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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 4 親愛なる災禍へ

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リバース・ナイト

 舐められない事。

 法律の機能しない町でそれは本当に重要だ。舐められないとは即ち、こいつをいい加減に相手すると良くない事が起こると思わせる。その手っ取り早い手段が暴力だから、犯罪者の多くは暴力に頼る。人間災害―――透子はその究極だ。誰もその暴力で勝つ事が出来ないから災害としてこの町に君臨している。暴力以外の手段に頼ろうにも透子は天涯孤独で、失って困るような立場もない。無敵の人という概念は警察に逮捕された所で失うものがなく、法律が抑止力にならない人間の事だが、彼女は別の意味で無敵……いや、本来の意味で無敵だ。

 そんな透子が傍に居てくれるから皆が誠実になるとフェイさんも言っていた。誠実になる人間というのは大体透子の正体を知っている人間だ。正体を知らず、知らなくても本人が傍に居ない今、果たして俺に対して誠実でいてくれる人間は存在するのか。


 ―――誠実さはずっと感じてたりするんだよな。


 わざわざ言及しようとも思わないが、こうして町中を歩いていると様々な外国語が聞こえてくる。勿論ここは日本だから公用語があるとすれば日本語なのだが、違う国の者同士が喋っている時なんて、日本語を使う道理がない。地味かもしれないが、KIDやผีさんが日本語を使って喋ってくれるのはひょっとすると気遣いなのかもしれない。

 単に公用語で喋った方が面倒が起きないだけかもしれないが。

「駅か……」

 電車が動いていればどんな風になっていただろう。誰かが鉄道を支配しようとする未来しか見えない。そして電車の中では仁義なき殺し合いが始まるのだ。動く密室の中で殺されれば証拠隠滅だって楽に行える。抵抗しようにも多勢に無勢で、透子以外は為す術がない。

「おう。てめえウチのモンじゃねえな。それ以上来るんじゃねえぞ」

 駅の前に到着して茫然と外観を眺めていると、入り口の自販機に用事のあった一味が俺に気づいて近寄ってきた。それだけで少し、周囲の人が捌けていく。

「……バレット・ウルフか?」

「おう。見りゃ分かんだろ」

 バレット・ウルフは狼を模したフードを被る奇特なファッションで結束を示し、所属を表している。それ以外のルールはないらしいが、殆どは全身を灰色で揃えて狼っぽくしているらしい。見れば分かるはその通りで、俺の質問はまるで外の人間の様に無知だった。

「なんだお前、ウチに入りたいのか? ならファッションから出直せ、んだよその普通の格好は。だっせえの!」

「違う。アンタ達がこの辺を支配してるって聞いたから聞きたい事があってきたんだ。出来れば色んな人から話を聞きたいんだけど、中に入れてもらえないか?」

「ここは俺らのシマだ。部外者が立ち入ってくんな。お前、あれだろ。人間災害のせいで住所失った奴だな? 覚えとけ! この町じゃバレット・ウルフに逆らっちゃいけねえんだ!」

 どん、と軽く胸を突かれる。そんな話は聞いた事ない。三大組織を引き合いに出さなくてもカラーギャングより大きな組織は幾らでもあるし。どうも俺を外の人間と勘違いしてフカしているようだ。

「示月会よりも逆らっちゃ駄目なのか?」

「ああ! ……ああ?」

 因みに示月会が何かは知らない。川箕の地下室にあった作業台のメモ書きにそういう名前が書いてあっただけだ。今、何となく思い出したから口に出しただけ。相手がフカすなら俺もハッタリを仕掛ける。

「示月会ってなんだ?」

「や、気にしないでくれ。似た話をさっき聞いただけだよ。じゃあせめてお前だけでも教えてくれないか。この辺に甲冑を着た危ない奴等が歩き回ってるだろ。それについて」

「ああ? んだよ、そいつの話かよ! あれには俺らも手ぇ焼いてんだ、教えてやる」


 ―――手を焼いてる?


「何かされたのか?」

「何かってレベルじゃねえぞ! 俺らのメインのアジトはここだが、他にも隠れ場があんだよ。ま、ウチのモンがほとぼり冷ます時に使う奴だわな。アイツら、『姫は何処だ』とか急に乗り込んできやがってよ。こっちが下手に出てりゃ剣ぶっこ抜いて大立ち回りさ。そんで俺らは仕返しにアイツらが溜まってる場所探してカチコもうとしてる。お前も参加するか?」

「え?」

「アイツらの事聞いてきたって事ぁ、なんかあったんだろ。何か所か家を焼かれてる奴も居たからな。つっても任せられるの周囲の監視だけだが。アイツらの死ぬ所が見てえなら来いよ」

「……とりあえず集合場所を教えてもらっていいか? 現地集合の方がややこしくなくていいだろ。俺は一応部外者だし……会議に参加する訳にもいかないからな」

 男は軽く俺の肩を叩くと、申し訳程度の耳打ちをした。

「ドールズ・アリスっていうとこだ。そこにバン止めっから、来い。話は通してやる。分かりにくいからその日傘持って来いよ」




















「お疲れ様。じゃあ交代ね」

 今度は俺と入れ替わる形で透子がニーナと布団を俺に渡してくる。彼女は気づいていないようだ。布団を介して触覚を誤魔化す作戦は一先ず成功と言えるかもしれない。

「川箕は?」

「まだ地下室に居るんじゃないかしら。彼女、作業に夢中だと時間を忘れるから……呼んできた方がいい?」

「いや、鎧の分析だっけ。終わったら勝手にまた騒ぎ始めるだろうしいいかな」

「それで…………情報収集の結果は?」

「結論から言うと、ニーナにとっては味方かもしれないけど俺達が襲われる可能性は高いな。かなり無茶苦茶やってるみたいだ。探す当てもなく、ただ目に付いた場所にかちこんでる。俺も襲われて、危うく爆殺される所だった」

