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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 7 未亡の愛こそ青き愛

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殺しの連鎖に立つ少女

「…………」

「ふむ。あまり乗り気ではなさそうだな。人を殺すのがそこまで不本意か?」

「それに関してはもういいよ。真司を殺した時から……一人殺すのも二人殺すのも変わらない。乗り気じゃないのは、タイミングの問題だ」

 ついさっきKIDに似たような誘いをされた。そして俺は誘い文句が非常にムカついたので断った。あの時は手がかりも何もない状態で一方的に利用されそうだったから、そういう意味でも最善の選択肢だったがこういう流れになってくると話は変わってくる。

 ジャックと合流する前に起きた出来事を簡潔に話すと、メーアは猶更怪訝そうに眉を顰めた。

「事情が変わったなら手を組めばいい。一体貴様は何を躊躇している?」

「自分で言うのも変だけど、あんなにきっぱり態度で示しといて今更こっちからすり寄るのはなんか、おかしくないかなって。誠実さがないよな」

「悪党に誠実さなど求めるな。我々に必要なのはその時々の利害だ。やっぱり都合が良くなったから手を組もう。そう言えばいい。足元を見られる心配はあるが、向こうも貴様が必要だろうからな。弱いと侮られたのは気の毒だが、手を組む理由が真っ当に生まれたならお互い裏切る理由ないだろう。特に貴様は我が神の恋人だ。相手にとって動機がハッキリしているのはそれこそ誠実ではないか?」

 そういう物なのだろうか。個人的にムカついているからどうにも気が進まないだけで本当は単純な利害の話? メーアの言う事を正しいと思う一方で、どうしても納得出来ない。

 ニーナも恐らく同じ気持ちだ。俺達の話を理解出来ているかどうかはともかく、『あんな人とはもう会いたくないです!』とご立腹。

「おい、ボス。このままだと平行線だ。俺に任せろ」

「名案がありそうだ」

「要するに面子の問題だ。仮にもこいつは透子の後釜、どんだけ弱かろうが人間災害だ。下らないプライドでもきちんと付き合ってやらなきゃな。話は簡単だ。組むだけの納得を与えられたらいいんだろ」

「俺は絶対首を縦に振らないぞ。透子の為って枕詞があれば何でもやると思ってるなら間違いだ。キョウを殺すのは俺だけでやる。ジャックが協力してくれるなら出来る筈だ。お前の能力に対策があるとは思えない」

「……そいつがどれだけ強いかによるな。お前の話によるとそのキョウとかいう奴は俺達人造人間に詳しいんだろう。フカシの可能性も勿論あるが、例えばかつて流出した情報を知っているなら、当然俺の能力にもアタリをつけられている可能性が高い」

 話に割って入るのが難しかったのか、メーアはその場で空砲を打って無理やり自分が入る隙間を作った。

「残念だがジャック、それはないぞ。貴様の単独行動を許していたのは何も我が神の捜索に集中してほしいからだけではない。その一切の情報を伝えない為だ。貴様の正体が分かったとて、少なくとも最初の一手までは不意打ちは成立する」

「そういう意味じゃない。情報の流出は何十年も前の話だ。それをキャッチ出来たのは殆ど政府側―――要は公権力の人間ばかりだった。俺達に詳しいという発言を最悪で想定するならキョウは最初に災害と呼ばれ世界に被害を出した実験体が俺だという事も把握している。そして……その実験体に言わせれば、暴走しても抑えられる用に特別な鎮圧剤が所内にあった」

「それって、透子にも?」

「いや」

 答えは分かっていた筈だが、否定されるとやはり落胆を隠せない。一つでもいいから力を抑えられる物質があれば彼女はまともに生きられるかもしれないのに、自分の手加減だよりなんてあまりにも、辛すぎる。この身体になって自覚したが、自分一人で抑え続けて生きるなんて不可能だ。力で解決出来る瞬間が一秒でもある限り、理性はそれに頼ろうとしてしまう。

