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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 7 未亡の愛こそ青き愛

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過ぎ去りし科学は未来の魔法

 見せしめ、或いは統率力の誇示によりキョウ達はその場を離れた。なにぶん、台人数を引き連れている。途中で見知らぬ人間が二人離脱したところで誰も何も思うまい。


 ―――レインに俺の正体がバレてるなんて、あり得ないよな?


 災害らしい挙動は何も見せていないし、キョウは俺にもティルナさんにも興味関心がない様子だった。だからあの集会自体が罠だったというような事実はない。実際手を離したらすぐに先頭集団へ行ってしまったから、ただ逆らうな、お前も死ぬからと警告したかったのだろう。

「しかしナイスですティルナさん。延命処置をしないと死ぬし、自分がやると言い出してるって事は、川箕はこの近くに居るって事ですからね」

「まあ、それほどでも。彼女達は一旦ここを離れるみたいですから戻ってくるまでに探しましょう。虱潰しにはなりますが……」



「じゅ、ジュード様。わ、わ、わ、わたし!」


 

 部屋に戻って情報を共有しようとしたその時、慌てた様子で二人が入り口で足踏みしていた。ニーナはともかくヒルダまで。彼女はティルナの妹であり、戦力的な期待はされていない。一緒になって慌てているのは珍しい。

「どうしたのヒルダ。誰か来ちゃった?」

「おね、おねえちゃん! 私達見つけちゃった! 川箕さんの居場所!」

「は? お、おい。どういう事だ?」

「実はジュード様が去った後、二人で静かにしていたつもりでした。お二人が戻ってこられた時にご迷惑をおかけしないように。そうしているとどうしても周辺の音が聞こえてしまって……一階の方でパソコンの排熱音を拾いました」

「……ねえ。まさか貴方、そんな事でヒルダを用心棒にして様子を見に行ったの?」

「いえ! そんな! き、キーを打つ音が聞こえたんです。その打ち方がその、えっと、お姉様にそっくりで……」

「……詳しくないんだけど、パソコンのキータッチってそんな人によって変わる物なのか?」

「あんまり意識した事はないですよねー。全員が全く同じ打ち方って事もないとは思いますけど、個人を特定出来る程細分化されているとは……個人的には思いませんが」

「そ、そうなの? 私それを聞いて、お姉ちゃんの役に立てたらと思って、一緒に行ったんだよっ! そしたら、パソコンがあって。カメラに映ってた! あの人がそうなんでしょ?」

「お姉様ですあれは! 私、見間違えません!」

「ニーナ……君に普通の視覚はないだろ。映像越しに人物の判定なんて出来るのか

?」

「……い、いえ。ヒルダ様がそう仰ったので」

「でもでも捕まってたのは本当なんだよ! 信じておね―――きゃ!」

 勝手に疑われていると思い込み弁明に奔るヒルダが不意に声を上げて仰け反った。視線の先ではティルナさんの身体が液体化して―――扉の隙間から廊下へと流れて行っているではないか。液体になっている部位は顔の左半分であり、姉の顔半分がドロドロに崩れていたら誰だって驚くか(あまり使いたくないと言っていたし、事実使っていなかったのだろう)。

「な、何してるんですか?」

「そりゃあ探してるんだよ、目を持って行かせて。このホテル全体から人が居なくなった訳じゃないし、雁首揃えて確認は馬鹿でしょ~。お、あった……」

「ティルナさん、川箕と会った事ありますよね?」

「え? あるじゃないですか。忘れちゃったんですか? お兄さんも居たのに」

「……最近、記憶が曖昧なもんで。そうでしたっけ、あはは」

 

 …………。


「はい、この映像に映ってる子はほぼ間違いなく川箕燕さんですね」

「おお!」

 それなら間違いない。映ってるのは間違いなく川箕。同じ事を言っている……でももう、何でもいい! 確信していいのだ!

