限りない理想郷
気づいた時には僕の身体がなくて、パニックに陥ってどれくらいになっただろう。今になって真っ当な頭になった。
そうだ、僕は死んだんだ。信号無視したトラックに引かれて。僕まだ14歳なのに?ちょっと短すぎるんじゃない?将来は有名な野球選手になるはずだったのに。好きな子だっていたのに。喧嘩した父さんにまだごめんねの一言も言えてないのに。母さんのカレーだってまた食べたかったのに。弟のそうちゃんと遊ぶ約束したのに…あれ。何だか泣きそうなのに泣けない。
身体がないから泣きたくても泣けない。わんわん声出して泣きたいのに身体がないから声も出せない。くそったれ…どうして僕がこんな目に会わなきゃいけなかったんだ。信号無視した奴め…恨みたくても恨めない。どんな奴か、なんて言う名前か分からないから恨めない。
…はぁ、これから僕どうなっちゃうんだろう。神様?それとも仏様のところに行くのかな。もしそれらしき方に会えたらもう一度お願いしてみよう。生まれ変わってあの家族の元に行きたいんです。今すぐには無理でも来世か、どこかのタイミングで父さんと母さんの元に産まれたいんですって。
でもそれらしい人をどれだけ待っても現れない。
ただ、僕の魂は青く光って暗闇を照らしていることに気づいた。あぁ、僕、今星になったんだ。辺りを見渡すと遠くに点々と光る星が見える。あれ、死ぬと天国に行くんじゃないの?
僕は救われないの?死んだら星になるって言うけどさ。なんで?どうして?しばらく悩んでいたら答えが出た。
そうか、僕たちは星から生まれて星に還るんだ。神様も仏様も居ないんだ。全て幻想だったのか。
僕の人生、幸せだっただろうか。本当の幸いとは何だったのか死んだ今思い知らされる。
でも、だんだん僕の考えが、思考が、意思が薄れていく。徐々にどうでも良くなってきた。でも、ひとつ願うなら、僕の家族に幸あらん事を…左様なら。
いつまでも、いつまでも見守っているよ。1番輝く星になって。
優しく青白く燃える僕の兄さん、空を見上げるとあまりにも無数の命が燃えている。もう兄さんが苦しまないように心から祈ります。僕の全ての幸いを持って願います、神様、仏様。どんな形でもいいので僕の愛しの兄が戻ってきますように。




