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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 7 未亡の愛こそ青き愛

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死人の願い

「え………」

 川箕燕。この町に暮らしていた一般人の一人。それ以上でもそれ以下でもない、勢力争いの中に彼女が噛んでいた事は一度としてなく、単なる修理屋として学生生活の傍ら日銭を稼いでいた子だ。無法の町に生きる人間がただの一つの犯罪行為も行わずに生活する事は難しい。そういう意味で身綺麗とは言い難いが、俺が今まで何処の勢力にも属さず暮らせたのは彼女が居候させてくれたからだ。安全を透子が保障してくれたなら、生活インフラは川箕が保障してくれた。その二人が居なくなった結果がこのザマだ、どれだけ大切な存在だったか。精神的な側面でもずっと助けられてきた。俺にとっては同じくらい大切な関係値の人間だが。

「言ってる意味が良く分からない。まずかばね連合ってなんだ? そんな勢力聞いた事ないぞ」

「それもその筈、即席で集められた集まりだからな。目的はただ一つ、かばね町をかつての姿に戻す事だ。かつてとは、我が神によって勢力争いが水面下で行われていた時代を指す。つまり、少年と我が神が出会った頃の状態だ。もっと言えば……貴様が指名手配される前」

「……そこまで言われなくても分かるよ。でも敵視する理由、あんまなさそうだぞ。透子に戻ってきてほしいんだろ。それと川箕に何の関係が……」

 と、そこで思い出した。ロジック・コードの存在を。龍仁一家もそういえばそれを探していたんだっけ。その情報源は……政府の人間。つまりこの町の外側。法律を御する勢力だ。

 

 ―――色んな奴に唾つけといたのか?


 コードは現在ニーナが所有しているのを別れ際に確認した。使い方は教えていないしコードの正体があれである事も明かしていないから誰かが奪うような真似はしないだろう。目的の物はまだこちらの手の中にある。有利なのは俺達だが、問題は目的だ。

 政府が何故そこまでしてコードを手に入れようとしているのか。その目的は間違いなく透子の制御……最終的に彼女にさせたかった事を実行しようとしているのではないか。フェイさんが居ればこの辺りもハッキリするが。

「そうだメーア。フェイさんって連合の中に居るか? あの、監視カメラ沢山町に仕掛けてた変態の」

「ん。いや、確認は取れていないな。だが居ないという証明にはならないぞ」

「は?」

「……水面下で争っていた頃から、我々は互いの勢力にスパイを潜り込ませている筈だ。偉大なる私も全能ではない。一家の情報もマーケットの情報も持っているのは全てスパイからの提供だ。信頼出来る情報源として基本は扱っているが、相手が誰でもその情報だけは教えられない。何処で相手のスパイに漏れるかも分からないからな。我が神がどうしてこの町に滞在していたのか、その根幹じゃないか」

「そこまで守ってもらわなくても、あの映像を解析した人にはバレてるだろうけど」

「あんな情報が眠っていると誰も思わなかった! 抗えなかろう。大切なのは今、何処までこの情報を漏らさずにいられるかだ。何故私が歓迎会など開いたか分かるか?」

「…………もしかして、『鴉』の人員を外に出させない為?」

「買い出しに出たのは私達だけだ。仮にスパイが居てもあの中で連絡を取り合う事は難しいだろうな」

 単なる気分屋とは思っていなかったがメーアの抜け目のなさは正直意外だ。ただ偉ぶっている訳ではなかった……なんて言ったら、怒られるだろうか。

 二大勢力の抗争により荒れ果てた町でも無関係な人々は日々を生きようとしている。露店という形で荒れ果てた通りにちょっとした活気が戻っていた。しかしどんな人混みにおいてもメーアの高身長はあり得ない程目立つ。面倒事を普段起こそうとしないのはその辺りを自分でも弁えているからだったりするのだろうか。じゃなきゃ外の世界でラーメンなんか食べられないし。

「フェイが居れば何か都合が良いのか?」

「もしフェイさんが居れば、納得がいくだけだ。龍仁一家はロジック・コードを探してて、その存在は政府の偉い人から知らされた。もしフェイさんが居るなら同じくコードの存在に気づけるだろ。一之介は俺が持ってないと知るや川箕が持ってるんだろうとアタリをつけてた。やっぱり同じだ」

