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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 5 禍混じりて共に逢

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潜む死は幸せの陰

「クハハハ、そうか。小僧、遂に手ぇ出しやがったのか! そりゃおもしれえな!」

「弄らないで下さいよ……」

 午後は予定通り、フェイさんのお店を再度訪れた。かるたに関しては突如用意出来る代物ではなかったがコピー用紙をカットしてかるたの文字を印刷する事で強引に事態を解決させた。ニーナも参加出来るように文字を隆起させる手間(触覚に文字を知覚させれば視界情報として表示されるから)はどの道必要だったので用意するのに時間を要した事実は特段怪しまれていない。

 とはいえこんな話を他人であるフェイさんに自分からする道理はなかったのだが。

「何で気づいたんですか? 俺が…………透子と一線超えたって」

「てめぇ自身じゃ気づかねえ変化なのか? まあそれなら胡散臭いままにしておくか、立ち振る舞いで分かんだよそういうのは。どうだ、神秘的だろ。女なら腰の動きを見りゃまあ何となく分かるぜ。触ればもっと確実だ」

「……」

 どうしよう、俺は全く分からない。分からない事は気にしてないが、そこまで分かりやすいなら道行く人々に俺が誰かとまぐわった事がバレてしまうのか? もしなの子にまで『大人になったの!』とか言われたら町を歩ける気がしないけど。

「で、どうだった? 感想くらいは聞いてやるぜ?」

「言いませんよ! 風俗のレポートかなんかですか? 透子の弱みとして広める可能性がありますし」

「弱点にはならねえだろ。人間災害もてめぇの前じゃ一人の女だったって事だ。だからなんだっつう話だし、特段それを広めて回る趣味も無ェ。ま、精々うまくやれよ」

 まだ身体は怠いが、この調査をすっぽかす訳にもいかない。昨日の映像を再びモニターに映して、今度はもっと前―――車が存在しない時間帯から映像を進めていく。 

 車が来たのは、透子が出勤する三時間以上も前だった。服装から勢力は判断できないが、車から降りてきた男達はそのままカフェのある建物の中へ。それから時間を進めて―――出てこない。

 カフェの中にこの映像に居る男達は一人としていなかった筈だ。居たら現場に居た人間が殺人を目撃している。だからもしこの人間達が滞在していたとしたらそれは店の中ではなく外。ここはマンションだった廃墟だ。ただ隠れて潜伏するだけなら、人数が多くても不可能じゃない。


「あー、そりゃ示月会だな」


「うわっ!」

 珍しく後ろからフェイさんがやってきて、顎先を指で擦りながら言った。

「な、何ですか?」

「下世話な話を聞いたもんで、お詫びだな。そいつらは示月会だ。ほぼ間違いなくな」

 ……何処かで聞いた事があるような。

「どういう団体ですか?」

「贋作造りで儲けてる奴等って言や分かるか? あまりこういった活動はしねえ筈だが、武闘派は多いとこだ。金を積まれりゃやるだろうな」

「服装がバラバラなのは……」

「服装を統一しましょうなんてルールはねえんだよ小僧。 でけえ組織の奴らが自分らの脅威を誇示する為にやる事はあるがな。それと……その車、後々破壊してただろ」

「は、はい」

「何か見られたくない情報があったんじゃねえか? つっても実はもう撤去されたから調べる事は出来ねえんだがな。ああ撤去した奴は別に怪しくねえぞ。近隣の住民が邪魔だっつって片付けただけだ」

 そういえばなの子のお父さん―――ノットも調べてくれると言っていたっけ。もう一度立ち寄ってみるのもありかもしれない。次の目的地が決まったのはいいが、ふと疑問に思い、フェイさんに投げかけてみる。

「ここまで俺に肩入れして大丈夫なんですか?」

「あん?」

「相手は組織なんですよね。それでフェイさん、確か従来のクリスマスにはカメラを貸し出すくらい存在を知られてるんですよね。こういう裏でこそこそしたい人にとって貴方は真っ先に抑えたい存在だと思うんですけど……」

「クハハ! 心配ご無用だな。てめえより何年も前からこの町で生きてきた男だぜ、俺はよ。他人様の心配よりてめえの心配してやれ。てめえが死んだら誰があの女を制御するんだ?」

