第一話 運命だと信じていた三年間が、たった一枚の写真で灰になった日
十月の終わり、放課後の図書館は静寂に包まれていた。窓から差し込む夕日が、本棚の間に長い影を落としている。僕、凪原透哉は、いつものように図書館の隅の席でノートパソコンに向かっていた。画面には複雑なプログラムコードが並び、指先が軽快にキーボードを叩く。
今日も平和な一日だった。いや、平和だと思っていた。スマートフォンがバイブレーションで震える。親友の桐生奏からのメッセージだ。
『透哉、今すぐ屋上来れるか。大事な話がある』
奏は普段から落ち着いた性格で、こんな緊急めいたメッセージを送ってくることは滅多にない。僕は少し不安を覚えながらも、ノートパソコンを閉じて図書館を後にした。
屋上のドアを開けると、奏が手すりに寄りかかって立っていた。彼の表情は硬く、いつもの穏やかな雰囲気とは明らかに違っていた。
「奏、どうした?」
「透哉...お前に見せなきゃいけないものがある」
奏は僕に自分のスマートフォンを差し出した。画面には一枚の写真が表示されている。それを見た瞬間、僕の思考が停止した。
写真には、見慣れた二人の人物が写っていた。一人は僕の恋人、久我瑠璃。そしてもう一人は、学年一のイケメンとして知られる三年生、鷹取聖。二人は駅前のカラオケボックスの前で、密着するように寄り添っていた。鷹取の腕が瑠璃の腰に回され、瑠璃は嬉しそうに笑っている。その表情は、僕の前で見せるものよりもずっと生き生きとしていた。
「これ...いつの?」
僕の声は、自分でも驚くほど冷静だった。
「昨日の夕方。偶然、俺の妹が見かけて撮ったらしい。お前に黙ってるわけにはいかなくて」
奏の声には申し訳なさが滲んでいた。でも、彼は正しい判断をしてくれた。知る権利は僕にある。
「ありがとう、奏。教えてくれて」
「透哉...大丈夫か?」
「わからない。でも、確認しないと」
僕は写真を自分のスマートフォンに転送してもらい、屋上を後にした。
その日の夜、僕は自室でノートパソコンに向かっていた。ただし、今回はプログラミングの勉強のためではない。瑠璃のSNSアカウント、位置情報の記録、クラウドストレージ。交際三年間で、僕らはお互いのパスワードを共有していた。信頼の証だと、そう思っていた。でも今、その信頼が僕に真実を暴く手段を与えてくれている。
クラウドストレージを開くと、そこには大量の写真とメッセージのバックアップがあった。日付順に並べ替え、ここ数ヶ月のデータを確認していく。そして、僕は見つけてしまった。削除されたはずのメッセージの復元データ。鷹取とのやり取りだ。
『今日も透哉、図書館に篭もってた。ほんとつまんない彼氏』
『そんな地味男と付き合ってて楽しい?俺が相手してやろうか?』
『聖くんって本当に自信家だね。でも...ちょっと興味あるかも』
日付は三ヶ月前。つまり、この裏切りは最近始まったものではない。さらにスクロールしていくと、僕の心臓が凍りつくようなメッセージが目に入った。
『透哉って、正直キープみたいなもん。頭はいいから勉強教えてもらえるし、プログラミングとかで将来稼げそうだし。でも男としては全然魅力ないんだよね』
『じゃあ俺が本命ってことでいい?』
『うん。聖くんの方が絶対いい。でも透哉、便利だから別れるのはもったいないかな』
『賢いね。じゃあ俺らは俺らで楽しもうぜ』
僕は静かにノートパソコンを閉じた。怒りが込み上げてくるかと思ったが、不思議と感情は湧いてこなかった。代わりに、冷たい何かが心の中に広がっていくのを感じた。
