない。両親が異形に喰われた時、深優はまだ幼く、戦う術も知らない無力な子供だった。仁が駆けつけてくれなければ、深優もまた喰われていただろう。
異形を倒した後、仁は深優に訊いた。
生きたいか、と。
深優は震えながらも無言で強く頷いた。
仁はふと微笑み、深優の頭を些か手荒く撫でると、組織の中でも仁の住まう家に連れ帰り、戦う術を教えてくれた。双剣の師匠は、仁だ。尤も仁自身は双剣も槍も刀も遣う。そこで、宝とも出逢った。宝は出逢った頃から深優の世話を何くれとなく焼いてくれた。だから深優は今も、二人に恩義を感じている。
こんな荒んだ世界であろうと、生きたいと足掻く自分を自嘲する時もある。
だが、止むを得ない。人とは、えてしてそんなものだろう。
その夜、細々と経営されるバーに、深優はいた。未成年ではあるが、法も機能していない今、深優が酒場に出入りすることを咎める者もいない。そんな余裕のある大人がいない、と言ったほうが正しいかもしれない。
暖色の点るカウンターには、妙齢の美女がすらりとした美脚を組んで座っていた。
深紅の服に、金の刺繍が華やかだ。
深優を見るとにこりと艶やかに笑った。
「京香さん、お久し振りです」
「一年前くらいかな? 最後に深優に、会ったのは」
一年前、大規模な異形集団を狩った夜があった。京香も深優も宝も、仁の指揮のもと、戦い、異形のことごとくを葬った。赤玻璃の夜、とその戦いを名付けたのは、流浪の吟遊詩人だったか。
しばらくは近況報告を互いにし合った。深優はスクリュードライバーを舐め、京香はジントニックを呑みながら。
「宝とは、どう。上手くやってる?」
「はい。変わらず、助けられています」
「宝も同じこと言いそうね。あんたたちは、良いコンビだよ」
京香はそれ以上踏み込んだことを訊かない。そのことに、深優はほっとした。
同じ家に、年頃の男女が二人。邪推するなと言うほうが無理だろう。しかし宝と深優の関係は、目下、あくまで家族であり、それ以上でもそれ以下でもない。
胸をそっと押さえる。
淡い恋慕は、生存欲求の前で、今は封じられている。




