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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 6 喪失の咎

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ひとの喪失

 透子否定派。恋人としては複雑な気持ちだがこの町はどう変わっても無法のままである事は一貫している。思想の自由とも言うべきか、誰が何を考えていても咎められる事はないし、そんな法律もない。口に出してもまあ、鉛玉を浴びるリスクを背負えるなら何を言ってもいいだろう。

 それだけならまだいいらしいが、透子を否定したいあまりそれが戻ってくる事を望む人間もまた同罪という事で殺して回っているという噂がある。何故噂かというと本人達は肯定派と話なんかしたくないようで、仮設住宅地に勝手に仕切りを作ってその中で生活しているから。

 そして勝手に侵入しようものなら、合法的に殺されてしまうと。

「外様だからルール知らなかったで最初は済むッスけど……ジュード先輩は一応確かめたりするんスかね?」

「不確定らしいから、確認出来たらするつもりだけど」

 だからあの人が否定派を殺したくてたまらない訳じゃない。単に妹にも危険が及ぶかもしれないから排除してほしいと言っているだけだ。論理は単純。ただ状況が少し変わっているだけ。

 ティカはわざとらしく俺と腕を組むと、それとなく制服の下に腕を潜り込ませて何かを渡してきた。慌てて俺も手を入れて確認すると、鉄の触り心地からして、拳銃だ。それもリボルバー……彼女が使っている内の一丁だろう。

「何のつもりだよ。俺には、要らないのに」

「ダメッスよ先輩。確かに貴方は強いッスよ。ジャックさんの血がそうさせてるッス。けど、透子さん見て分かってる筈です。力を制御するのは大変で、その力を使えば使う程貴方の寿命は減るッス。運動したら血流が良くなるでしょ? それが自殺行為なんスよ。なにもするなとは言いませんけど、楽出来るところはしましょうや。あたい、もっと先輩といたいッス!」

 顔がタイプだからなんて軽薄な理由だが、そんな薄い理由でもティカはずっと俺の傍について俺を守ろうとしてくれている。朗らかに笑う彼女の表情に折れて、大人しく銃を受け取った。撃ち方なんて分からないが、反動については気にしなくていい。この身体に銃の反動なんて無意味だ。

「ぶっちゃけジュード先輩が殺す必要もないんスけどね。そういうのあたいがやりますよ。手を汚すなんて今更だし」

「前の俺だったら頼んでたかもしれないな。色々、出来ない理由を探してきっと頼んでた。でも今は違う。今は撃てるよ。必要だったら」

 …………自分の事だから、良く分かる。

 最初に人を殴った時から薄々感じていた。そして今、銃を握ってみて確信した。

「…………じゃあ、いいッスけどね。で、開口一番はどうしますか? 同志諸君、遂に革命の灯を灯す時だ。この屍の町に人の生を刻んでやろう! とか言って焚きつけます?」

「俺達は外様なんだからもっとシンプルに行こう。話し合いが出来るくらいまともだったら冤罪の可能性もある。要はヒルダさんに危険が及ばないって分かればいいんだ。だからお前もその銃、隠しておけよ。もし穏便に済んでも、相手が銃を持ってたから穏便になっただけって言われるかもしれないし」

 銃は抑止力だ。どんな弱い人だってある程度の生物を問答無用で殺せてしまう。その危うさからこの国は銃が禁止で、その利便性から戦争においては重要な役割を持つ。この町はかつて変わった秩序を持っていた。人間災害という、銃弾どころかあらゆる兵器の通用しない無敵の存在。銃は確かに恐ろしかったがそれには一切通じる可能性がなく、それによってかばね町は不思議な平穏が保たれていた。


 ―――今はもう、そんな人が居ない。

 

 だから銃は危険物。チラつかせるだけでも相手をビビらせてしまう。どうしたら自分達を警戒しないでいてくれるかを考えている内に問題の仕切りに辿り着いた。工事現場で見るような仮囲いがここから先のエリアを分けている。

「で、扉どこッスかね。中に引き籠ってるにしても出口がある筈なんですけど」

「待てティカ。中の様子がおかしい」

「およ、聞こえるんスね?」

「…………」

 研ぎ澄まされた感覚が遠くの音を見逃さない。身体が血に汚染される事と引き換えに得た能力だ。まだまだ透子には及ばないがそれでも聞こえてくる。人の話し声が。

「奥に集会所でもあるのかな。結構な人が話し合ってるぞ」

「決起集会じゃないッスか? 透子さん煙たがってる人は、今じゃ少数派ッス。さっきの話じゃ相当血の気が盛んな奴ばっかり居そうだし、いよいよ全員を分からせてやろうとしてるのかも」

