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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 6 喪失の咎

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臥龍の寝床を訪ねて

「待ち合わせ、もっと厳密に指定するべきだったな……」

「はぁ~こんな酷い先輩は見た事ねッスよまじで~だる~。なーんでその辺詰めとかないんスかねぇ」

「すまん。あの時はパソコンの中身の方が気になっちゃって……」

 また学生カップルという体でやってきたものの、黄金色の景色の中にティルナさんの姿を見つけられない。間違いなくここには来ていると信じたいのだが、携帯で連絡先を交換している道理もない。そもそも持っていないし。

 言い訳をするつもりはないが、広場で待ってくれているものとばかり思ってしまった。よくよく考えればそんなやりとりは一瞬たりとも行っていないのだから勝手な思い込みだ。

 面倒な事になったッスよ、なんてティカは心底嬉しそうに俺の踵を蹴っている……何で? 責めているのか喜ばれているのかさっぱりだが、ともかく俺にとって都合の悪い状況である事は確かだ。

「人のせいにする訳じゃないけど、もしここに来てたなら待っててほしかったな」

「別の場所で待ってたらどうするんスか? とりま、探さなきゃ」

「……」

「先輩?」

「……夜に女性一人で歩くのは危ないって言うよな。いや、今は夕方なんだけどさ。もしかしたらもうナンパされたって可能性もないかな」

「まだ大して打ち合わせもしてないのにそんなほいほい行きますかねえ。とりま探しましょうか。無事でいるといいんスけど。あ、手分けするのは無しッスよ。ただでさえ死にかけなのに、もう一回シンジと出会って先輩に無茶させたら流石に透子さんと会う前に死んじゃうッスからね!」

「……早く見つかることを願おうか」

 しかし待ち合わせの時間帯に変わりはないから、ティルナさんは確実に来ている筈だ。そして時間帯の都合上、俺達を待つなら見通しのいい場所を選ぶ筈。ここ以外で見通しの良さそうなエリアは反対方向にあったと思うが……あの人が生活してる場所から一番近い場所がここなのだ。反対方向で待っていたら流石にひねくれすぎている。



「あ、お兄さーん! こっちこっち!」


「え?」

「んン……?」

 声を掛けられた途端、その存在にスポットライトでも当たったように件の人物を見つけられた。ティルナさんが嬉しそうに微笑みながらこちらに近づいてくる。さっきまでそこに…………居た、だろうか。

「いやあ、そういえばお兄さんとの待ち合わせ場所を全然決めてませんでしたねー! たまたま同じことを考えてたから良かったものの、危うく離れ離れになっちゃうところでした?」

「まあ、そうですね。探しに行こうかなと思ってたから、声をかけてくれなかったらある意味入れ違いみたいな状況だったと思います」

「私が協力しないと透子の所在について手がかりを得られないかもなんでしょ? それはお互い困るし、見つけられて良かったよ。じゃ、早速行こうかなって思うんだけど、はいこれ」

 ティルナさんが俺に渡してきたのはマイクとイヤホンだ。彼女も同じものを着けているらしいが、良く分からない。

「えっと……?」

「詳しい事は隣の後輩ちゃんが知ってるんじゃない? じゃ、私はこれで。進展があるまで暇を潰してて下さいね?」


 ―――ん?


 これで連絡を取るべきなのは分かるが、着け方と着ける場所が良く分からない。何となく視線を感じて振り返ると、後輩面の悪党がおかしくてたまらないと言わんばかりに嗤っていた。

「もう~そこじゃないッスよ!」

「これ、何処にどうつけるんだ? イヤホンはまあ、耳なんだろうけどさ」

「あたいにも分かるんスから、ジュード先輩にも分かる筈ッスよ。答えはお預けで」

「遊んでないんだから教えてくれよ」

「別にこっちだって遊んでないッスよ! ただ、あの人何で透子さんの情報があるかもって話を知ってたんスかね? あたいの記憶が確かならジュード先輩はそんな事言ってないッス。ナンパされて欲しいとしか」

「……確かに、俺もそんな気がする。けど、あの人とはこの町で生活するようになる前から知り合ってるんだ。俺の事が良く分かってるんだと思う。ここまでするからにはきっと透子に関連するんだって」