三年間。中学二年から高校二年まで、僕は瑠璃を本気で愛していた。彼女の誕生日には、プログラミングのバイト代で貯めたお金でプレゼントを買い、体調を崩せば看病に駆けつけ、進路に悩めば一緒に考えた。彼女の笑顔を見るために、僕は全力で彼女を支えてきた。でも彼女にとって、僕はただの便利な道具だった。
そして鷹取聖。学校のヒーロー気取りの三年生。サッカー部のエースで、イケメンで、金持ちの息子。僕とは正反対の存在だ。スマートフォンが震える。瑠璃からのメッセージだ。
『透哉、明日のデート楽しみ♪ 新しいカフェ見つけたの!』
僕は返信を打つ。
『楽しみだね。明日、三時に駅前でいい?』
『うん! 大好き♡』
大好き、か。その言葉の軽さに、今なら気づける。僕はノートパソコンを再び開き、新しいフォルダを作成した。フォルダ名は「Project R」。Rは、Revengeの頭文字だ。
まずは情報収集から始めよう。鷹取聖について、あらゆる情報を集める必要がある。幸い、僕には時間も、技術も、そして資金もある。中学生の時に開発したアプリが企業に買収され、その資金が銀行口座に眠っている。両親には内緒で、僕名義の口座に数千万円。誰にも言っていない秘密だ。瑠璃も知らない。彼女は僕のことを、ただの地味で頭がいいだけの高校生だと思っている。それが彼女の最大の間違いだった。
翌日の放課後、僕は約束通り瑠璃とデートをした。彼女はいつも通り笑顔で、腕を組んできた。
「ねえ透哉、このカフェ、インスタ映えするでしょ?」
「うん、綺麗だね」
僕は笑顔で答えた。完璧な演技だった。カフェで二時間ほど過ごした後、瑠璃のスマートフォンが鳴った。
「あ、ちょっとごめん。友達から」
彼女は席を立ち、店の外に出て電話に出た。僕は窓越しに彼女の様子を観察する。表情が緩み、楽しそうに話している。友達、ではないことは明白だった。
十分後、彼女が戻ってきた。
「ごめんね、美咲から急用で。今日はもう帰らなきゃ」
「そっか。気をつけてね」
「うん! じゃあまたね、透哉」
彼女は僕の頬に軽くキスをして、去っていった。僕はカフェに残り、スマートフォンを取り出す。先ほど瑠璃が電話に出る際、僕はこっそりと彼女のスマートフォンにスパイウェアをインストールしておいた。プログラミングの技術があれば、こういったことは朝飯前だ。
アプリを開くと、瑠璃の現在位置が地図上に表示される。彼女は駅前のカラオケボックスに向かっていた。そして三十分後、鷹取聖も同じ場所に到着したことを、GPSが教えてくれた。僕は静かに立ち上がり、会計を済ませて店を出た。
カラオケボックスまでは徒歩十分。僕は少し離れた場所から建物を眺め、二人が出てくるのを待った。二時間後、瑠璃と鷹取が店から出てきた。二人は人目を憚る様子もなく、手を繋いでいた。鷹取が瑠璃の髪を撫で、彼女が嬉しそうに笑う。僕はスマートフォンで、その様子を動画に収めた。完璧な証拠だ。
その夜、僕は再び自室でノートパソコンに向かっていた。今度は鷹取聖について調べる番だ。学校の成績、部活の記録、SNSのアカウント。表面的な情報はすぐに集まった。しかし、僕が欲しいのはもっと深い部分だ。
鷹取の父親は、中堅の建設会社を経営している。会社名は鷹取建設。従業員数は百名ほどで、地域密着型の企業だ。そして鷹取聖本人は、サッカー部のエースとして、複数の大学からスカウトを受けている。特に有名私大のスポーツ推薦が内定しているらしい。順風満帆な人生。でも、本当にそうだろうか?
