表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

イフ、

 遼の死を告げられた後も、深優と宝はそれまでと変わらない日々を送った。送らざるを得なかった。寝て起きて、鍛錬して食べてまた寝る。

 二人の喪失感は大きく、とりわけ深優はそれが表情に如実に出ていた。

 下手な慰めは逆効果と知る宝は何を言うでもなく、只、深優を見守ることに徹した。


 季節は晩秋から初冬に移り変わろうとしていた。

 白銀に染めたような涼風が吹き、涼しさより寒さを感じさせる日が増えた。


 そろそろ「定期健診」の日だ。

 花泊には治療師や医師がいて、傘下の人間の健康管理を担っていた。

 京香の恋人である士郎は、その一人だった。


 検診が行われる建物のある地区まで、深優と宝は並んで出向いた。二人共、万一の時の為の得物は手にしている。


 ビルの中、この時代にしては驚く程清潔に保たれている屋内に、人々が列をなしていた。深優たちもそこに並ぶ。壁には簡単な怪我の対処法などが書かれた紙が貼られている。


「次、どうぞ」


 穏やかな声に促され、宝より先に深優が前に進み出る。

 個室の中には、丸椅子に座り、温和な笑みを浮かべる士郎がいた。


「久し振りだね、深優」

「士郎、元気で良かった」


 深優が返した挨拶に、士郎は眉宇を曇らせた。


「遼のことは、残念だった」

「…………」

「京香が泣いてね。手がつけられなかったよ」


 そうだろう、と深優は心中で呟いた。


「それから、神の目が君を欲しがっていると聴いたんだが」

「あ、ああ。なぜか、解らないのだが」


 深優は輝や雁金たちのことを語った。

 士郎は医師らしい穏やかさと知的さを感じさせる空気を纏い、彼女の話に耳を傾けた。

 それから、深優の脈を取ったり、聴診器で胸の音を聴くなどする。


「身体に異常はないね。……神の目たちの話だけれど」

「何か心当たりが?」

「魂魄には信号と言うか周波数のようなものがあってね。深優のそれは少し特殊なんだ。神の目が君を欲しがるのも、そのあたりに起因しているのかもしれない」


 それ以上のことは士郎にも解らないようで、診察は終えた。深優と入れ違いに、宝が入室した。

 何の問題もないと太鼓判を押され、宝はすぐに診察室から出て来た。深優と連れ立って、帰路に就く。とろりとした黄金が山間に沈もうとしているのが見える。日も短くなってきた。二つの長い影が道に落ちている。


「深優」

「ん?」

「俺が、もし花泊を抜けようと言ったらどうする」


 深優の両目が大きく見開かれる。


「――――なぜ、そんなことを。出来る筈がない」


 宝はしばらく黙ったまま、深優の顔を凝視していたが、そうだな、と小さく応じた。

 始祖はいつまでの猶予を自分に与えるだろう。深優と共に自分が花泊に在ることを、いつまで認めてくれるだろう。

 自分が始祖の気に入りだというのは自他ともに認める事実だ。

 だが、それに対する甘えが過ぎれば、痛烈な報いを受けるだろう。


 烏が数羽、空を飛んでいる。間もなく空は黒に染まる。

 思案に耽る宝を、深優が心配そうに見ていた。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