10、最強武装製作に携わりました
「……海斗、さすがのわたしも泣くよ?」
談話室に着くなり、真顔で美琴はそんなことを言ってきた。色白の肌は、天井の灯りでさらに白く見える。
しかしその目元には薄らと光を反射するものが浮かんでいた。
……例のカップル事件を解決をして帰ってきた僕は、早々に夕飯を作り終えて、リビングで一休みと洒落込んでいた。
そこに美琴が入ってくるなり『……あとで談話室に来てほしい』と言われた。挙動はいつも以上に静かで、寒気すら感じたほどだ。
で、家族みんなでの夕飯を楽しみ、食器を洗い終えて、お茶を一杯啜って、子供たちと一緒にお風呂に入って。
さぁ寝るぞ、と意気込んで階段を上って、自室に向かう途中にある談話室兼分岐点の扉を開けて……
で、今に至るってところかな?
よし、OK。回想のおかげで完全に思い出した。
……完全に忘れていたことを思い出した。
「ごめん美琴、今回はさすがに僕が悪かった……」
「……ううん、大丈夫」
素直に謝罪の言葉を述べると、意外にも美琴はあっさりと許してくれた。
謝る側がこんなことを考えるのは不謹慎かもしれないけど、絶対になにか要求してくると思ったから正直ホッとした。
そうか、美琴もついに成長して――――
「……代わりに、明日以降の海斗の食事はすべてわたしが管理するから」
「本っ当にすんませんでしたぁー!!」
うん、我ながら綺麗なDOGEZAだ。
だめだ、やっぱり変わってなんかなかった!人間そう簡単に成長なんかしないもんね!
というか、美琴に食事管理なんかされたら、毎食何かしらの薬物が混入していることが大前提のドラッグ
フードになってしまう。
そんなことになったら、僕の生活に重大な欠陥が生じるに違いない!
「……海斗、顔を上げて……さっきのは冗談だから」
どこまでが冗談だっかのかまったく判断できないけど、とりあえずよかった。
ゆっくりと立ち上がり、ふたたび美琴と対面する。立つときに体の節々がミシッという不快音を上げていたことに関しては一度忘れることにしよう。
……大丈夫だよね?折れてないよね?飛び出したりしてないよね!?
「それで、ここに呼び出した理由って?」
なんとか平静を保ち、美琴にそう問い掛けた。
「……今回は……ちょっとお願いがあって、ここに呼ばせてもらったの」
「お願い?」
「……まずはこれを見て」
そう言って美琴は、自分のインデックスから丸められた紙を取り出し、テーブルの上に広げた。
羊皮紙ではなく、コピー紙くらいしっかりした純正の紙だ。
見ると、紙にはなにやら細かい線で謎の設計図が描かれていた。その各部から延びた線の先には、その部分の詳細らしきものが細かく記されている。
見た感じ、まるでロボットアニメとかで見る操縦席のようだ。しかしそれだけで、戦闘機や高性能ロボなどは一切描かれていない。
「美琴、これは?」
思わず質問してしまう。人間って、わからないことがあると知りたくなるっていうけど、これなんてまさにそうかもしれない。
美琴はどこか神妙な面持ちで、紙面に描かれた図形をその細い指で撫でた。
「……これは……私の設計した最終兵器……名前はまだない……」
なにその言い回し!絶対狙ってるでしょ!
それにしても、最終兵器だって?なにやらずいぶん物騒そうな物が出てきたね。
……あれ?
「そういえば美琴って、前にもこんなようなの作ってなかったっけ?」
たしか美琴がまだ魔法ギルドに入ったばかりのときに作ったものに、こんな様なものがあった気がするんだけど。
それがギルド長の目に留まって、ランクはDから一気にSSになり、ついでに副ギルド長まで務めるという偉業を成し遂げていたはず。
美琴の反応は……肯定。
やっぱり見間違いじゃなかったか。
「で、これがどうしたの?」
「……これは、私個人から戦士ギルドの海斗に依頼する形になるんだけど……」
なるほど、今回はこれに関する〝仕事〟の依頼ってことか。
別に依頼にしなくても、困ってるんだったら普通に頼ればいいのに。
まったく、変なところだけ遠慮するんだから。
「わかった。どんな内容にせよ、美琴の頼みなら……引き受けるよ」
親指をグッとと立てて、ちょっとかっこよく言ってみたりする。
すると、見る見るうちに美琴の顔が赤くなっていくではありませんか!?