僕はダークウェブにアクセスし、ある情報ブローカーに連絡を取った。中学時代から付き合いのある相手で、金さえ払えば大抵の情報を手に入れてくれる。
『鷹取聖、18歳、高校三年生。この人物に関する、表に出ていない情報が欲しい』
返信は三十分後に来た。
『了解。48時間以内に送る。報酬は例の口座に50万円』
高い買い物だが、価値はある。そして約束通り、二日後に情報が届いた。PDFファイルを開くと、そこには驚くべき内容が記されていた。
鷹取聖は、サッカー部での実績を上げるために、禁止薬物を使用している疑いがある。具体的には、筋力増強剤とドーピング薬物だ。また、大学のスポーツ推薦についても、父親の会社から大学側に多額の寄付が行われていた記録がある。実質的な裏口推薦だ。さらに、鷹取建設の経営状況も芳しくない。帳簿を操作して利益を水増しし、銀行から融資を引き出している可能性が高い。全て、証拠付きだ。
僕は薄く笑った。これは使える。十分に使える。でも、まだ足りない。瑠璃についても、もっと情報が必要だ。
僕は瑠璃のSNSアカウントを精査した。彼女は表向きのアカウントとは別に、鍵付きの裏アカウントを持っていた。そこには、彼女の本音が赤裸々に綴られていた。
『透哉、マジで退屈。デートもつまんない。でも勉強は教えてくれるし、プログラミングで将来金持ちになりそうだから、今は別れられない』
『聖くんとのデート、超楽しかった! やっぱりイケメンで金持ちで運動神経いい男が最高。透哉とは比べ物にならない』
『透哉、私のこと本気で好きみたいでキモい。でも便利だから利用させてもらう』
一つ一つの投稿が、僕の心を抉った。でも、不思議と冷静だった。怒りや悲しみではなく、ただ冷たい決意だけが心を満たしていく。僕は全てのスクリーンショットを保存し、「Project R」フォルダに格納した。
そして、復讐計画の全体像を文書にまとめ始めた。第一段階は鷹取聖の不正を暴露する。ドーピングと裏口推薦の証拠を、適切な機関に通報する。第二段階は鷹取建設の不正会計を告発する。これにより、鷹取家の経済的基盤を崩壊させる。第三段階は瑠璃の裏アカウントを、彼女のフォロワー全員に公開する。彼女の社会的評判を地に落とす。第四段階は、全てが終わった後、僕は新しい人生を始める。海外の大学への飛び級進学を申請し、この街を去る。
完璧な計画だ。ただし、実行には慎重さが求められる。一つでも失敗すれば、僕が加害者として扱われる可能性がある。全ては合法的に、そして確実に。
月曜日の朝、僕は学校でいつも通りに過ごした。瑠璃とも普通に会話し、彼女の頬にキスもした。彼女は嬉しそうに笑い、僕の手を握った。その手の温もりは、もう僕の心に何も響かなかった。
放課後、僕は奏に声をかけた。
「奏、少し手伝ってほしいことがあるんだけど」
「何だ?」
「鷹取聖について、もっと情報が欲しい。特に部活関連で何か知らないか?」
奏は少し考えてから答えた。
「実は、俺の後輩がサッカー部にいるんだけど、鷹取のこと良く思ってないみたいなんだ。理由は聞いてないけど」
「その後輩と話せる?」
「多分。放課後、サッカー部の練習終わりに声かけてみる」
「ありがとう」
そして夕方、僕と奏は校門の近くでその後輩を待った。現れたのは、小柄な一年生だった。名前は橋本というらしい。
「先輩、話って何ですか?」
橋本は警戒した様子で尋ねた。
「鷹取聖について聞きたいんだ。君、彼のこと良く思ってないって本当?」
橋本の表情が曇る。
「...別に。ただ、先輩は良い人じゃないってだけです」
「具体的に教えてくれないか。実は、俺にも鷹取に関して調べたいことがあって」
橋本は周囲を見回してから、小声で話し始めた。
