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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 6 喪失の咎

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秘密に蜜を

「あれ、ジュード先輩どうしたんスか?」

 一通り傷は勝手に回復した。ティカは撤退の仕方を考えていたようだが(彼女がやってきたのは度重なる銃声が外側の住人を呼び寄せてしまったかららしい)、そんな時俺の様子に気づいてくれた。体調がおかしい訳じゃないが、気がかりな事があって空っぽになったプレハブ小屋をあちこち回っている。

「……気になる事がある。俺が来た時、全員狼狽えてたんだよ」

「そりゃ狼狽えるでしょ。貴方、胸に穴開けてピンピンしてたじゃないですか」

「そっちはそうなんだけど、邪魔させるなとか食い止めろとか……特に邪魔ってのが気になる。俺は何の邪魔をしたんだ? それで、そういえば俺がここに来る前に中では話し合いしてたよなと思って……」

「ははあ、成程ッス。それを調べたいんスね。実はあたいもここからどうやって出ればいいか全く思いつかないんで付き合いますよ」

 決起集会というのはあながち間違っていなかったようなそうでもなかったような。何の気なしに入った小屋には大量の銃火器が隠されていた。弾薬もたっぷり補給されており、壁に貼り付けられた地図には何やら意味深なバツ印のマーク。地図はネットから印刷した物ではなく、手書きの物だ。

「…………このマークつけられた場所に何があるか分かるか?」

「ちょっと連絡してみるッスね。制圧しようとしてたなら重要そうですけど」

 ティカが携帯で『鴉』と連絡を取っている内に他の家屋も探していく。何棟かは外れ……つまり普通の生活感ある部屋だったが、何気なしに壁と隣接している側面に回ると地下への階段を見つけた。

 地下に部屋を作るのは簡単な事じゃない。スコップ一本あっても作れるのは穴だけだ。ここにはご丁寧に階段まで作られて……ひょっとすると掘ったのではなく前からあったのかもしれない。法律の影響におかれかばね町の呪縛を解かれたそのどさくさに紛れて再利用したとか。或いはもっと単純に俺が眠っていた三か月の間に掘ったという可能性もあるが……あれだけの銃火器の貯蓄からして、元々あったのだろう。法律の影響を受けているとは思えない程この中はかばね町のように無法地帯である。警察が介入していたらこれらは全て押収されてこんな囲いなど撤去されている筈だ。

 階段を下り切っても特に部屋はない。携帯なんてとっくに壊れて……いや、あれがあったか。川箕の残した携帯っぽいデバイスを取り出すと、ライトを起動させ、それを頼りに奥まで進んだ。

「…………うわ」

 どうやらここは、秘密の会議をする場所だったようだ。机が並べられ、それぞれにパイプ椅子が用意されている。表では盗み聞きされる可能性のある議題をここであれやこれや話し合っていた事が推察される。では何を。

「お~、こりゃまた秘密の部屋って感じでアガるッスね!」

「ティカ。お前よくここが分かったな?」

「ジュード先輩のニオイを辿ったらここに……あー嘘ッス。そんな気持ち悪がらないで下さいよ。貴方の身体に発信機が埋め込まれてるだけッスから。世話役なんで、見失うのもほら……まずいじゃないですか!」

「……さっきのマークについて進展は?」

「それが、警察の駐留してる場所っぽいッスよ。この辺守ってる人達の。だから襲撃計画も用意してたんじゃないスかね。装備についてはうちも物資がきついんで有難く抑えさせてもらうッスよ~! にひひ、ボスに褒められるッスかねっ、ねっ!」

 やっぱりメーアは普段から透子だけを全肯定していて中々褒めてくれなかったりするのだろうか。体をくねらせて勝手に照れている彼女を見ているとそんな気さえしてくる。

「……外はまだ探し終わってないよな」

「や、めぼしい所はサッと見終わりましたよ。後は帰るだけッスけど、どうしたもんスかね~。もうあたいにも聞こえるくらい声がするんスよ。出るったって、これじゃあ警察が突入してくるまでに出られる気がしなくて」

「めぼしい所ってのは、どういう意味で言った?」

「え? 見るからに怪しい物がある場所って意味ッスよ。何処にでもありそうな生活感ある部屋なんて探しても仕方ないッス。火事場泥棒じゃないんスから」

「そこだ!」

「あ、ちょっと……ジュード先輩!」

 地下には机と椅子しかなかった。重要な何かを隠す用というよりも、重要な何かを話す場所として使われていたからだろう。それならその何かというのは、当然何処かの誰かが保管している、だから俺の声を聞いた時に全員が散ったし、迎撃もスムーズに行われたのではないだろうか。これ自体はただの仮説で、信憑性も何もあったもんじゃない。

 ただ、暫く一方的に殺害されていたからこそ俺は見ていた。彼らがあの武器庫から武器を取り出した訳じゃない事を。こういう荒事の為の武器だろうに、投擲物はともかく銃器も取り出さないのか?