「川箕は何処に居るんですか!?」

「そこまでは……流石に体を液体化させたってハッキングは難しいかなあ。紙の資料でもあればこっそり閲覧しちゃうけど」

「ハッキング……? あ、ちょっと待ってください。それじゃあこれの出番かな」

 透子を助ける為の手段が、それ以外の用途で再び活躍する日が来ようとは。正直、有用だとしてもみだらに使いたくはない。コードの所在が曖昧な方が俺達に有利だからだ。

「コードはなんか……よくわかんないけど、セキュリティを無効化するらしいです。それで内部データを覗けませんか? 何処の映像を映してるのか、とか」

「原理が分かってないのに使うんです? そんな危ない橋渡りたくないですね、見るのは私なのに。それよりお兄さん強くなったんですから、聴覚で電波を感じ取れたりしないんですか?」

「俺の身体を何だと思ってるんですか! 一ミリも感じ取れませんよ。まあもしかしたら電波が一つしかなかったら分かるかもしれませんけど、そこら中にあるじゃないですか。携帯とか」

「私に電波を感知する器官があれば……」

「見た事ない反省の仕方をするなよ。バイザーも悪くないしニーナはもっと悪くない。仕方ない。こういうのに強い奴は『鴉』に居るけど今から戻るのはな……」

 いよいよ普通にパソコンを見に行った方が何か収穫があるのではないかと自分でも思い始めた頃、何気なく透子の行動を思い出し―――暴力的ながら、確実に探し出せる方法を思いついた。

「ティルナさん、そこで暫く見ててください」

「は?」

「まあちょっと、暴れるだけです。二代目なもんで」





















 こんな方法を透子が採用していた事実はないが、これが最も単純かつ明快。専門的知識のない俺達でも簡単に居場所を探知出来る方法だ。

「…………この辺りでいい、か」

 らしくもない独り言が出てしまう程、緊張していた。これから俺は、災害としての力を出す。今の自分の力がどれだけ増しているのかはさっぱり想像もつかない。この身体になってから本気で殴ったのは真司だけで、それ以外は災害になると思って控えてきた。

 だがその被害規模が、今は川箕を探す手がかりになる。


「………はあああああああああああああああああああああああああああああ!」


 気持ちは地球の中心に打ち込むつもりで、この町全体に圧力を加える。地面に広がった莫大なエネルギーが瞬く間に拡散、反発。地層がズレて、地震を起こす。空気が歪み、風が広がり、あらゆる生物の視界が揺さぶられた。

「どうです!? 映像は揺れてますか?」

 肩に張り付いたティルナさん(耳と口)に尋ねると、感情は良く分からないが声は荒げていた。

「脳筋の極みみたいな探し方だけど、面白い映像が見られたよ! このコンテナ、水中にある!」

「す、水中!? え、水中って水中!? 水中!?」

「うるさい! 水を見た事がないんですか!?」

「いや、水中って……」

 つまり川箕の居るコンテナは水に沈められているという事だ。さっきから事実の確認しかしていないけど……でも、許してほしい。まさか水の中とは思っていなかったのだ。だがそうと分かればあの発言にも納得がいく。水中なら場所を知らないと救出なんて出来ない。

「どうやって水中って判断したんですか?」

「私、液体ですよ? 海水の中に自分をちょっと入れておけば分かる事です。ホテルの場所が海に近くて良かったですね?」

「え、じゃあ水中は水中でも海の中?」

「近くに池や湖がないならそうなります。流石に揺れ方で詳細な位置の特定はちょっと…………ところで今のが全力ですか?」

「周辺を破壊しないギリギリを見極めました……耳を澄ませるとちょっと倒壊させたみたいですけど、何ですか?」

「…………いや、何でも。それより透子から着想を得たんだったら逃げる準備をした方がいいよ」

「はい?」

「あの子は、戦うのも馬鹿らしくなるくらい強かったからあんな事が許されてたんだよ。急に町の中で突発的に地震が起きたら誰の仕業かなんて一目瞭然。しかも町を壊さない程度の揺れなんでしょ? 来るよ」

「―――来るって」









「この町を守るヒーローが。来ましたが」 


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