「鷹取先輩、薬使ってるんです。筋肉増強剤みたいなの。部室で何度か見たことあります。あと、試合前には必ず怪しいドリンク飲んでて」
「それ、証拠はある?」
「写真なら...一応」
橋本はスマートフォンを取り出し、写真を見せてくれた。そこには、鷹取がロッカーから小瓶を取り出している様子が写っていた。
「これ、僕に送ってくれないか?」
「いいですけど...何に使うんですか?」
「正しいことに使う。約束する」
橋本は少し迷ってから、写真を僕のスマートフォンに送ってくれた。完璧だ。これで物的証拠が揃った。
その夜、僕は日本アンチ・ドーピング機構に匿名で通報メールを送った。鷹取聖の名前、所属する高校、そして証拠写真を添付して。また、鷹取が推薦を受ける予定の大学にも、裏口推薦の疑いがあることを示す証拠を送付した。これで第一段階は完了だ。
水曜日の夕方、学校中が騒然となった。鷹取聖が、ドーピング検査のために呼び出されたのだ。しかも、大学からのスポーツ推薦も白紙に戻されたという噂が流れた。廊下で、鷹取が顔を真っ赤にして誰かと電話している姿を見かけた。
「なんでだよ! 俺は何もしてない!」
彼の声は怒りと焦りに満ちていた。僕は静かに通り過ぎた。
そして放課後、瑠璃から電話がかかってきた。
「透哉、今時間ある? ちょっと話したいことがあって」
「いいよ。どこで会う?」
「いつもの公園で」
僕は公園に向かった。ベンチに座って待っていると、瑠璃が走ってきた。彼女の表情は不安そうだった。
「透哉、聖くんが大変なことになってるの」
「聖くん?」
僕はわざと驚いた表情を作った。
「鷹取先輩のこと? なんかドーピングで問題になってるって聞いたけど」
「そうなの。でも、聖くんはそんなことしてない。絶対に誰かの陰謀だって」
瑠璃は必死だった。彼女にとって、鷹取の没落は自分の計画の崩壊を意味する。
「瑠璃、なんでそんなに鷹取先輩の心配してるの?」
僕は静かに尋ねた。
「え? だって、同じ学校の先輩だし...」
「本当にそれだけ?」
瑠璃の表情が一瞬凍りついた。
「透哉...何が言いたいの?」
「何でもない。ただ、そんなに心配するほど親しい関係なのかなって」
僕は笑顔で言った。瑠璃は少し安心したような表情を見せた。
「まあ、知り合いだから心配になっちゃって。透哉は優しいから、わかってくれるよね?」
「うん、わかるよ」
僕は彼女の手を握った。彼女も握り返してくる。その手の温もりは、もう僕には何も伝えてこなかった。
金曜日、さらに大きな事件が起こった。鷹取建設が、税務調査を受けることになったのだ。帳簿の不正が発覚し、大規模な追徴課税が予想されるという。これも僕が、国税庁に匿名で情報提供した結果だ。鷹取は学校を休んだ。彼の家庭が混乱しているのは想像に難くない。
そして週末、僕は最後の準備に取り掛かった。瑠璃の裏アカウントの内容を、彼女のフォロワー全員に送信するプログラムを作成する。これは少し複雑な作業だったが、僕の技術なら問題ない。また、瑠璃の表向きのSNSアカウントに、裏アカウントへのリンクを自動投稿するウイルスも仕込んだ。全ての準備が整った。あとは、タイミングを見計らって実行するだけだ。
月曜日の朝、僕は学校に向かう途中、瑠璃からメッセージを受け取った。
『透哉、今日学校休む。ちょっと体調悪くて』
『大丈夫? 何かできることある?』
『ううん、大丈夫。心配してくれてありがとう』
彼女が学校を休む本当の理由は、鷹取の問題で精神的に参っているからだろう。完璧なタイミングだ。
昼休み、僕はトイレの個室でスマートフォンを操作した。プログラムを起動させ、瑠璃の裏アカウントの情報を拡散する。数分後、学校中のスマートフォンが一斉に通知音を鳴らした。瑠璃のSNSアカウントから、奇妙な投稿がされたのだ。それは裏アカウントへのリンクで、そこには彼女の本音が全て晒されていた。