「……君を、爆殺?」

「だ、大丈夫だったよ。助けてもらったし。ただ近くにいた人は……駄目だったな。あいつらの剣、爆破するらしい。なんかファンタジーっぽい格好してる割には度々近代的なのは何だろうな。騙されたよ」

「………………この子をどうするつもりかは、言ってた?」

「やっぱりニーナを探す事自体秘密っぽいんだよな。良く分かんないよ。じゃあ何であの時書店に居た奴は教えてくれたんだ。教えんなよ」

「甲冑を着るだけで仲間の様に思わせるのはある意味カラーギャング的というか、単純だけど。だから甲冑を拝借してただけで実は違う人間なんじゃない? 私達だって鎧を剥げたし、多少強ければ可能な筈よ」

 そんな奴がいるとは思えないみたいな発言もあったし、その可能性は確かにあるか。それなら姫―――ニーナの容姿を答えられなかったのも納得が行く。つまり俺を探す潜入捜査官みたいな物だ。『夏目十朗』の名前だけ知っている。顔は知らない。そんな状態で探そうとしたらあれくらい不自然になってしまうのだろう。

「……身代金なんて一ドルも取れないからやめとけみたいな話をマーケットの方からされたんだ。じゃあこの子の価値ってなんだ? 育ちは良さそうだからてっきりそれ目的で連れ攫われたんだと思ったんだけど……」

「それは本人から聞くしかないわね。今日はずっと眠りっぱなしで……今までどれだけ気を張っていたのやら。目も見えなくなった以上、騎士達には過激な行いは慎んでほしいわね。怖がらせてしまったら元も子もないでしょうに」

「そう。それなんだよな。目が見えない子を騎士が見つけやすいように何処かに置き去りにする訳にもいかないしさ……」


 バタンっ!


 勢いよく扉を開けて入ってきたのは元の部屋主である川箕だった。

「川箕、ニーナが起きる」

「あ、ごめん! 甲冑の分析終わったよっ。アイツらは敵? 味方?」

「俺達を殺しに来る可能性が高い事は分かった」

「じゃあ対策会議だねっ。……ニーナちゃんの補聴器、切った方がいいかな」

「どうせ眠っているんだし、聞こえないから大丈夫よ。補聴器を切るのはこっちの都合じゃない、そんなの駄目。いつまでも慣れなかったら困るのはこの子なんだから」

 透子はかなりニーナに入れ込んでいる。本当に、昔、親しい人が居たのかもしれない。

「あの甲冑だけど、兜と鎧でそれぞれ違う機能があったよ。鎧の方は透子ちゃんも言ったように身体能力を強化する……具体的には神経の伝達を早くする事で反応速度を上げてる。一人で可能な限り実験した感じだけど、大体常人の二倍くらいの速度にはなるかな」

「それを、デメリットなしで出来るのか?」

「デメリットはあるよ。鎧から装置を切り離して使ってみたけど、一分も使ってると体の動きがおかしくなるんだ。電気信号が上手く届かないっていうのかな、自分が足を動かすぞって思ってても腕が動いちゃうみたいな」

「無理やり反応速度を上げているんだからそうなるわね。本来神経の伝達は化学的に行われているもの、外付けで無理やり強化するなんて身体が想定していないわ」

 ……透子は、どれくらい早く動けるのだろう。

 人質なんて無意味と言われるくらいだから、二倍では済まなそうだ。

「次に兜だけど、こっちは凄いね! 電気を介して脳と繋がる事で所謂脳のリミッターを解除したり、逆に制限をかけて無力化する事も出来る。それで洗脳とかは無理だけど、無理やり幸福物質を解放させられるからそれで悪い事は……出来るかもね」

「た、試したのか!?」

「流石に調べただけっ。でもこれ、この町に普及したら危ないんじゃないかな。みんな普通の鎧だって思ってるみたいだけど、知れ渡ったら大変だよ……」


 ……もし。


「もしこれを使ってさ、人間災害を服従させるって考える奴が出たら、そいつが天下取らないか? 拘束出来るかとかは知らないけどさ」

「それは不可能ね」

 答えを知っているかのように、透子が切り捨てる。

「その程度でどうにかなるなら、人間災害は大国から狙われないわよ」

 また、ぐうの音も出ないような事を。

 そうだ。人類の歴史はあまりに長く、誰もやった事がないような事が日に日になくなっていく世界だ。かつて人間災害が懸賞金をかけられてあらゆる国から狙われた時、国はどんな被害を出してでも殺す為に手を尽くした筈だ。そして殺す以外の方針にならなかったのは服従させる事が不可能だと分かっていたからではないか。

「ただ、危ないのは間違いないわね。永久的な洗脳はともかく、契約書を書かせるくらいの事には間違いなく使えるわ。早く処分しないとね」

「処分より、私の所に集めてほしいな。沢山あったらそれを改良して作りたい物あるんだよね」

「…………そうだ、言い忘れてたんだけど。騎士達の溜まり場をウルフ・バレットが襲撃するらしい。ドールズ・アリスって所らしいけど。川箕も行くか?」

「え、行く行く! でもそこって、確か……?」






「未成年だけを扱う風俗よ。清廉たる騎士様は随分と高尚な趣味をお持ちのようね」

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