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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 6 喪失の咎

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かばねの果てに栄えあり

 未成年飲酒が禁じられている理由は法律でそう書かれているからというのを除けば、身体の成長が阻害されるとか何とか……とにかく体に悪いから駄目とされている。ジャックの血が入った今、身体機能は全体的にタガが外れてきている。アルコールが入ったところで何ともないだろうし、そもそも余命宣告されているので身体に良いも悪いも気にする必要はない。

 ティカは飲める年齢だそうだが、一応辞めさせた。この女体好きの男の手にかかれば泥酔した彼女を手籠めにするなど造作もないと思ったから……タイプではないそうだけど、一応。

「……俺がまだ若いからかもしれないけど、酒ってやっぱ不味いよ。これならジュース飲んだ方が美味しいって言える」

「はっはっは! そりゃいいな。数年後にまた俺と酒を酌み交わそうや、そん時感想が変わってたら俺ん勝ちだ」

「付き合ったんだから教えてくれよ。透子の事を全部。嘘はなしだ、嘘なんて言ったらぶっ飛ばすぞ」

「まあ落ち着け。てめえのようなガキは知らねえだろうが、俺は辛いんだぜ? せっかく来たお姉ちゃんが単なる仕込みで、野郎なんかと呑む羽目になってよお。透子は良かったなあ。何杯でも付き合ってくれてよお。体は絶対触らせちゃくれなかったが、見るのは自由だ。酒の肴にはそれで十分……なあ?」

「透子は未成年だぞ」

「そういう冗談は良くねえなあ? それとも知らないフリをしてやってるのか? 人間災害は何十年も前から存在してる。見た目が青臭いだけで、中身がそうでもねえのはあのボインな身体が証明してんじゃねえのかい? おう?」

「…………正体を知ってるのか?」

「正体? そりゃ、怪物だろ」

 御猪口に酒を注ぎつつ、一之介は呷るように何度も何度も呑んでいる。

「マーケットが白旗をあげた、最強の怪物さ。俺も何度か毒を盛ったがてんで通用しやがらねえ。心を開かせて俺の女にしようとも思ったが、俺にはアレが求めてる言葉が見つけられなかった。一度でいいからヤりたかったなあ。具合を確かめてやりたかったんだが……」

 ここまで女性好きなら言いたい事は分からない訳でもないが、こうして目の前で聞いていると不快感が凄い。どれだけ強かろうと透子が女の子だったのは間違いないが、それはそれとして―――こんな目線で見られていたと分かっていたのだろうか。

 今回、一之介と出会った事で俺はかつての三大組織全てのトップと顔を合わせた事になるけれど、透子から話を聞いた感じではもっと敵意剥き出しで、分かりやすく悪党と言った顔ぶれだと思っていた。

 ผีは殆どそのイメージに違いなかったが、メーアは単なる透子信者で一之介は下衆。いや、下衆は別に悪党…………メーアが悪いかも。

「よお、せめて感想を聞かせてくれや。彼氏なら寝たんだろ? 具合はどうだった?」

「俺はみだりにそんな事言ったりしない。それより早く教えろ。もったいつけて俺を酒に付き合わせるだけならこっちにも考えがある。お前みたいなエロジジイには沢山時間があるのかもしれないけど俺にはないんだ。さっさと教えろ!」

「つれないじゃねえか。あれも駄目でこれもダメ、だがこっちの要求は呑めなんて悪党のする事だぜ。風情を理解しねえ野郎も居たもんだ。これだから最近のわか―――」


「こたえろつってんだろ!」


 寿命から来た焦りか、それとも俺の中に流れているジャックの血が暴走しているのか。頭に血が上ったかと思えば、次の瞬間、拳が一升瓶を粉々に打ち砕いていた。数少ない残りも含めて、瓶の破片が飛び散ってしまう。ティカの「あ~」という声を聞いて自分の行動を初めて認識した。

「………………成程、な。気のせいかとも思ったがどうやらお前さんは同じ怪物になり下がったようだ。聞いてた話とは少し違うが、俺に勝ち目がないのは分かった。毒がそろそろ効いてくる頃だと思ったんだがな」

「ジュードさんに出した酒にも毒盛ったんすか。危なかったッスね」

「それで、透子は?」

「まあ待て。順序がある。居場所を俺に聞いてくるって事はそれを知ってそうだと思える情報を手に入れたんじゃねえのか? まずはそこからだ」

「……政府の要人が出入りしてるって話を聞いた。ここは無法の町だ、普通、法律の及ぶ場所からやってきた人間がこんな所に来る筈ない。今までだって接触してこなかった筈だ。俺の聞いた話だと、マーケットにそんな人間は来てない。龍仁一家に何の用があった?」