教室中が騒然となった。
「これ、久我さんの裏アカ?」
「マジで最低じゃん」
「凪原くんのこと、あんな風に言ってたんだ」
生徒たちの視線が、僕に集まった。同情、驚き、怒り。様々な感情が交錯している。僕は静かに席に座り、何も言わなかった。
放課後、奏が声をかけてきた。
「透哉...お前、知ってたのか?」
「うん」
「それで...」
「復讐したんだ。瑠璃にも、鷹取にも」
奏は深くため息をついた。
「そっか。まあ、お前の気持ちはわかる」
「ありがとう、奏」
その日の夜、瑠璃から何十通ものメッセージと着信があった。でも、僕は一切応答しなかった。次の日、瑠璃は学校に来た。でも、彼女を待っていたのは冷たい視線と陰口だけだった。
昼休み、彼女は僕のところに泣きながら駆け寄ってきた。
「透哉、お願い。許して。私が悪かった。本当にごめんなさい」
「瑠璃、もう遅いよ」
僕は冷たく言った。
「お願い、もう一度やり直そう。私、透哉のこと本当に好きだったの」
「嘘だね。君が好きだったのは、僕の能力と将来性だけだ」
瑠璃は言葉に詰まった。
「君が選んだ道だ。鷹取と一緒に、その結果を受け入れて」
僕はそう言って、彼女から離れた。瑠璃の泣き声が、背中に響いた。でも、僕は振り返らなかった。
その後、瑠璃は生徒会副会長の座を追われ、友人たちからも距離を置かれるようになった。SNSのアカウントは炎上し、結局削除せざるを得なくなった。そして鷹取は、ドーピングが正式に認定され、全ての競技資格を剥奪された。大学のスポーツ推薦も完全に取り消しになった。鷹取建設も、税務調査の結果、多額の追徴課税を課され、経営危機に陥った。全ては、僕が計画した通りに進んだ。
十一月の終わり、僕は校長室に呼ばれた。
「凪原くん、素晴らしい知らせがあります」
校長は嬉しそうに言った。
「君の論文が、国際的なプログラミングコンテストで最優秀賞を受賞しました。そして、アメリカの名門大学から飛び級での入学オファーが届いています」
「本当ですか」
「ええ。君のような才能ある生徒が海外で活躍することを、私たちは誇りに思います」
僕は丁寧に礼を言った。実は、このオファーも僕が計画の一部として準備していたものだ。復讐を完遂した後、この街を離れるために。
十二月、僕は退学の手続きを終え、日本を離れる準備を進めた。出発の前日、僕は最後に瑠璃にメッセージを送った。
『瑠璃へ
君が僕を裏切った時、僕の中で何かが壊れた。でも同時に、新しい何かが生まれた。
君は僕を道具として見ていた。だから僕も、君を復讐の道具として使わせてもらった。
鷹取と君は、お互いに相応しい相手だったと思う。自分勝手で、傲慢で、他人を踏み台にすることに躊躇がない。
でも、世界は君たちに優しくなかった。
これからの人生、後悔と絶望の中で生きていくといい。
それが、君が選んだ道の結果だ。
さようなら。
凪原透哉』
送信ボタンを押した後、僕は瑠璃のアカウントをブロックした。もう二度と、彼女と関わることはない。
翌日、僕は成田空港にいた。奏だけが、見送りに来てくれた。
「透哉、向こうでも頑張れよ」
「ありがとう、奏。お前だけは、最後まで味方でいてくれた」
「友達だからな」
僕たちは握手を交わした。搭乗ゲートをくぐる前、僕は振り返って日本を見た。この国で過ごした十七年間。その中には、幸せな思い出もあった。でも、最後の三ヶ月が、全てを塗り替えた。僕は新しい人生を始める。瑠璃も鷹取も、もう僕の人生には存在しない。彼らは彼らで、自分たちが選んだ道の結果と向き合っていくだろう。
僕はゲートをくぐり、飛行機に乗り込んだ。窓の外に広がる青空を見ながら、僕は小さく笑った。君が望んだ世界で、僕は笑っている。