「……成程な。それ以上言うな。聡明なる私は全てを察した。いいんだ、少年だけが知っていればいい」

 俺がコードを持っている事を、察したらしい。まあ厳密には今はニーナが持っているから、仮に襲われてもこの瞬間は大丈夫だけど。

「……でも変だな。川箕が捕まってるならニーナが出てこられる筈ないんだけど」

「目も耳も聞こえない人間を捕まえて重点的に監視する理由が何処にある? あの子供は少年が目覚めるまでずっと不自由なフリをしていたのだぞ」

「フリっていうか、バイザーの電源を落としたら真実だ」

「あの機械は一般的ではない。用途を説明されなければ分からないだろう。バイザーを一時取り上げさせてもらったが、目の中は空っぽなのだな。あれを見て監視しようと思う奴は居るのか?」

 目も耳も聞こえないなら……耳の方は直前のやり取りなんかがあれば聞こえないフリは厳しいと思うが、それを加味しても子供だ。何か出来るとは思えない。川箕が捕まっているらしい事実と、本部でニーナを通して通信出来ていた事実を考慮すると―――自分が徹底して拘束されている状況を利用してニーナを逃がした、とか?

「仮に逃げたところで何か出来そうもない。組織とて人は有限だ。有効活用しなければな。川箕燕は恐らく貴様への交渉材料だ…………それに、我が神の友人でもあったのだろう。理由を挙げれば無数にある。好きな理由を選び、救出に臨むぞ」

 メーアの指示に従って何事もなく買い出しを済ませていく。何かがずっと引っかかっているが、それを言語化出来る日は来るのだろうか。もっと単純な理由で、メーアは俺に川箕を助けさせようとしているような気だけがしていて。

 

 ―――いや、別にいいか。


  どんな理由であれ捕まっているというなら助けるしかない。交渉材料と言われるくらいだ、俺が出向いた頃にはもう見る影もなく朽ち果てていたなんて、そんな事にはならないだろう。

「…………教会に戻ってからこの話は禁止だ。明日、改めて作戦を切り出す。それまで私に話しかけるなよ」

「楽しんでればいいん、だよな? 捕まってるって聞いて素直に楽しめるかは微妙だけど」

「ならば部屋にでも籠っていればいい。とにかく、悟られるな。スパイが何処にいるかは分からないのだからな」




















 メーアの情報には疑問があった。川箕がそんな大変な状態なのにニーナが取り乱していない事だ。お姉様と慕っている人が危ないのにそこまで平静を装えるなら随分成長したと思うが、俺の感覚器官がそれはないと訴えている。具体的には心拍も呼吸も安定している。

 新たに『鴉』のメンバーが増えたその歓迎会―――そういう名目ではなく、本当に誰もが一時の剣呑な空気を忘れて騒いでいた。今まで客人として扱われていたと誰もが思い知っているところだ。名前も知らないメンバーが次々と声をかけてくれる。

 特にニーナは可愛がられており、様々な料理を食べさせられて身動きが取れなくなっていた。時々「ジュード様~ぁぁぁぁ~」と情けない声が聞こえるが、助けにはいってやれない。満更でもなさそうだし。

「ジュード。まだ空気に馴染めてない?」

「ヘレイヤ、だっけ」

 買い出しで疲れたという体でずっと柱にもたれかかっていると声をかけられた。かつては逃げられてしまったが、話しかけてきたのはやはりティカの言った通り正式な仲間になったから? 

「うん。覚えててくれたん、だ」

「セキュリティを突破してくれてありがとな。お陰で……助かった。馴染めてない訳じゃないんだけど、ただ皆、切り替えが早いなって」

 特に奥の机では酒の飲み比べなんてしてしまって。男達の野太い掛け声に唆されメーアが率先して飲み尽くしている。

「透子も居ない、勢力として弱体化してる、治安は最悪。こっちに不都合な要素しかないのに明るいよなって」

「……ここに居る人達、殆どボスに拾われて生き延びただけ、だから。この支部に限らず、『鴉』がそういう、人生が無価値になった人の集まり、らしいから」

「スラムの延長線で出来た組織って事か? だから思い切りがいいって? そんなモンなのかな。俺は……一度出来た安住の地は、失いたくないんだけど」

「……メリハリ、だっけ。大切にしないと。私と飲も。お酒じゃない」

「じゃあ、何?」

 ヘレイヤはフードを深めに被り、目線を遮りながら言った。



「別に。何でも。色々話したい、だけ」

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