テルミー
輝と深優の間に、宝が立つ。胸に下げた木の板を一瞥し大刀を構える。
「神の目か」
「然り。名は輝。見知り置いてくれよな!」
大刀と輝の剣が打ち合い、火花が散る。
せめぎ合いでは膂力の勝る宝のほうが有利だ。宝は大刀を弾き、間合いを取ると、剣を仕舞い白い札を両手にぱん、と挟んだ。
「青海」
すると水が勢いよく生じ、輝と他者との壁を作った。輝はそのまま割れた窓から外に躍り出て、砂塵に姿を紛らせた。輝の退却と機を同じくして異形の猛攻が止み、深優たちは残党を蹴散らした。ひと段落したところで里穂が剣を鞘に納める。里穂の戦いぶりもまた、年齢を感じさせない俊敏かつ果敢なものだった。
「深優さん。あの少年は」
当然訊かれるであろう問いに、深優より先に宝が答える。
「神の目の一人。なぜか、深優に執着している」
その声に、若干の苛立ちを感じたのは気のせいか。
「呪符を使っていましたな。呪術師の末裔か」
「恐らくは」
深優は複雑な思いでこの遣り取りを聴いていた。宝は、自分を助けた輝を良く思っていないようだ。敵に助けられた自分を不甲斐なく感じているのだろうか。彼の思惑が怖い。
だが、深優の危惧に反して、宝は深優を振り返ると、気遣う眼差しで問うた。
「怪我はないか」
「――――うん」
京香と遼、美咲も案じる顔つきで深優を見ている。深優は彼らに笑って見せ、健在であることを示した。
大戦後に生まれた異能力者にも様々なタイプがいる。
戦闘に特化して、魂魄を操り武具で戦う者を主として、呪符を扱い、呪術を行使する者もいた。また、それらの中でも戦士である他、治癒を専らとする者もいて、それぞれの能力は枝分かれして子孫に受け継がれた。現存する勢力の内、どれだけ多様な能力者を擁するかが、その勢力の位置を決定した。その点においても花泊と「神の目」は、他より頭一つ抜きんでた存在として知られていた。そして治癒、呪術を得手とする者は希少として重んじられた。その理論で行けば、呪術を行う輝が「神の目」六大幹部の一人というのは、年少であるにせよ、大いに納得出来るところであった。
深優は、「神の目」に勧誘されたこと、知る限りの、雁金含め遭遇した彼らの能力を詳細に話した。但し、母に関することだけは、注意深く言及から省いた。
仔細を聴いた遼は首を傾げる。
「なぜ、深優なんだ?」
胡坐を掻いた彼に膝には野良猫が丸くなっている。昼はパンとシチューが振舞われるらしい。良い匂いが漂う。深優は、解らない、と正直に首を振った。母親云々のくだりがそこに関わるのかもしれないが、彼女にそれを語る気はなかった。
「明鏡止水という能力」
宝の呟きに、深優の胸が跳ねる。
「心の中枢にいる者の顔を、深優も見たんだな? ……誰の顔を見た?」
「――――そ、れは」
深優の目が彷徨う。
正直に白状すれば自分の想いを宝に知られることになる。宝は返答を待つ姿勢でじっと赤い双眸を深優に据えている。割って入ったのは意外なことに美咲だった。
「宝さん。誰にも知られたくない胸の内はあるだろう。それよりも今は、異形の残党狩りを懸案事項とするべきでは」
美咲の正論に、宝も目を伏せる。そこには多少、己を恥じる色があった。
知りたかったのだろうか。
深優は宝の表情を探る。だとすれば、なぜ。深優の心の中枢にいる者を、知りたいと望んだのは、単に事務的な事柄として把握しておきたいだけだったのだろうか。
舞う近衛蛍の中。
お前は美しいと告げた宝を、深優は思い出していた。




