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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 6 喪失の咎

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148/185

ロジック・コード

 最低限の情報を出来るだけ簡潔に伝えてきたつもりだろうが、トイレに居るという事とナンパをされた情報だけだ。居場所を伝えていない……と言いたかったが、どうやら活人会に公衆トイレは一か所しか用意されていないらしい。

「これで店ん中の便所だったら笑って帰るしかねえッス!」

「帰るな!」

 俺が死んでいる内に三か月経過してある程度町としての風体を取り戻したとはいえ、そこはまだまだ復興途中という事か。トイレの位置なんて俺は知らないからティカに案内してもらうしかない。上から見るのが一番楽だが、そのやり方は着地点を考えないといけないという点でボツだ。せっかく作戦が上手く行きそうなのに身体能力一つで目立ってオシャカにはしたくない。

「つーか本当にナンパ待ちなんてアホらしー作戦が成功したんスよね? あたい的にはそっちの方が信じられないッスよ!」

「…………まあ、正直俺も上手く行くのが早すぎるとは思ったよ」

 気長に構えられる程の寿命はないが、ナンパされ待ちという計画がたった一つの冴えたやり方かと言われたら絶対に違う。しかもこの作戦を持ち出した根拠は龍仁一家の支部で行われた会合の一発言のみだから、絶対に成功しないとは言わないまでも、ここまで円滑に成功してしまうと都合の良さも感じる。どれだけ一之介は女性を抱く事に命を懸けてるのだろう。

「でも成功すれば何でもいいよ。っと―――居た。目の前だ」

 しかも丁度トイレからティルナさんが出てきて、連れて行かれる所だ。人間災害の身体能力に感謝しないといけない。無理やり手を引っ張ってついてこさせたので約一名は文句を言ってきそうだが。

「…………いや言わないッスよ。事態が事態ッスから」

「心を読むな」

「ジュード先輩、人を気遣う時一回こっち見てくるじゃないッスか。分かりやすいッスよ。読むっつーか、読ませてくるだけッス」

 煩い後輩はさておき、ティルナさんを連れている男はとても見た目からヤクザには思えない。髪を茶髪に染めて顔のあちこちにピアスを着けて……いや、かえってヤクザっぽいのだろうか。俺がかつて見た組員はもっと堅物の雰囲気だった。あの人を連れて行く男は服装もだらしなく、服の至る所にしわが出来ている。

「あんなチャラチャラした奴が龍仁一家なんて」

「言いたい事は分かるッスけど、普通の人はヤクザとチンピラの違いなんて分かんないしあんなもんッスよ。龍仁一家は比較的その辺分かってると思うから、あれはむしろそう思わせる為の偽装だと思うッスけどね」

「分かってるのか? 確かに親切な人も居るのは認めるよ、世話になった事もある。けど人を良いように使ってやろうと脅してる姿を見た事もある。総合的には最低な奴等だ」

「……? 悪党ッスけど、全員。何を言ってるんスかジュード先輩。別にあたい等もクズはクズっすよ。あれスか、ワルがたまにいい事すると性根は善人とか言っちゃう奴ッスか。いやほんと、透子さんに守られてて良かったッスよ。お願いだから軽々と信じないでほしいッス。ケツの毛まで毟られた後に誰も手を差し伸べちゃくれねーッスからね」

 気づかれないようについていく。体に流れるジャックの血が感覚を研ぎ澄ましてくれるお陰で多少遠く離れていても二人の足音は鮮明に聞こえた。話す声は流石に、喧噪もあるから紛れてしまうが、位置を見誤る事はない。何故ならティルナさんの歩き方があまりに独特だからだ。

 この耳になって初めて気が付いたが、これだけ多くの人が居て誰とも被らないリズムで歩いている。ランダムという表現が的確だ。足音がなくなったり、大きくなったりする。千鳥足という意味ではない。あれは要するに平衡感覚を見失っているだけだから足音が消えるなんて事は起きない。

 二人はどんどん活人会の中心の方へと進んでいく。人気がなくなるような事は最後までなかったが、時間帯としてはそろそろ宵の頃合いだ。何かしら話している様子から一転、入って行ったのはゲームセンター。法律の効力が及んだ事で表向きにカジノが出せなくなった結果のグレードダウンだろうか。建物に入ったせいで足音による追跡が難しくなって、たまらず俺達も入店する。


 二人が、居ない。


 今となってはすっかり下火となった筐体ゲームが立ち並び、奥の方にはクレーンゲームも用意されている。ここが元々無法の町だった影響か、時間など気にせずたむろして遊ぶ子供たちの姿もあった。