「…………」

「てめえだけが、あの女を人間に戻せる。てめぇがしねば災害は本物の災害になっちまうぞ。だからとっととガキ産ませて母親にしろ。災害を二度と災害にすんじゃねえぞ」

「言ってる事は正しいのに何でその方向性になるんですか!? 後、多分子供が生まれたらそれはそれでその子が狙われますよねっ。人間災害の子供だって事で」

「違いねえ! クハハハハハ!」

 くそ、揶揄われた。

 良い人なのか悪い人なのかさっぱり分からないけど、少なくとも敵になるつもりがないならいいか。この町はそんな0と1の二元論でははかれない。何事もバランスだ。

 店を出て地上に上がると、丁度透子から電話がかかってきた。直感だが、あまり緊急性は感じない。


『もしもし』

『店長から話を聞けたわ。今、いい?』


 俺の直感は当てにならない。


『なんだ?』

『私を朝に呼び出したのは待ち伏せを警戒してたからみたい』

『意味が分からない』

『店長はそれなりに恨みを買ってるみたいで、私が来るまでそういう待ち伏せを受けた事は一度や二度じゃないみたい。だからそれが怖くて、私を先行させたみたい。あの子達が死んだ件も、店長は自分を呼び出す為と推測していたわ』

『…………そうか。分かった。有難う。そっちは今何してる?』

『私は……昨日の君との思い出を噛みしめているところよ。あんなに激しく求められたのは生まれて初めてで…………嬉しかった』


 透子の声音に甘さが混じる。いつになく色気を感じる声に、電話越しにも拘らずドキドキしてしまう情けない男が俺だ。


『……君の温かさ。染み込む感覚が愛おしくて、今日はずっとぼうっとしてるの。帰りを待っているわね』





















「またなの子が壊されたんですか!?」

「だから言っただろう。壊される事は初めてじゃないと」

 なの子を見かけないのはまだ遊んでいる最中という事だろうか。ノットは俺が来た要件を察しており、話を切り出すまでもなく本題に入ってくれた。

「現地に向かって車を調べたよ。僕達が調べた時にはまだ撤去されていなかったからな。真っ黒こげになった車から得られる情報などたかが知れているが、僕達だからこそ分かる情報もある」

「というと?」

「あれらの車は僕達の事業から切り離された車―――まあ平たく言ってしまえば、購入された車だな。車の販売は行っていないんだが、お金を積まれれば話は別だ。すっかり忘れていたけど……僕達が取り扱っている車にのみ密かに刻んである印に気づかなかったみたいだ。車は全て破壊されていたが、出所を分からなくする為なんだろうな」

「誰が買ったんですか?」



「マーケット・ヘルメスだ」



 やはり、そうなってしまうのか。三大組織と言いつつ、その中で最も活発に動いている組織は闇市を仕切るあの組織だ。犯人になっても不思議じゃない。マーケットが車を用意し、示月会が人を用意して、真司が後始末を? どういう関係だろう。

「示月会って、マーケットの下部組織ですか?」

「どちらかと言えば龍仁一家の傘下だな。その辺りはあまり気にしなくてもいいぞ、この町は出し抜き出し抜かれだからな。龍仁一家の傘下に居るからって密かにマーケットと繋がっていても不思議じゃない。その質問をするなら、そういう事なんだろう」

「はい、そうなんです」

「なら話は終わりじゃないか。人間災害を連れてカチコミに行けばいい。それで復讐は終わりだ」

「…………」

「ん?」

「いや、あの」

 不本意だったが俺は昨夜の出来事をノットに話した。簡潔に、透子と肉体関係を持った事実を。

 フェイさんと違って彼は野次馬染みた反応は見せず、代わりに「ほう」と一言漏らすのみだった。

「では君は正真正銘の変態だな」

「な、何で!?」

「あんな怪物に発情するなんてどうかしているからだよ。ただ、それは僕が口を挟むべき事でもないから単なる感想だと思ってくれ。仕方ない。人間型災害が幸せそうだからそんな事させたくないと気を遣うなら、うちのなの子を持って行くといい」

「はい?」



「なの子を壊したのも示月会の下っ端なんだ。ムカつくから、連れて行きなさい。一部の権限を貸してあげよう」

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