「そうそう。そういうのだ。結論から言うと、ロジック・コードを持つ者を探してほしいって話をされた」

「……ロジック・コード?」

 聞いた事のない言葉だ。透子と一緒に暮らしていてそのような単語は聞いた覚えがない。親しいからこそ打ち明けられない秘密、という奴なのだろうか。かばね計画のように。

 俺の顔を見て判断したのだろう、一之介は白けたように上を向いた。

「あの怪物を制御できる唯一の方法だ。詳しい話は俺も知らねえ。この国のお偉方はそいつを探してる。普段それを持っているのは透子本人らしかったが、どうもそれが誰かに渡されたらしい。てめえじゃないならもう一人―――川箕燕だったか? そいつが持ってんだろうな」

「……え?」

「俺達が頼まれたのはその捜索と譲渡だ。条件は俺らに対する絶対的な保護―――あの怪物が居なくなった今、ここも直、有無を言わさず法律に支配される。その中で俺達龍仁一家だけが無法を謳歌出来るようになるのさ。分かるだろ? 透子を自由に出来んなら『鴉』もマーケットも無力だ。二代目人間災害が透子の足元にも及ばない事なんざ俺にも分かる。俺ゃてっきりお前が持ってると思って……」


 

 一之介が指を鳴らすと同時に部屋の中に大量の警察官が入ってきた。



ティカは素早く銃を取り出そうとしたが既に構えている銃口に勝てる自信はないらしく、抵抗をやめた。両手を挙げてそれとなく俺に助けを求めている。

「どうにも、お前も透子には及ばないらしい。アレなら俺が呼んだ事にも気づいた筈だ」

「…………」

 俺と透子の性能差なんてどうでもいい。川箕が生きているかもしれない……その可能性が高くなった事があまりに嬉しくて、周囲を警戒する事なんかすっかり忘れていた。アイツが生きているなら、あの子も生きてる。ニーナもきっと。

「さ、形成逆転だな。無駄な抵抗はするなよ。透子より弱いなら、鉛玉も無傷じゃ済まねえな? ケツの穴を増やされたくなかったら大人しく捕まりやがれ」

「川箕は生きてるのか?」

「あ?」

「アイツは……マーケットに透子が出し抜かれた時、絶対近くに居た筈だ。町を破壊する災害に巻き込まれて、普通は無事なんて思わない。生きてるのか? 生きてて……隠れてる? お前達に捕まらない為に」

「お偉方はそう考えてるぞ。俺はそのコードが手に入ればどうでもいい。そういうお前は何も知らないな。だが……川箕燕はお前とも親しかったらしいな。拷問映像でも流しゃ降参するだろ。丁度お前が、ちっせえガキをテレビで堂々と拷問してたみたいに」

「法律があるからってやりたい放題かよ」

「悪党に人権なんてねえぞ、この町じゃ特にな。それに、昔は見せしめ処刑なんて娯楽の一つだったそうじゃねえか。この町の外はルールが厳しくなりすぎて窮屈だって聞くぜ。それなら、溜飲を下げねえとな」

「ジュードさん、一旦捕まりません? こんなとこで暴れたら貴方が……死んじゃいますよ」

「……いや、その必要はない」



「何故なら、俺が来るからだよおおおおおおお!」



 呼吸を合わせるように、互いに気づいていたと示すように。天井を突き破って真司が姿を現した。崩落の影響で俺達を包囲していた警官は全滅し、夕日の差し込む中、一之介を間に挟んで再度、偽りの親友と対峙する。

「よう、十朗! すっかり俺達は息ぴったりになっちまったなあ! だがまだ間に合う。俺に血を渡せ!」

「……悪いけどお前に構ってる暇なんかない。こっちは生きる理由が生まれたんだ」

「そう、お前は生きなくちゃならない! だって家族に愛されてたんだから! 言ったろ、命懸けてもお前を止める! この町はお前に相応しくない!」

 発言の直後、真司の持っていたナイフがティカの額めがけて投擲される。脊髄反射で反応するにはあまりに早く、存在に気付いた時にはとうに手遅れ。投げられた本人も気づいたのは全く別の理由が。

「じゅ、ジュードさん」

「逃げるぞ」

 俺の掌が、刃物に貫かれながらもその一撃を止めていたからだ。



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