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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 3 夕立の降る青春

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呪いの軌跡

 ビデオに空白の期間が存在する。それ以外の作品にインターバルが何故か存在しない以上、その空白の期間にはそれだけ撮影されたビデオがある……と考えられる。

 それはこの調査が始まって以来の大きな行動方針となった。死体で気分が悪くなった分、食事は控えめにしつつ問題はどのようにビデオを見つけるかだ。

「ビデオ屋に行けば店頭に出してないのがあるんじゃないか?」

「そもそも販売してるかどうかも定かじゃないわよ。私、借りる時このシリーズを全部お願いって言ったんだけど、元から貸し出されてた物を除けば全部貰ったんだから」

「少なくとも流通はしてないって事か……じゃあネットは? 川箕はダークウェブ使ったんだろ?」

「家に戻って見てみる? 確かに調べてないし」

「あ、ここで出来る訳じゃないんだな」

「当たり前でしょ! こんな携帯で何が出来るの。これは町がまだ狭かった頃に買った既製品だから、とてもじゃないけど繋げないよ。ダークウェブって簡単に言っちゃったけど、電脳世界のかばね町みたいな場所なんだよ? 危ない事だらけだから、普段は触れないようになってるんだよ。だから潜ろうとする人は自己責任っ」

「……それじゃあ私はもう一度ビデオ屋に行って在庫を確認してみるわね。ああは言ったけど、やっぱりその可能性も一応あると思うから潰しておくわね。二人は家に帰ってネットを漁ってみて」

 昼食も丁度終わる頃合いに方針が決まった。


 透子と早めに別れた後、俺達はガレージに戻ってパソコンの前に集まった。


「……あ、夏目は別にスタンバらなくてもいいよ? 別に人数が多ければ何か変わるって程の事でもないから」

「俺は何すればいいんだ?」

 一人で行動を起こせる程この町を知っている訳じゃない。もっと言えば誰かの傍についている事でしてやれる事もない。一般人なのだ。自分の役割について考えた時、何もない事を思い知らされる。

「そうだね…………じゃあ私が欲しい物をリストアップするからそれを調達してきてくれない? 作りたい物があってさ」

「お使いか。まあそれくらいなら俺にも出来そうだ。何を作るんだ?」

「内緒っ。夏目には驚いてほしいしね!」

 そう言って彼女はサラサラとメモを素早く書き上げると俺に渡してくれた。そこで気づいたが、メモに書かれた言葉について何一つ存じ上げない単語ばかりだ。機械部品なのは何となく察せるが、聞き馴染みがない。

「これは……何処で手に入るんだ?」

「んー闇市とか? 頼りたくない気持ちは分かるけど、今回の一件はもうマーケットの人を関わらせちゃったし、事情を話したら売ってるお店を教えてくれそうじゃない?」

「……一応聞きたいんだけどこれ、電子部品だよな?」

「うん。どうしても怪しい所に行きたくないならこの話は忘れていいよっ。無理強いする物でもないし……」

「いや、大丈夫だ。メモ書きがあれば大丈夫……だと思う。大丈夫、だよな?」

「勝手に自信なくしてるけど大丈夫じゃないよね!?」

 心配しているが、本当に大丈夫だという確信はある。得体のしれない闇市と違ってそこは比較的きちんとお店をしているし、一度行った事がある。問題だったのはこのメモ書きを持って行けるかどうかだったから、それさえ確かならどうという事はない。間違っても専門家ではない俺にこれらの注文を宙でどうにかしろと言われたら、それはこの町の治安を改善するくらい不可能な事案になる。


 ―――危険なのは分かってる。


 透子も居ない、川箕もいない。俺一人で何処かへ向かう事がどれだけ危険な事かをこれまでの生活が教えてくれている。特に透子が傍に居ない事は大きく、俺が彼女の正体を知らなかった時でさえ何となく彼女が傍に居れば安心出来た。それは薄々人間災害の正体に気が付いていたからではなく心理的な格好つけだ。『傍に守りたい子がいるから怯えていられない』という類の勇気とか見栄。

 ただ、いつまでも透子に甘える訳には行かないだろう。それは彼女にいつまでも正体を隠させる事にも繋がる。ここまで隠してきたのだ、俺に正体を明かすような事になるからには、彼女自身に力による守護は不要だと証明しなければならない。

 俺は客人か?