『…………いいですよ』

『お、おねえちゃん!?』

『お兄さんには恩もあるし、何より透子から幸せなんて言葉を聞けたのは貴方と出会ったからだよね』


 元々ティルナさんが協力を承諾してくれたのも、透子ありきの理由だ。特別理由なんて言わなくても透子を見つける為に奔走している、と分かってくれたのだろう。透子が居なくなった事自体は周知の事実だし。

「なーんかいまいち気に入らないんスよねえ。あんま信じない方が良いかもッスよ」

「……あの人は透子に世話になってるんだ。俺達を出し抜こうとしてたとしても、透子を助けたいと思ってる気持ちに嘘はないだろ。気にしすぎだって」

「そういう貴方は信じすぎですよ。義理人情で世の中回るなんて思わないで下さいよ。お世話になってる程度で首輪がつくならあたいらは全員おまんまの食い上げ、悪党でいる事がマジで下らなくて死にたくなりますよ。何か別の狙いがあるって線は頭の片隅でもいいんで置いといてください」

「…………そうやって疑心暗鬼にさせると、真っ先に『鴉』を疑いたくなるってのは考慮しないのか?」

「へへ! あたいは馬鹿なんで顔がタイプって事以外はなんもねーッスよ! 世の中深い事なんて考えず鉛玉ぶっぱなしてんのが生きやすいもんッス。ライフハックっていうんスか?」

「言わない」

 話の流れで機嫌が良くなったのかティカはマイクを着けてくれた。これはどうやら袖につけるらしく……それで思い出した。確かにそういうタイプのマイクはあるか。ゲームの知識で悪いけど。

 当たり前だが、まだナンパの報告はない。関連性を疑われると成功しづらいと思うし、本当に暇になってしまった。

「……また飯でも食うか?」

「いいッスね! 寿司とかどうッスか? 一回でいいから食べてみたかったんですよ!」

 色気より食い気、なんて言ってもいいくらいには反応が良い。


 

 部活の後輩を相手するのって、本当にこんな感じなのか?




















 流石に高いお店には連れていけない(活人会にそのようなお店自体がない)ので、回転寿司に立ち寄らせてもらった。『ヤスモン食わせるとかデートとしてありえねーっス!』なんて最初は怒っていたけど、今は御覧の通り満足してもう十皿も食べている。因みに食べる速度は全く落ちていない。


 ―――これ、お金あるんだよな?


 依然と違って俺には手持ちがない。いや、全く無い訳でもないが、どんな支払いにも対応出来る程の持ち合わせがないのだ。だからあまり食べられると……ティカの懐具合によっては無銭飲食をしないといけなくなる。

「んぐんぐ…………おいひ~! 生き返るぅ…………!」

「目的忘れるなよ? 連絡来たら速攻でここを出るんだからな?」

「はいはい分かってますよ~。次は海老とか食べたいッスね~。丁度流れて来るし取って下さいよ!」

「夕食を食べに来ただけって言っても別に嘘じゃなくなるだろこれ……」

 人との外食は嫌いじゃない。ずっと昔からやっていた事だ。その相手が真司だったり華弥子だったり、透子だったり、レインだったり、ティカだったりするだけ。大抵は、相手が美味しそうに食べる姿を見て幸せになりたいからだ。その大抵というのは要するに――――女の子、という属性に限っているけど。

 俺も残り少ない命だ。多少無茶な真似をしたせいで当初宣告された余命よりデッドラインは近づいてしまったと思う。悔いのないように生きるのは難しいかもしれないが、悔いを残さない様にという事ならいっそ俺もフードファイターも斯くやという大食いを見せつけて。

 単純に胃袋が持たないので、やめておくけど。

「んぐんぐ…………少し疑問なんスけど、ナンパってされるもんなんスか?」

「龍仁一之介が女好きなら、する筈だ。結局この町は透子が居ても居なくてもそこそこ大きな組織はずっと前からやりたい放題してるんだから、女性一人強引にナンパしたって誰も取り締まらないだろ。特に政府の要人と会ってるってのは……ある意味で加護だ。やると信じたいな」


 つけていたイヤホンに音声が入ったのは、ティカが二〇皿を超える程食べた時だった。







『ナンパされました。今トイレで。早く』

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