「何処に行った?」

「んー普通に考えたら裏口ッスけどね。ここの店員も一家のモンで、通されたって感じッス。単純だけど以外に馬鹿には出来ない警備ッスよ。まずここには監視カメラがあるから露骨に怪しい動きをする奴がいれば一家とか無関係に取り締まれるッス。そんで裏口に行こうとする怪しい奴も、関係者以外入れない場所に行きたい奴って事で実力行使出来るんで……こっそり立ち入るのは難しいですね。うちらの計画ってしっぽりヤりたいとこをちわーっすって立ち入るつもりだったじゃないッスか。どうします?」

 ティルナさんに詳しい事情は話していないから代わりに一之介から話を聞いてもらうと言った事は出来ない。俺達が突入しないと。

「………………要するに、俺達の事なんて気にする必要もないくらいの事が起きればいいんだろ」

「お、その言い方……ちっとも思いつかないッスけど、策があるんスね」


 デバイスを、取り出す。


 川箕燕の、最高傑作。





















 何をどうするデバイスなのかさっぱりわからなくて、これまで向き合おうとしなかった。だが用途がハッキリしていれば幾ら俺でも使い道は思いつく。画面に表示されたアプリから範囲を指定し、探知された全ての機械に対して乗っ取りを仕掛ける。指先一つの操作が二つ。たったそれだけで一帯の電力が完全にストップした。

 当然それはこの店に限らず他の無関係な場所にも影響する。迷惑をかけてしまうけど、これしか思いつかなかった。ゲームを遊んでいた子供達に罪はないが、仕方ない。細かく選択して意図を感じさせるより無差別にした方がトラブル感が強いと思えてしまったから。

「……げ、原理どうなってんスか?」

「俺も分からない。そもそもこれハッキングなのか? ボタン押しただけでシステムに干渉したけど……まあ、その話は後だ」

 クレーンゲームの陰に隠れて様子を窺っていると異変を察知した店員が慌てた様子で表に出て行った。外の騒ぎを観に行ったのだろう、津波が来ると分かっていて何故か近づく人間が居るように、人は未知を未知のままにしておけない。何が起きたのか、把握をしたがる。

 その隙間を突くように、裏口を突破した。通ってすぐに階段があり、入って行った筈の二人が居ないならこの階段を上がって二階に行ったのだろう。慎重に上り、壁に耳を当てて音を探る。


『ハハ。外人の女を幾つも抱いたがアンタみたいなタイプは初めてだ。スリーサイズを聞いてもいいかい? それとも俺に測らせてくれる?』

『お年を召すと性欲が減退するって聞いてたんですけど……貴方はそうではないのですね』

『いい女を抱いてりゃそんな事は起きねえさ。乳もでかけりゃケツもでかい。ああ、最高だよお姉ちゃん。どうだい、俺のオンナにならねえかい?』

『お断りさせていただきます。一家の人はか弱い私を脅迫するような酷い人の集まりなんで―――』


「その通りだ!」

 声を聞きつけ扉を押し破って侵入する。部下を侍らせていないのは分かっていた、他人に性行為を見せる趣味はないのだろう。老人は―――龍王は取り乱した様子もなく俺を見つめ、睨みつけたままティルナさんの胸を触ろうとしていた。

「龍王、龍仁一家の長、龍仁一之介。アンタに話がある」

「―――困るなあ、ガキんちょ。俺ぁこれからお楽しみだったんだ。それを冷や水ぶっかけたみたいに台無しにして、こっちに話なんてねえんだからとっとと帰りやがれ」

 青い甚平を着崩している様子から今まではリラックスしていた、それはいい。だがこうして不意を突いた突入を受けてもあわてない胆力は伊達に三大組織の長をやっていないという事か。逃げ足だけは若々しいという発言のみ知っていたから、印象に齟齬がある。

 男の身体は、年に似合わず胸筋が膨れ上がっていた。昔の俺ならまず力では勝てない。

「お兄さん。私はもう帰っていい感じですかー?」

「はい。ありがとうございます。もう大丈夫です」

「あ? お姉ちゃんよお、そりゃねえだろう。俺とよろしくやってくれるんじゃ―――」

「透子の居場所を知ってるか?」

 ティルナさんを捕まえようとした手は、俺の一言で止められた。上辺だけだった視線が、きちんとした中身を伴って改めて向けられる。

「…………知ってるつったら、どうする?」

「全部聞く。お前が知ってる事は全部、教えてもらう」

「そうかぁ…………」

 一之介は足元に立てられていた一升瓶を机の上に力強く置くと、ティルナさんが去った後の空間に掌を向けた。











「まあ、座れや。女が駄目ならせめて酒でも付き合え」

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