表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 6 喪失の咎

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

137/185

龍への御供

「無理しないでほしいんだけど、本当に行けって命令があったのか?」

「ボスは透子さんの事以外割かしどうでもいいッスからね。あたい等を助けてくれたのはほら、透子さんがどうにかなる前じゃないッスか。まー安心してほしいッス。無理はしないんで」

 ティカの傷はまだ完治していないが、彼女は俺に心配をかけまいと無理をしている。無理をしないと言う前からしている無理は対象外とでもいうつもりか。それでも仕事は彼女にとって大事なようで、自分にどれだけ負担がかかっても当初の仕事を全うする気でいる。

 何が世話役だ。本当に……自分の命を大事にしてほしい。

「で、あれでしたよね。シンジはジュードさんをストーキングしてきた訳じゃなくて別の用事があったんじゃないかって」

「メーアの見立てではな。俺の事はたまたま見かけてちょっかいかけただけ。だから……まあ、バレたきっかけは警察のあれだろうな。あれで人が集まって目立っちまった」

「じゃあ、ジュードさんのお兄さんが悪いんスね」

「……本人にその気があったかはともかく、原因なのは間違いない。次からはバレないように……いや、違うな。見つけたら排除する。透子の一件とは関係ないのに視線を気にしてたらキリがない」

「殺すんスか?」

「殺さなくても排除は出来るだろ。やり方は同じだよ」

 車が活人会の入り口に到着したので、再び明るい内に一般客として紛れ込んだ。同じ制服を使うと今度は門前払いを食らいかねなかったので今度はまた違う制服。そして顔が共有されている可能性も踏まえてティカはマフラー、俺はサングラスをかけて臨む事に。

 それで恋人という関係性も作れば偽装は十分だろう。言い出したのはティカだ。


『なんか恋人って勘違いされてた事あったし、もういっそそれで行っちゃいましょうよ! 男一人は不審者でも、相手がいるなら不審者扱いは無理があるッスからね!』


 とか何とか。あまり納得は行かなかったが、俺の気持ちが多少嫌というだけで何度も何度も門前払いを食らうならいっそ気持ちなんて無視した方が良い。成果には変えられない。

 飽くまでも偽装として恋人繋ぎをしていると、不意にティカが横目でこちらを見上げた。

「そういやジュードさんってマジで結婚してたんスか? この指輪って」

「結婚指輪じゃないよ。これは…………家族の証、みたいな? 俺はもっと普通にかばね町で生活するつもりだったからさ。やっぱ恋人って形の方が面倒を避けられると思って、お前みたいに勘違いしてくれる目的で作ってもらったんだ―――って言う名目で、単に俺の独占欲だったのかもしれないな」

「おー正直ッスね。じゃあじゃあ、あたいも貰える可能性ありッスか!?」


「―――もう、作れる奴がいないよ」

 

 関係性の演出も、こういう形で使うとは思っていなかった。善いも悪いも俺の人生はとことん思い通りにならない。運は収束するという説もあるが、その時こそ俺の思い通りになってくれたら。

 とりあえず、ラーメン屋の周辺までやってきた。

「調査再開する訳だけど、結局三日前の収穫って何かありそうな気配くらいで、俺達はトラブルに巻き込まれただけだよな」

「…………ちょっと待ってください。確か……携帯に」

「お? 情報アリか?」

「こっちに来てんのはあたい等だけじゃねッス。ちゃーんと別動隊もいるんスよ。『鴉』は柔軟性が売りッスから。それで、ちょっとこれ見てくれますか?」

 彼女の携帯に表示されたのは現在のかばね町と重ね合わされた活人会のマップだ。一画を占領して行われている事は地図を見るまでもないが、マップ上にはなにやら気になる導線が引かれている。奥の大通りから伸びてきて、エリアを囲うように広がっていた。

「これは何だ?」

「警備の動きッスよ。どうも昨夜、夜が更けるにつれてどんどん警備の数が多くなっていったらしいです。この道路はほら……ずっと進むとかばね町の外であろうエリアまで繋がるんで、どんどん外側から応援が要請されてたって事になります。警備は町を囲うように広がってって、あたい等のトラブルを除けば活人会が市を閉める頃には完全に囲んでたそうッス」

「……市場が終わればこの辺りのエリアに用事なんてないと思ったけど。掃除するのが面倒だから保全の為だったりするのかな。いや……だからって規模が大きすぎるか。それにこの導線、真ん中に随分集まってるような」

