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告げられた喪失

 異形は一体だけではなく、周辺には人の形を成していない赤い点滅の個体がいくつもあった。人に近しい異形に動揺する深優を置き、仁と宝はそれぞれ既に抜刀していた。すると驚くべきことが起こった。


「こんにちは」


 人型の異形が言葉を発したのだ。顔には奇怪な模様があるが、それでも笑っているらしき表情は見て取れる。仁も宝も返答しない。深優もまた沈黙し、一拍遅れて抜刀した。人型の異形は少し残念そうに、自らの腕を掲げる。すると腕が鋭利な刃と化した。物も言わず仁と宝が殺到する。深優は他の異形の殲滅にあたった。ぎゃりぎゃりぎゃり、という不快な音が鳴る。仁の刀と人型の異形の刃が打ち合う音だ。


「お前は何だ? 異形なのか?」


 初めて仁が人型の異形に問いかけた。その表情は険しい。


「そうだ。お前、強いな。お前、も」


 たどたどしい言葉遣いだが、〝彼〟は答えた。仁と、そして宝を見ながら。

 最後に深優を見る。


「でも、俺は、女、が良い」


 その言葉の直後、驚くべき速さで仁の刀を潜り抜け、深優に肉迫した。深優は何とか双剣で彼の刃を防ぐ。その刃は異常に力が強く、深優はずるずる後ずさった。宝がその背中を大刀で薙ぐ。赤い液体が飛び散る。まるで血液のような。


「お前、お前、良いなあ。強い、なあ。でも、邪魔、するな」


 彼は宝に攻撃の矛先を向けた。


「散り果てる花!」


 深優の声に彼の身体の一部が爆ぜる。彼の首がぐるん、と回転し、深優を見た。


「白蓮狂い咲き。夜半炙り」


 更には宝の異能により出現した炎が彼を囲む。表面を炙る。


「熱い……。これ、いや、だ」


 彼はむずがる子供のように顔をしかめると、炎を刃で一閃して消滅させた。

 宝が目を見張る。


「ねえ、なんで? 俺、ちょっと遊びたいだけなのに。なんで? なんで? 意地悪するの? なあああああんでえええええ」


 彼の身体が台詞と共に著しく膨張、巨大化した。三メートル程の身の丈。宝も深優も絶句する。これは余りにイレギュラーな異形だ。

 彼は巨大な腕を振り回す。


「あいつ、あいつも、俺の話、聴かなかった。女と、遊ぶの、邪魔した。だから、殺した」

黒曜(こくよう)(はく)楽天(らくてん)


 巨大化した彼にひび割れが起こる。それは内部から生じたもので、やがては表皮にまで至り、彼を苦しめた。この異能を成したのは仁だ。

 ひびが身体の隅々まで行き渡ると、彼はほろほろ崩れて砂礫と化した。

 他の異形は片付いている。深優は肩で息をしていた。冷静さを己に強いる声で宝が仁に声を掛ける。


「総帥」

「二人共、無事か」

「はい。今の……異形は」

「私たちの与り知らぬところで、異形にも変化が起きているようだな」


 仁は息も乱していない。刀を一振りすると、鞘に納める。だがその面持ちは厳しいものだった。

 仁と共に家に帰り着いた深優たちだったが、玄関先に見知った姿を認める。

 振り返った顔を見ると美咲だった。疲労の色濃い様子だ。彼女は、仁に正式に花泊の一員と認められ、中部地方に赴く遼に伴われていた。


「美咲さん。戻っていたのか。遼は?」


 深優の問いかけに、美咲の顔が歪む。双眸に満ちる涙。


「美咲さん?」


 震える声で、美咲が答えた。


「遼さんの、遺言を、お伝えしに参りました……!」 




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― 新着の感想 ―
[一言] ……え? 流石に驚いた(汗)
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