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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 5 禍混じりて共に逢

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死滅を講ず

「……事情は分かった。僕達が帰った後にそんな事が起きていたとはね」

 同じ顔をした集団幼女によるリンチによる報復で、彼らは漏れなく死亡した。なの子ちゃんはお片付けを自分でする偉い子らしいので、死体を何処かへ持って行ってしまった。その間、俺はノットと倉庫に戻って改めてここに来た用件を説明した所だ。

「あの車は結局誰が持ってきたんですか?」

「僕に聞かれても困るな。僕達が来た時には既に多くの車が並んでいたんだ。だが実際の客足とは似ても似つかなかった。誰も何も言わないから僕も何も言わない事にしたんだ。別に、困った事は何もなかったしな。むしろ僕達を狙ってやってくる奴の邪魔にはなりそうだったから、有難いくらいだよ」

「……最初にお店に来たのは誰なんでしょうね」

「いや、君、フェイのカメラを見たんだろ。一番分かってそうじゃないか」


 ………………


「―――まさか車が誰の物でもないって思わなくて、見てませんでした」

「おいおい」

「すみません。後で見返してきます」

 せっかく監視カメラを見られるのに俺はどうして自分の知りたい時間帯だけ見ようと思ったのだろう。厳密には日にち最初から倍速していたので車がいつ来たのかも視界には映っている筈だが、非注意性盲目という奴で、全く覚えていない。プレゼントを仕上げるついでにまた後で寄ろう。フェイさんには絶対笑われる。

「まあそれはそっちで確認してもらうとして、店員を殺したのは僕でもないし店の誰かでもないと証言しよう。僕達がお店に居る間は全員が大人しかった筈だ。そもそも、大人しく過ごしたい奴らが集まっていたんだからね。あのリストを君も見ただろうに」

「成程。裏付けが取れてないんで完全には信じられないですけど、有難うございます。そういえばノットさんもリストに載ってたような」

「なの子も載っているしな。大丈夫だ、指名手配は慣れている。人間型災害程じゃないが、僕も中々悪名高き男だったからさ。テロリストの中では中々悪質な方だったと思うよ」

「テロリスト……?」

「おっと、テロを肯定している訳じゃないぞ。少なくとも過去の生き方は悔いているつもりだ。ただ……悔いたところでどうにかなるものでもない。滅ぼせる罪にも限界があるんだ。だから……せめてもう誰にも加担しないようにこうして余生を過ごしている。全くこの町は素敵だ。僕みたいに、悪党で在り続ける事に疲れた人間すら受け入れてくれるからね。人生の指針を失い、立ち上げる気もなくなった屍の集う町―――だからかばね町なのかな?」

「単に死体が出過ぎるからだと思います」

 


「お父ちゃん! 帰ったのー!」



「お帰り。早かったね」

 なの子ちゃんが帰ってきたので同じ質問をしたが、あまり意味はなかったかもしれない。ノットと同じような答えしか帰ってこなかったからだ。身内と考えるなら仮に犯人だとしても当然口裏を合わせているというだけ。やはり俺の要領はあまり良くない。

「聞きたい事は聞けたし、俺はそろそろ帰ります。じゃあね、なの子」

「バイバイなのー!」

「……いい感じに別れるところで申し訳ないが、ちょっと待った」

 ノットに声をかけられ足が止まる。振り返るとなの子ちゃんが「帰ってきたの!」と驚いていた。

「なんですか?」

「なの子を助けてくれたお礼だ。僕の方でも少し調べてみよう。それと、人間型災害と連絡が取れるならこまめに取るべきだ」

「……それは、またどうして?」

 透子の事が心配になるのは今に始まった話じゃない。その正体を知っても尚、彼女の心の弱さを俺は十分分かっているつもりだ。体は無敵でも、心まではどうにもならない。人を殺して尚そんな心を維持し続けているのは強さなんかではなくて、身体同様、心も不変になってしまったのではないだろうか。言い方を変えるなら、感性すら死を許されていない、みたいな。

「何か引っかかる程度の事だ。殺された子達に特別な事情は無いんだろう? この町に無意味で無価値なゴミの死なんて幾らでも転がっているが、あの場所に限って無意味を生み出すのはむしろ難しいだろう。リストに載っていた賞金首が沢山居て、人間型災害まで居たんだ。僕達の誰も犠牲になっていないのだとしたらその矛先の最終目標は人間型災害に向いている可能性もある」

「……透子にダメージを与えたい、って事ですか?」

「直接殺すのは勿論不可能だろうけど、孤立させる事は出来る。極端な話になるけど、世界を滅ぼしたいという思想の持主が手っ取り早くその願いを叶えようと思ったら、災害を怒らせてその暴威を世界中に向けてしまえばいいんだ」

 勿論、それは仮説の話。だけど理に適っているかもしれない。透子はとても繊細な女の子だ。それでいて、なまじ自分が無敵なあまり抱え込む性質もある。もし火薬庫に火をつけるように、たとえ殺される事になってもその怒りを爆発させられたら……火山が噴火したなんて表現では物足りなくなりそうだ。