「また随分と注意深い男だな。大丈夫だというのに。しかしやりすぎて困るというモノでもないから私には関係ないがな! とりあえず貴様らに準備は一任する。ただ、連合の勢力は丸々乗っ取ってもらわないと困る。いや、目標を下げてもいいな! 一人、連合の中でとりわけ厄介な存在を認識している。そいつだけでもせめて、引き入れろ」

「……誰だ?」






「分かるだろう? 偉大なる私がこの世で最も憎み、今すぐにでも消したいと思っている男さ」




















 本部から少し離れ、多様な人間の集会所になった噴水広場へと足を運んだ。噴水昨日はもう停止しているが、それでも人目が多い分、相対的には安全な場所だ。誰も彼もが人目を気にするが故、相互干渉の抑止力となって何もされない。少し話すにはぴったりの場所だった。

「そう気を落とすな。今回は俺も全面的に協力する。居場所が分かったんだ、今はとにかく連合をどう乗っ取ればいいかを考えればいい」

「……キョウがどれだけ俺達にとって厄介かは分からないけど、まずい。非常にまずいぞ。まさかノットが向こうについてるなんて」

 まさかも何も、彼は愛娘と静かに暮らしたいだけだから連合の主目的と一致している。その過程で一家やらマーケットやら『鴉』やらと戦えればなの子のストレスが軽減されるのでむしろ願ったり叶ったりだ。まさかなんて言葉は、主観による悲観でしかない。

「そんなに怖いのか、そいつは」

「厳密にはその人の子供が強いんだ。一対一で勝てたとしても複数体居るのは間違いない。最終的に倒せたとしても、恐らく殺されすぎて俺の身体は時間切れになるだろうな」

「どういう事なのですか? そのノット様というお方は、もしや子を成してはすぐに別れて一人で子育てをしてきたと?」

「単にロボットなんだよ。沢山居るロボットが小さな女の子なんだ。でも油断は絶対に出来ない。メーアだって普段あんなに偉そうな振舞いしてる癖に、敵意剥き出しにして油断も隙もって感じに見えただろ」

 もしもこの町を掌握したら排除するとまで言ってのけるくらい嫌っている存在も、透子の為なら仲間にして有効活用しようという方向に舵を切れるのは間違いなくメーアの美点だ。リーダーの素質がある。気に入らないだけでゴネようとした俺とは正反対で、今はとにかく情けない。かといって自分の発言を撤回する気はやっぱりないのだけど。

「…………ロボットか。人体の割合は?」

「完全にロボットだと思う。お前、俺を助けた時にジャンクロボットを拾ったみたいな話してなかったか? あれがなの子だ」

「…………」

 ジャックの表情が珍しく曇った。

「不都合がありそうだな?」

「生体でなければ俺の能力は通用しない。相手を代わってやろうかと思ったが、分が悪いな。戦う前提が良くないか、引き入れられる算段はついてるか?」

「なの子とはそこそこ仲良く出来てたけど、かばね連合がノットに寄り添ってる限りは難しいな。あの人、いい人かもしれないけど透子が制御された状態で町に居てくれる方が安心出来る側の人間だろうし。せめて川箕みたいにノットが捕まってるなら恩を売るっていうアプローチも出来るんだけど」

 その場合はまず、なの子が何度も連合を襲撃しているだろう。機械は機械でもノットの指示がなければ常に待機指示が出ている様な機械ではない。なの子はある程度自律行動する。していないから、彼は特に不当な扱いを受けていない。

「……一つ聞かせろ。『論理』はお前が持ってるのか?」

「……待て。大体想像がつくよ。そのやり方は駄目だろ。せっかく所在を曖昧にしてるのに、そんな事したら俺とその周辺人物は永久に眠れなくなるぞ」

「だとしても、最終手段を考えておいた方がいい。『論理』を使えば、そのキリングマシンの制御を横取り出来る筈だ。交渉の基本は手札の見せあい、アンタが弱気になればますます足元を見られるぞ。穏便に解決するにせよ強硬策を取るにせよ、覚悟は示さないとな」





「何の話してるの? 混ぜてほしいの!」

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