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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 7 未亡の愛こそ青き愛

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神童も一つ死ねばただの人

 なの子とかいう三秒で思いついたような呼び名とは裏腹に、彼女は今、この町で最も危険人物と言っても過言ではない。

「なの子……!?」

「貴様が……」

「お兄ちゃん、おはようなの! 少し身体の組成が変わったの? 隣の男の子は弟なの? 女の子は妹なの?」

「私はニーナと申します。ジュード様とは運命の出会いをさせていただいた者で、決して妹ではございませんよ?」

「バカ言え、誰が弟だ。お前みたいなクソガキと一緒にするな。何をしにきやがったキリングマシン。事と次第によっちゃこのまま」

 ジャックが敵意を剥き出しにしているのは理由があった。今の俺なら全く同じ理由で警戒してもいい。近寄る気配を感じ取れなかったのだ。いや、気配なんて曖昧な概念にしなくてもいい。足音、匂い、周囲の視線。そう言った環境要素から悟れず接近を許した。それだけで理由は十分だ。

「なの子。暇なのか? ノットはどうした?」

「お父ちゃんは大人のお話とかで引きこもってるの! つまんないの! そしたらお兄ちゃんを見つけただけなのっ。遊ぼう!」

「…………」

 この小さな兵士には何度も世話になったし、命を助けられた事実もある。しかし過去は過去、今は立場上敵対しているに等しい。誘いに乗るのは構わないが何か裏があった場合どう切り抜ければいい。

 手持ちの武装は皆無だが中身が機械なら幾らでも体内に仕込めるので見た目は参考にならない。遊んで手の内を出させれば、或いは。


「おい待て。やるなら俺だ。そいつじゃない」


 ジャックが名乗りを上げたのは、意外だった。

「君、誰なの? 町中で会った事ないの!」

「ジャック。人間災害だ」

 喧嘩腰で応対したにも拘らず、なの子は怯むどころか無視して俺に会話を振っていた。或いはそれが癪にさわったのだろう、真実を開示してまでなの子の興味を引こうとしている(ジャックの想定では自分の正体も割れているので躊躇いはなかったのだろう)。

 しかし幼い兵器は無邪気に笑ってジャックの頭をポンポン叩いた。

「お姉ちゃんよりずっと弱いからあり得ないの! 背伸びしちゃって可愛いの!」

「なの子! そいつは見た目は子供だけど俺たちより年上で」

「お兄ちゃんよりお兄ちゃんなの? うーん、そうは見えないの」

「……ここまで愚弄されたのは初めてだ。おいガキ、早く遊びを決めろ。大人を舐めたガキはいっぺん泣かせないと気が済まない」

「混ざりたいの? でもなのはお兄ちゃんと遊びたいの! 遊ぶのっ!」

 最初の接触で好印象を得ていたからかもしれないが、なの子からは近所に住むお兄さんくらいの好感度は得ているようだ。それは俺の身体が災害になっても変わらない。裏を返せば、全く恐れていない。

「……よしわかった。遊ぼう。ただその代わり、勝ったら色々聞かせてくれ。近況とか」

 それについては二つ返事で了承され、俺達はなの子に連れられるがまま町から離れるように歩かされた。KIDとの接触があったお陰でトントン拍子に話は進んでいるのはいい事だが、ティカ達が少し心配だ。連合のいずれかと接触して何も起きなかったならいいが。

「あの、ジュード様。ちょっと」

 ニーナは俺の側に来るまで足を早めると、甘えるように抱っこを要求。要望通り身体を持ち上げると、耳元でこそっと呟いた。

「なの子様の身体から何かが出ております。ご注意下さいませ」

「何か……目に見えないってことは気体か? 汗とかじゃなくて?」

「いいえ、汗ならば私の視界には違うように映ります。正体までは私の知識不足で解明には至りませんが、あまり良くない気がするのです」

「……その謎の物質。俺に当たってるか?」

「いえ、その。ここは開けておりますから……余程近距離でなの子様と接触しない限りは問題ないかと」

 ジャックはおそらく気づいていない。頭に血が上っているか、もしくは粒子が見えるほど目が良くないかだ。その血が混じった俺にも認識出来ない以上、後者の可能性の方が高いとして。どうなる。

 もしも彼に通じるような物質なら俺にとっても致命傷だから、対策が求められる。なの子にバレる危険性がある以上ジャックには一旦喰らってもらうしかなさそうだ。


 市街地から随分離れ、やってきたのは暗幕が上から覆い被さった廃墟。見かけ上はヒビだらけだが全て塞がれ、風除けや雨を凌ぐくらいにじゃ使えそうな避難所といった印象を受ける。もっと単純に評価すれば、ボロい民家だ。

「かくれんぼするの! なの子が鬼をやるから、お兄ちゃんと君は隠れるの! 二人が見つかったらなのの勝ちで、一〇〇秒数えて二人が見つからなかったらなのの負けなの!」

「すまないなの子。この子は遊ばないんだけどお前と同じくらい寂しがり屋だから一緒に居させてもらうぞ。二人を見つけたらって条件で、この子をカウントしないでくれよな」

「不正すると思ってたの!? 酷いの!」













 作戦は至ってシンプル。時間制限が勝利条件なら一人あたりどれだけの時間を奪えるかが鍵だ。だからジャックとは相談の上、彼には一階で隠れてもらった。

「さてなの子が一〇〇数えるまでに話すぞ」

「ジュード様。どうして私をここに?」

「外で犬みたいに待たせるわけにも行かないだろ。一応君は連合から逃げ出した立場なんだから。なの子は忘れてるのかフリかわからないけど、どっちにしても俺の側にいる方がいい。離れるな」

「は、はい!」

 ぽっと頬を染めながらニーナは嬉しそうに手を重ねた。今度また連れ去られたらいよいよ俺に誰かを守る資格なんてない。これだけは避けないと。

「話の続きだけど、なの子から出てる謎の気体の正体はわからないんだな?」

「は、はい。けどそれは一体、なんの再確認でしょうか」

「偶然か故意か、この廃墟、通気性が悪くなってる。窓は戸を閉めた挙句に板で打ち付けられてヒビは全部上塗り、換気扇はビニールで覆う始末だ。なの子が発してる気体が危ないものだったら、隠れてる内に曝露するだろ。正体が割れてたら大人しく遊んでたけど、分からないなら抜け穴だ。なの子はこの家の中で隠れろとは一言も言ってない」

「ですがなの子様は玄関で待機しておりますよ。どのように外へ……」

 指先を上に持ちあげると、ニーナはあっと口を開いてから俺の方を見た。

「屋根裏部屋は開けておりますね!」

「そうだ。多分損壊がひどくて修繕が間に合わなかったから暗幕で誤魔化されてたんだと思う。こんな言い方してるから分かると思うけど偶然か故意か、俺は故意だと思ってる。連れてきたのはなの子だしな。気体がよく分からないけど、隠れんぼと称して何かを曝露させたいなら納得がいく。敵としての思惑にな」

 ニーナがいなければ気体には気づかなかったし、気づかなかったならこんな発想は飛躍していると結論づけていただろう。なの子は遊びたいだけなのだと以前のやり取りから考え直していた筈だ。不審な建物なんてそう珍しくもないし。




「もういいかーいーなーのー!」






「もういいよはジャックが言うらしいから、ニーナ。入り口を見つけてくれ。君の視界が頼りだ」

「お、お任せくださいっ。ご期待に応えてみせますっ」







 






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