言霊乱舞
明くる朝はよく晴れていた。
深優が自分に割り当てられた仕切りの布から出て広間に行くと、もう宝は座卓に着いていた。昨夜、告げられた言葉を、深優は胸の奥底に大事に仕舞い、何気ない顔で宝におはようと言った。宝も普段通り、おはようと返す。滲む微笑にさえ、深優を落ち着かなくさせるものがあり、深優は隠れるように京香の隣に腰を下ろした。京香はそんな深優をくすりと笑うと、遼に目配せした。美咲は、彼らの見えない思惑に頓着することなく、涼しい顔をしている。新参だが、早くも花泊の空気に馴染みつつあるらしい。朝食は昨日のカレーと、幾分、ぱさついたパンだった。それでも十分なご馳走である。深優たちは他愛ない会話をしながら、朝食を済ませた。里穂が和やかに笑みを浮かべて、そんな彼女たちを見ている。
食事のあと、女性陣は屋外で洗濯をした。
とは言え、砂漠の中であるので、外に干すことは出来ない。必然的に部屋干しすることになる。洗濯を屋上で済ませた後、それらの衣服を下の階の、壁から壁に渡した綱に干した。
男性陣は各々、鍛錬に励んだり、武具の手入れをしたりしている。これは男女不平等ではなく、自然に全員の了解のもと、行われた割り振りだ。
そろそろ昼時という頃、それは起きた。
ビルの硝子が一斉に割れて砕け散り、異形の群れが大挙して押し寄せたのだ。
暗色に蠢く体内、明滅する赤。不吉な輝きは激しく、忙しない。
非戦闘員を退避させて、深優たちは迎え討つ。
刃がそこかしこで閃き、異能が発動される。中でも遼と宝の戦力は大きかった。遼は槍を巧みに扱い、異形の赤い点を一秒間に複数、貫くという離れ業をやってのけた。宝もまた大刀で次々、異形を屠っている。
体力において女性陣より勝る彼らは、異能力も惜しまず行使した。
遼が槍をくるりと回転させて異形を薙ぐ。
後ろから迫る異形にも気づいている。
「歌姫の涙」
遼がそう呟くと、ほたりほたりと異形の内側に聖水の雫が湧き、内側から異形は弱体化していく。そこを槍で仕留める。
宝は大刀を振るいながら言霊を落とす。
「白蓮狂い咲き」
すると白い大きな羽毛のような物体が何もない空間に生じ、異形を包み込む。
白は次々と生じ、異形を完全に覆い隠すと、次に収縮を始める。そこを宝は大刀で両断する。
異形の飛沫が飛散する。
それ自体が有毒なので、浄化の役目を他の花泊が果たす。連携プレーで、異形の群れを深優たちは滅していった。
思ったより安易に進む異形討伐に、油断がなかったとは言えない。
深優は背後から迫る異形に気づかなかった。その異形はほぼ全身が赤く、最早、明滅と呼ぶ域を超えていた。彼女より早く気づいた宝が、大刀を振りかざすが、距離がある。深優が異形を見た時には、既に魔手は伸びていた。
「気焔!」
いつの間に侵入していたのか、小柄な影が高らかに叫ぶと、焔が異形を直撃した。身軽な身のこなしは、昨晩、姿を見せた輝だった。輝は深優を庇う位置に立つと、背中の剣を抜き、異形を鮮やかに斬り伏せた。赤が強い異形は、それだけ強力である証だ。それを易々と葬った輝の、小柄な体躯に秘められた底力を、深優は見せつけられた心地だった。




