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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 5 禍混じりて共に逢

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弱くても守りたい

「クハハ。それで俺んとこに来た訳か。しかしクリスマスっつー日は普段なら忙しいんだ。誰かに聞いたりしてねえか? 悪党どもの悪趣味な駒遊びをよお!」

「聞いた事ありますけど、今は事情が違いますよね。だから、暇かなって」

 フェイさんのお店に季節感なんてものはなかった。そもそも構えられている立地が立地なので意識しても仕方ないのだろう。こんな場所に季節感がないとクレームを入れる人間は余程の物好きだ。

「まあでも、その用事がなくてもここには来るつもりだったと思います。フェイさんの知識を見込んで聞きたい事があって」

「ほう?」

 透子のお店で起きた惨劇の犯人を見つける事は突発的に発生した……言うなれば俺の予期していなかった出来事だ。予め解決するという予定を入れる事は出来ない。当初の予定をフェイさんに伝えると、彼は軽く首を捻って目を細めた。

「あー? お前、何がしてえんだ」

「え?」

「女にいいとこ見せようってのは分かる。暴力の蔓延る町だからこそ、てめえみたいな善良さは輝いて見えるもんだ。だがそれはそれとして呑気に女へのプレゼントだあ? 方向性が全く別だろうがよ、どっちかに絞れって」

「……今日が終わるまでに渡すって言っちゃったし。俺は、自分から言い出した約束は破りたくないんですよ。二人共、大切な人だから」

「青い奴だな。だがそんな無茶を通す為に俺んところに来た事は誉めてやろうじゃねえかよ。あの辺りの映像が欲しいんだったな? あん時みてえにそこの部屋に入ってろよ。ちっと在庫を探してみる。うちは品揃えで売ってんだ、くだらねえ注文だろうが持ってないなんてプライドが許さねえよ。まあ時間は……貰うがな」

「お願いします」

 部屋に入ると相変わらず無数のモニターが街の景色を映し出している。欲しいのは現在の映像ではなく過去の映像だ。過去に透子がやった手順を思い出しながらパソコンを立ち上げたり、配線を調整したり……

「…………」

 焦る必要はないのに手が急ぐ。時間は沢山あるから大丈夫だ。この手の配線まみれの床は線を間違うと取り返しのつかないイメージがある。だから、決めつけない。焦らない。焦ったら、駄目だ。

 モニターと配線を交互に見ながら画面を整えると、俺は目当ての映像データを映し出した。

「これだ、よな」

巻き戻しや倍速を繰り返す内に俺の知りたい時間帯へと近づいていく。俺の要請を受けてお店に入る三人。誰かがこっそり後を尾けているなんて事もなく、ただ車に埋め尽くされた空間が隠しカメラに映されている。

 ―――そういえば、俺が訪れた家は四軒だったよな?

 強姦されかけた家、燃えていた家、解体作業に遭った家、それからコンテナに住んでいた子で四軒。時間を撒き戻すと、最初に訪れた子がちゃんと映っていた。一瞬怪しく思ったが、気のせいだったか。

 それで、映像を進めると―――深夜二時頃に、なの子ちゃんが帰っていった。そこでようやく気付いたが、あの時なの子ちゃんのお父さんもカフェに滞在していたようだ。ボロボロの白衣を着た人間がなの子ちゃんに手を引かれて店を後にしている。車には……乗らない?

 次にレインが店を出たがこれも車に乗らない。


 ―――じゃああれ、誰の車だ?


 その後も映像を見たが誰一人として車には乗らずに去って行ってしまった。意味が分からない。じゃああれは誰の車だ?