「そうッス。俯瞰で見るとこの辺りは大体左下辺りだから、もうちょい奥の方で何かやってたんじゃないんスかね。そしたらシンジがここに来てたのもそれが目的だって説明がつくし……」

「つくし?」

「よく考えたらまだ何もやってないのに『鴉』ってだけであんなに大勢来るなんておかしいッス。それだけでも行ってみる価値はあると思いません?」

 大勢来たのは俺が指名手配されているから、と思ったが。彼らは最初に俺達を何者かと問うていた。つまり俺の顔を知らなかったし、俺が目当てでもなかったという事だ。そう考えるとあそこまで大事になるような理由は……俺達の知らない所にあると考えた方が自然になる。

 尤も、点と点が繋げられるようになっただけで何か見落としはあるかもしれないが、動機だけならこれでも十分だ。

「行ってみよう、出来るだけ目立たない様に。それと、無理しない様に」

「しないッスよ。だからこうして手ぇ繋いでるんでしょ」

 制服とは身分の保証だ。それを着ているだけで何処の学校に属しているのか分かるし、学校に属している以上その人間は怪しい人物と即座に言い切れなくなる。俺には属する学校などない訳だが、実際年齢は学生と言って差し支えないし、ティカもその矮躯から俺が並べば実年齢が多少年上だったとしても同じように扱われるだろう。

 人目を避けるように、それでいて人目に晒される時は恋人っぽく振舞ってみたりしてやり過ごす。ジャックの血が五感を鋭敏にしているお陰で、『気配』という概念を肌で無理なく感じる事が出来ている。誰かがこちらを注視していれば確実に気づける自信があった。

「せんぱ~い? じぶん~もっと奥とか行ってみたいです~」

「……お、おう。そうだな。色んなお店があって見てるだけでもたのしーしなー!」

「……へったくそ」

「うるさいな。慣れてないんだよ」

 誰も俺達を尾行していない。人通りも特別少なくなっているような事はないし、立ち入り禁止のエリアがあるなら十中八九そこで何かあったとみるべきだ。だからそのような場所が見えるまではとりあえず歩く。

「……ちょっと思ったんだけど、真司はこんな回りくどい事する必要なくないか。アイツは二代目人間災害だろ。全部力で捻じ伏せればいいのに」

「や、それは駄目っすよ。シンジは銃弾ちゃんと効きましたもん。バレちゃマーケットがでかい顔出来ねーッス。災害災害って言いますけども、透子さんより全然雑魚でしょ」

「まあ、それは」

 日光を避けるために日傘まで使っていたくらいだ。透子は自分の力をずっと抑えようとしていて、それでもあれだけの暴力を発揮出来た。後任とは何も先代の実力に追従するモノではないという事か。銃弾が効けばやりようはある。俺達が逃げ切ったように、殺しきる事は不可能でも。

「力が強くてもあたいがやったみたいに足止め出来るんなら龍仁一家だって戦争始めますよ。それが知られたくないからこそこそやってたんじゃないんスかね」

 あれこれ話している内に、中央と呼べそうな範囲を歩き尽くした。しかし重要そうな建物は何処にもない。あるのはこの市場の何処にでも並んでいるようなお店の入り口だけだ。龍仁一家がかつて拠点としていた建物は全て透子によって破壊されたそうだから、その代わり―――『鴉』が教会を再利用しているように、市場の中にあるには不適当な建物を使っているとばかり。

「んー…………こりゃ、どういう事ッスかね」

「隠してるって事か? それなら真司がうろうろしてたのも場所を探してただけって事になるが」

 アイツが感覚で探し出せないなら俺が見つけられる道理もない。正攻法で探し出さないといけないか。

「今回は朝から来たんで時間は沢山あるッスよ。情報知ってそうな人って言うとやっぱり組員スかね。あぶりだす方法は分かんないスけど」

「………………あぶりだすって言うと、方法がない訳じゃない。兄ちゃんとも出会えたんだ、知り合いがまだ生き残ってこの市場に顔を出してるって可能性もある。あの人が居れば、活路が開けそうだぞ」

「あの人って誰ッスかね? せっかく恋人設定作ったのに浮気は勘弁してほしいッス」




「浮気はともかく……とびきりの美人だよ。必要なんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