 違う、もうこの町の住人だ。

 なら守られてばかりなんていられない。

「本当に大丈夫だって。じゃあ行ってくるよ。そっちはよろしくな」

「そこまで言うなら……うん、よろしくねっ」

 向かう場所は……分かるだろう。『ロビア』だ。あそこには当初監視カメラの映像目当てに訪れたが、あそこは電子部品を表向き扱っている。品揃えが充実しているかどうかも分からないが、俺達が映像を確認していた横で客が来ていた筈だ。マーケットの幹部が、何か品物を頼み、店主のフェイがそれを見繕っていた記憶がある。メモ書きがあるなら同じ要領で何とかなりそうだ。

 今度はきちんと、客として。品物があればの話だが。




















「小僧! 少し見ない内に見すぼらしくなったじゃねえか!」

「…………褒めて、ませんよね?」

「褒めてはないが貶してもないな。外の香りがしないのはやっぱりこの町が広がっちまったからか?」

「そうですね。フェイさんはニュースとか見ないんですか? 夏目十朗が手引きしたみたいな話……」

「勿論知ってるぜ。だがどうもおかしな話だ。あれだけの火力を出せる化け物は人間災害のみだからな。それ以外の奴の仕業って事になって納得してる人間がどれだけ居るか……ひでえ冤罪を擦り付けられたもんだぜ」

「…………」

 この人は、俺の名前を知らないのか?

 初めて訪れた時、透子が俺の名前を言ったか言っていないかはよく覚えていない。当時はそんな事を意識すらしていなかった。まさか自分が指名手配されるなんて思ってもみなかったし、もし思っていたなら未来予知の使い手だ。やはりこんな事態にならないよう立ち回っていただろう。

「なんだ、世間話をしに来た訳じゃねえだろ。用件を言えよ用件を。何かお探しだから、うちに来たんだろ」

「これ、このお店にありますか?」

 メモ書きをカウンターの上に置く。店内に陳列された部品に説明がかかれていれば頑張って自力で探したかもしれないが、不親切が過ぎるあまり値段くらいしか書かれていない。

「…………中々変わった注文だな。勿論あるが、てめえにお使いを頼んだ奴は一体何処の誰だ? こんなもん、一回は現物を見てねえとパーツの逆算なんて出来ねえと思うが」

 川箕は一体何を作ろうとしているんだ?

「俺も良く分からないんです。でも頼まれたので」

「そうかよ。まあうちとしちゃ何でもいいが……小僧。金は持ってんだろうな」

 持っていない。

 いる訳がない。

 半ば勢いで飛び出したから。

「…………い、幾らかかりますか?」

「そうだな。外のバイトで楽に稼げるとは思わねえこった。割引してやってもいいが、マジでお高くつくぜ。それでも値段を聞くか? 言っとくがこっちは親切心だ、金も払えねえのにわざわざ絶望させる趣味はねえんだよ。もう一度聞くぞ、払う当てはあるか?」

「…………ま、待ってくれ。とりあえず電話を入れても良いか?」

 ここで帰ったとしても川箕は俺を責めないだろう。けど俺は、俺自身は役に立ちたい。彼女の喜んだ顔が見たい。何を作るつもりかは知らないが、貴重らしいしきっと俺が手に入れる事なんて半分くらい期待していないに違いない。驚かせてやろうではないか。

 持っていた携帯を使って連絡を入れる。電話は一瞬で終わり、俺はフェイさんの方へと振り返った。

「大丈夫みたいです」

「ほう? それじゃ回収先を教えてもらおうか」


「マーケット・ヘルメス」


 電話先は、サイトウさんだ。三大組織に借りを作るべきではないと分かっていたが、今回の一件はどの道マーケットを関与させてしまった。金の流れを追ってくれた恩もあるし、どうせ頼るならこういう時に頼った方が向こうも気持ちいいだろうと踏んだのだ。

 フェイさんはサングラスがずれてもいないのにかけ直す素振りをして、俺を改めて見つめた。

「…………守られてばかりの小僧だと思ったが、ちっとはやる奴になったじゃねえか! おもしれえ! 売買成立だ。待ってな」

「そういえば今更なんですけど、説明がないんじゃ虚偽の商品を渡された場合に気づけなくないですか?」

「んなケチな真似誰がすんだ? なよっちい野郎ならやったかもしれねえが、てめえはマーケットを引きずり込んだ。てめえの要求に嘘を混ぜたらうちはそのマーケットに砂をかけたようなもんだ。だから、その判断は正しいぜ? 後ろ盾が生まれたら、騙そうなんて気も起きなくなる」

 店主は裏の倉庫に行く直前、俺の方へ振り返って。




「覚えておけよ。後ろ盾のねえ奴に俺らは容赦しねえ。もしてめえに誠実な奴しか現れないんだったら、そいつはてめえの後ろ盾がそれだけ強力だって事だ。自分の力だって思うんじゃねえぞ。何かするときは強え奴を頼りな。だから俺はてめえを小僧と呼ぶんだぜ?」


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