「なあティカ。あそこにあった銃って使われてたか?」

「何言ってるんスか? さっきまでぶっ殺されてた人の言う言葉じゃ……あー。でも残ってる奴に使われてた形跡はないッスね。パッと見なんであんま自信ないスけど。整理されすぎてたッス」

「だよな」

 確証はないが、疑問が複数積み重なったらそれだけでも十分行動の動機になる。改めて何もない部屋―――もとい生活感のある家屋に踏み入っていくと、その内の一つにやたらと散らかった部屋があった。窓は全て全開になっており、足元の絨毯は毛並みが大量の足跡に荒らされている。

 向きから逆算して、ベッドの方に居たのだろう。ベッドに座ると、パソコンの画面が丁度良く視界に映る。起動させようとするとパスワードを求められた。

「そう都合よく行かないか」

「データ残ってないんじゃないスか? 貴方が襲撃してきた目的はここにあるデータに違いないって思ってた場合、馬鹿正直にパソコン残さないと思いますよ。でも入り口はあそこだけだし……何か隠すなら、持ってたりするのかな。自分、ちょっと死体漁ってみるッス! 先輩は脱出手段とか考えといてください!」

「……いや、普通に出ればいいだろ」

「へ?」




















「うひゃあああああああああああああああ~!」

「身体が侵食されるのもそう悪いモンじゃない、だろ!」

「いや、これはちょっと……た、高すぎッス!」

 脱出手段なんて考える必要はない。普通に跳躍して仮囲いに足をかけ、ティルナさんの家まで戻るだけだ。内と外とを分ける入り口は一つしかない。その先入観が人々を一か所に集める。反対方向から出ればそれだけで目撃者はゼロ人だ。上から見れば要請を受けたであろうパトカーがさっきまで俺達の居た場所に急行している。危ないから警察が到着するまで誰も中に入るなという事なのだろうが、お陰で安全に逃げ出せた。

「着地するけど、舌噛むなよ」

「…………!」

 人目のなさそうな場所を選んで着地。地面にはくっきりと足跡が残ってしまった物の、これ一つで俺達の正体がバレる事はない筈だ。

「…………あ、あう、あ、あ」

「ほら、出られた。寿命が減ってる口で言うのも何だけど、殺されてて良かったな、俺」

「ど、ドキドキしたぁ……! こ、これが恋……ッスか? お姫様抱っこ、された、から……?」

 抱えていた彼女を降ろしたものの、その足はまだ震えていた。透子に同じことをされた時は俺も怖かったような気もするけど……早すぎて良く分からなかった。あれに比べればまだまだだ。

「吊り橋効果にしては急性すぎるだろ……戻ろう。多分騒動については聞いてるだろうし」

 仮設小屋のドアをノックすると、ヒルダさんが出迎えてくれた。顔に「どうして戻ってこられたの?」と書かれている。姉と顔は同じみたいだけれど、表情の読みやすさは段違いだ。心得なんてないのに手に取るように分かる。

「お兄さん、お帰りなさ~い。誰にも見つかってませんね?」

「ああ、多分。ていうか見つかってたら今頃ここに大挙してると思うけど」

「それもそうですねっ。じゃあ約束を果たしてくれた事だし、餌になってあげましょうか! 時間はいつからにしますかー? 妹には留守番してて欲しいから、出来れば時間帯を教えてくれると助かるんですけど……」

「……実は一度帰るつもりだったんです。あっちに行って調べたい事が出来ちゃって。夕方くらいに活人会に来られますか?」

「お安い御用でーすっ。あ、そうそう。お兄さんにはついでに教えておこっかな。常連だった人へのちょっとしたサービスって事で♪」

「はい、何ですか?」








「ここ数日くらい、お兄さんの事嗅ぎまわってる人が居ますよ。誰かは知りませんけど……くれぐれも注意してくださいね」

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