「……待て。それにしても国の支援で建てられたって言ってた筈だ。つまりここには活人会と同じように日本の法律が機能してるんじゃないのか? 武器を持ってるとは思わないけど」

「うーん、考え方の違いだと思いますよ。日本の中でここだけがおかしいから頭がバグるッス。ここを地続きの内陸国か何かだと考えてみるッスよ。日本は島国だから、海が結構難易度上げてるッス。でも地続きなら最悪歩いてでも入れるッス。ここが法律あっても外が無法ならやっぱ入手は簡単ッスよ。透子さんが居たから民衆は民衆で一括りだったのに、居なくなるのも考え物ッスねー」

「……とりあえず話を聞いてみよう。出来ればこの話し合いが終わる前に」

 ぐるっと仮囲いを周ってみると、一か所だけ囲いがずれて設置されている場所があった。他に扉っぽい場所はなかったのでここが入り口になるのだろう。それはいいが、来訪を知らせる呼び鈴などがない。このまま入ると不法侵入と受け取られかねない事だ。

「おーい! 誰か居ませんかー!」

 奥の話し声が止んだので、声は聞こえたと思う。代わりに耳が拾いだしたのは無数の足音だ。やましい事を隠すようにそれぞれの方向ヘト散っていく。こちらに近づいてくる足音は一つだけだった。

 やがて囲いから少しだけ顔を出した男は、俺を見るなり眉を顰めた。

「なんだてめえ。見ねえ顔だな」

「すみません。最近ここに来たばかりで。なんというか、右も左も分からないんですよ。親切な人にここに行けばいいって言われて……だから話を聞こうと」

「…………親切な人? 誰だそりゃ」

「誰って、知らないですよ。俺達はここに来たばかりだから……」

「そうそう。だから誰かにおしえてもらおーかなーって…………」


 パン、と。


 その返答は、一発の銃弾によって返された。勿論、俺の心臓めがけて。


「嘘ついてんじゃねえダボ。ここに人流す奴がいる訳ねえだろが。誰の差し金だ、何の目的だ。死ねや!」

「先輩!」

「…………うっ」

 思わず膝を突いて、間もなく崩れ落ちる。ああ、法律の影響を受けていてもこの町に生きる住民はかばねの呪いから逃れられないらしい。ここではきっと禁止だろうに、構わず所有しているなんて。

「とっととガキは失せろ。てめえも死にてえか!」

「ひっ! せ、先輩! やだ! やだあ!」

「ぴーぴー泣くんじゃねえ! だからガキは嫌いなんだ! あーもう! 入ってくんな! これが見えねえのか! てめえの彼氏みてえにぶちころ―――」


「……ころす、か?」


 心臓めがけたと言っても、的確に心臓を撃ち抜ける人間はそう多くない。相手が民間人なら猶更だ。俺はまだ侵食されていないから心臓を本当に穿たれたら死亡していただろう。けど助かった、心臓じゃなくて。

「話し合い、無理そうだな。何でこんな血の気が多いんだか」

「―――は? おま、え、え」

 胸に開いた風穴を見て男はそれこそ青ざめている。何故この男は死なないのか、立ち上がれているのかと。その一瞬の隙が致命的となり、男は銃殺された。懐からリボルバーを取り出したティカの手で。

「演技した甲斐がないッスよ~! ジュード先輩大丈夫ッスか? とりあえず中に入るッス。今の銃声で人集まって来そうなんで」

「……血の気が多い奴等が居て助かるな」

 だから中に入るどころかその周辺にも人が居ないのだろう。とはいえ銃声は只事ではないから、中に入って逃げないと。俺達の姿は少ない人間が目撃している。あの二人を巻き込みたくない。

「とりあえず皆殺しですかね。話し合いの余地もなさそうだし、これ以上ジュード先輩傷つけられても困るんで。良かったスねしょぼい銃で。失血したら大事ですから」

「…………これぐらい、大丈夫だよ。それより入り口がここしかないならお前はここで俺の漏らした人を相手してくれないか? 後は全部、俺がやるから」

「……人を殺した事ない人が、いきなり大量殺人はハードル高いッスよ」

「――――――ジャックの血のせいかな」






「もうこういうのに抵抗がないんだ」

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