「お姉ちゃんが喜ぶ事したいの? それならなの、知ってるの!」

「え、何だ?」




「お兄ちゃんと話したいって言ってたの! もっともっともっともっともっともっともっともっともーーーーーーっと話したいって!」




















『―――私の声が聞きたくて電話したの?』

『あ、ああ。何となく、だよ』

 思い立ったが吉日と考えて、ノット達と離れた後適当なレストランに腰を落ち着かせて透子に電話をかけてみた。まさか電話をするきっかけをそのまま話すとお互い気まずくなるのは目に見えていたから、適当に誤魔化しながら。嘘はつきたくないけど、正直に『なの子からお前が俺と話したくて仕方ないって聞いた』なんて言ってみろ、お互い次の言葉に悩むだろう。


『……ふふ。そうなの。実は私もそろそろ君の声が聴きたいと思っていた頃よ。私の為に頑張ってくれているのは分かるけど、お陰で今日はずっと君と離れ離れで』

『お、お前は耳が良いから耳をすませば俺が傍に居るように感じられたりするんじゃないか? き、キスの音とか聞こえてたみたいだし』

『それが今は川箕さんに色々と付き合わされているから聞こえていないわ。ねえ、大丈夫? 危険な事に首を突っ込まないでね。私なら大丈夫だから、自分の身を第一に考えてよ』

『なんだよ、せめてこういう時くらい格好つけさせてくれよ。大切な人には、俺が一番かっこいいんだって思ってもらいたいんだ。本当に危険なら助けを呼ぶから』

『…………近い内に、日頃の感謝を込めて川箕さんと二人で君にお礼をするわ。ちょっとした食事会? ……うん、パーティーみたいな物ね。賑やかにやる方じゃなくて、内緒でやる方の。だからその、えっと。が、頑張ってね? 寂しかったらいつでもかけてきていいから』

『あ、ああ。うん、いつでもかけるよ』

 

 他人の電話越しの会話なんて誰も気にしないが、それでも万が一聞こえるかもしれないと思うと恥ずかしくて口の前に掌を置いて声をくぐもらせる。


『……だ、大好きだぞ、透子』

『………………!』


 電話が切れた。

「……な、なんか返事してくれよ……!」

 聞いたら喜ぶかと思って頑張ったのに、何も言わないんじゃ俺が一方的に恥ずかしいだけだ。まあいい。気を取り直そう。ここに来たのは単なる昼休憩の為だが、遠くの席に見知った顔が居る。少し様子を見たい。


「えー機密情報は売れませんよー。私がそれをやっちゃったらおまんまの食い上げじゃないですかー。幾らお金を積まれてもやりません」


 ティストリナ・アーバー。ティルナさんだ。誰かと話しているが、対面に居る人間は丁度死角になっていて見えない。あまり仲睦まじい様子ではなく、どちらかというと軽い口論をしている。

「……妹に手を出さないで。もし出したら、分かってるよね。こんなくっだらない話し合いなんか二度と応じない、殺し合いだから」

「しかしですね、貴方にしか頼めない事でもあるんですよ。貴方だからこそ出来る。貴方にしか出来ない。強情なのも結構ですが、マーケットはいつでも貴方を排除出来るという事を忘れないでいただきたい」

 死角に居た人物が足を通路側に出したので俺も顔を引っ込めてメニュー表を見つめているフリをする。幸い俺にはオーラみたいな物はなく、普通に横を抜けられて事なきを得た。


 ―――マーケット、か。


 やはり無関係ではないのか。ティルナさんに話を聞きに行こうとメニュー表を下げると―――今度は代紋を掲げた男達が数人入ってきて、ティルナさんを囲むように席についた。

「おうおうおうおうおう! 姉ちゃんよお! 俺らの頼みは聞いてくれねえのか!?」

「幾ら電話しても無視しやがって、舐めてんのかこらぁ! オヤジたっての頼みを断る権利なんざ女にある訳ねえだろ! 首を縦に振るまでマワしてやろうか!?」

 ここはレストランだ、間違いなく。一般人も利用する場所で、従業員はカタギで……そんな場所で、堂々と脅迫している。

「…………こんな場所まで来て脅迫なんて、空気が読めないんですね。マワせるものならマワしてみれば? 出来もしない事を言わないでよ短小」

「この―――!」



「龍仁一家ってクソだな!」



 思わず、声が出ていた。関わらなければ良かったものを、ティルナさんが困っていたように見えたから。あの人には度々お世話になっているから。

「公共の場所で堂々と強姦宣言かよ。何が人情派だよ、便所派の間違いじゃねえか。なんの関係もない店で堂々とマワすとか流石反社の回し者は言う事が違うな!」

「…………ああ?」

 代紋を掲げた全ての人間のヘイトが漏れなく俺に集まってくる。透子を呼べば助けてくれるだろうが、それは今じゃない。だってピンチだったのは俺じゃなくてティルナさんだ。これは俺が最後まで責任をもって遂行しなければならない余計なお世話。昼食の傍らで知人が絡まれてる光景を肴には出来ない。

「ビジネスを分かってるマーケットに町の支配権で劣る訳だな、下らない奴が集まるから龍仁? あ? 留年一家だっけ? 勉強が出来ないからそうやって軽々しく公共の場って事も忘れられるんだろうな、かばね町が外国人だらけなのも頷けるよ、この国のヤクザがこんな凡人の集まりだったらそりゃな!」

 席を立つ。そして全速力で逃げ出した。


「あ、追え!」

「野郎、ぶっ殺す!」


 どいつもこいつも犯罪者なのは分かっているが、中でも龍仁一家のイメージは悪くなる一方だ。好印象だったのは外でニーナに杖の使い方を教えてくれた人だけ。何がしたいんだあの一家は。

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