「…………」

 映像を進める。深夜―――いや、朝四時か。意外な人物が多くの人間を引き連れて車に対して破壊活動を開始している瞬間がばっちり移っている。

「し、真司…………?」

 車の持ち主は分からないし、車に攻撃する意図も分からないし、マーケットに捕まっていた筈の真司がどうしてリーダーのように主導しているのかも分からない。全ての車を漏れなく破壊した後、真司達は満足そうに去っていった。後は俺達も知っての通りというか、恐らくの時系列通りだ。透子がやってきて、遅れて俺とニーナがやってきて―――


 得た情報を整理しよう。


 深夜二時をきっかけに籠城は解除され次々と客は去っていった。車の破壊活動はその後に行われ、それまでの間に店員の子達が外出した形跡は映像として確認出来なかった。やはり店内で殺されたと考えた方がいいかもしれない。確定にしたくないのは、なの子ちゃんが相変わらず楽しそうな表情で帰っていくから、物騒な事件など起きていないのではないかという希望的観測からだ。だけど俺はなの子ちゃんの事をなにも知らない。かばね町で生きていけるくらいの幼女だ、ひょっとすると感性がおかしい可能性……というか、そう考えた方が自然ではなかろうか。

「おい小僧。いつまでその辛気臭え部屋に閉じ籠ってやがる。見つけてやったんだからとっとと出てきやがれ」

「辛気臭いようにしてるのはフェイさんでしょうに。、文句言うのは俺でしょ」

「や? これ以上広げようとしても費用ばかりかかるから断念中ってのが正直なとこだ。クハハ、簡単に広げられんなら誰でもそうするだろうが。壁をハンマーでぶち崩しゃいいってもんじゃねえぞ」

 部屋から一旦出ると、カウンターの上に多くの部品がまとめられている。もっと楽をしても良かったのかもしれない……殆ど既製品みたいな品物を用意しても川箕は怒らないだろう。けれど、これは俺のなんとなくの意地で、フェイさんもそんな下らない感情に付き合ってくれたからわざわざここまで細かく用意してくれたのだ。無下には出来ない。

「箱はサービスしといてやるよ。別に何の特別性もねえしな。一応作り方聞いとくか? 手先が器用ならついでに考え事も出来るだろうよ」

「フェイさん、作った事あるんですか?」

「作った事がなくても分かるだろうよ、誰だと思ってんだ? しがないお店の最高にイケた店主だ。余裕だろ」



















『え、誰からの電話に出たのかって?』

『ああ。辛い事を思い出させるかもしれないけど、よく考えたら変だろ』

 情報を少しずつ集める。名探偵でなくともそうやって明確な情報を増やしていけば自ずと真実に辿り着ける筈だ。監視カメラを介しておおよその疑問を解消したら次は誰が彼女を呼んだのか。

 透子を呼ぶには呼べる程度の関係性があって、かつ呼び出しに応じるくらいには彼女からの好感度がないといけない。一方的な都合で無理やり呼び出すなどは不可能だ。


『……おかしな話をするけど、店長から呼び出しを受けたのよ。お店の前で車が溜まってるけどまだ客が居るのかって』

『店長……俺は会った事ないんだけど本当に実在するんだよな。おかしな状況って分かってるなら直接身に行けばいいのに何でそうやって人をパシるんだ?』

『店長は臆病なのよ。私みたいな訳アリ物件を雇えるのも、とにかく人手が欲しいからの一点で、自分から顔を出す事を嫌っているわ。私だって顎で使われた事は一回や二回じゃないからそこまで気にしなくても』

『でもその店員が死んだんだぞ。顔を出さないって選択肢は取りづらくなる。それとも透子にずっと無茶させる気か? お前の正体を知ってるとか?』

『正体は……知っていると思うけど、それとこれとは無関係ね。でも確かに……自分の代わりになる店員については気を配っていたから、放置するのも変だけど』

『俺が訪れた一人は強姦されかけてた。家が燃えてたり、解体されてた。分かるか透子。誰かがお前を、もしくはお前の周りの人間を狙い撃ちした可能性が高いんだ。こっちは昨日店に居た人に話を聞くつもりだから、もし店長から聞き出せたことがあるなら頼む』

『……ええ。分かったわ。もし殺されそうになったら大声で私を呼んで。たとえゼロ距離でミサイルを打たれても助けてみせるから』

 電話を切って、カウンターの横に置く。

「…………色男は大変だなあ?」

「これでも修理屋としてちょっと働いてるんです。ちょっとずつでも、作って行かないと」

 プレゼント作成の進捗率はどうだろう。このお店に居る間が一番作業に集中出来る。形だけでも仕上げておかないと。

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