「ど……どんな内容でも?なら、あああああんなことやそんなことも……!?」
「違うから!そういう意味の『どんな』じゃないから!あと、鼻から大量出血してるからっ!!」
美琴の情熱は、鼻から分泌される……覚えてもテストじゃ一点にもならない!やったね!!
◆◆◆◆◆◆
「……実はこの武装、まだ未完成だったりする」
「え、そうなの?」
ようやく『情熱』の処理が済み、ソファーに座りながら本格的に話を進めることにした。
滑らかな動きで紙面を指差す美琴……が、鼻にティッシュを大量に詰めてあるので威厳も何もない。
僕の場合は見慣れているから別になんともないんだけどね。
「……この武装は本来、これと連結することによって、無意識の領域までフル活用して動く仕組みになっているの」
美琴の右手が指差すのは、頭の猫耳カチューシャ。確か『AOS』って言う名前だ。
「……海斗、これの性能憶えてる?」
「え、いや……」
確かだいぶ前に王様からの説明書で読んだ憶えがあるけど、複雑すぎてまったく頭に入らなかった気がする。
「……『AOS』……正式名称は【アブソリュート・オペレーション・システム】と言って、装着者の五感を補助してくれる魔導具のひとつ」
五感って言うのは確か、動物が持っている基本的な感覚のことだったような。
「……補助と言っても、性能はかなりのもの。最近は使い慣れたおかげか、第六感とかもしっかりしてきて、たまに霊的なものも見えるようになったりしてる」
なんか真顔でものすごいこと言ってる気がするんだけど、ツッコんだら駄目な領域な気がしてならない。
というか霊感とかまで鍛えられるって、いったいどんな仕組みなんだろうか……
あんまりつけたくない……かも。
「……それで、今度はこっちのほうを見て」
今度はさっきまで見ていた設計図のほうへ指を向けていた。
「この武装には電磁砲やスライサー、追尾ミサイルに魔導障壁……他にもかなりの武装が積み込まれてる」
なんか平然と言いのけてるけど、それってほとんど空想上の産物じゃなかったっけ?
電磁砲……レールガンとか言うやつは一応僕らの世界で研究はされてるみたいだけど、まだまだ実用レベルには達してないとか聞いたことあるんだけど……
さすが美琴……恐るべし技術力だよ。
「それにしても、そんなに完璧な状態で未完成ってどういうこと?別にカチューシャのほうと連結させなくても問題ないと思うんだけど……」
そう言うものの、美琴は首を振って否定してきた。
……なんか、ものすごく悔しげなような……
「……武器に関しては完璧……なんだけど、これだけ複雑に組み込んだから、手動じゃとてもじゃないけど操作なんてできない……それどころか、これだけじゃ装着してもまともに動かすことすらできない……」
むぅ、そう簡単な話でもないってことなのか。
確かに設計図に描かれた椅子のような武装――――よく見ると、腕や足のアタッチメントがある――――には、操縦部のようなものがひとつもなかった。
「……だから、操作は脳から直接する必要がある」
これを介することによって、と美琴は付け足して頭のカチューシャをはずしてテーブルに置いた。
ぬっくっ……なんだか頭が痛くなってきた。難しい話って、聞いてるだけで頭痛がしてくるよ。
でも、大体は把握した、かな?
「おさらいすると、美琴は最強武装を作ったはいいものの複雑すぎて、動かすにはそのカチューシャを繋げる必要がある。で、それを繋げる手伝いを僕にしてほしい……そういうことだね?」
コクリと頷く美琴、今度は肯定みたいだ。
「……正確には、海斗には材料の調達を依頼したいのだけど……引き受けて、くれる?」
つまり僕がやるのはあくまで素材集めであって、細かい作業に関しては美琴がするってことか。
「それならまったく問題はなさそうかな。複雑なものじゃなくてちょっと安心かも」
そもそも、組み立てやら機械の操作とかだったら美琴のほうが断然上手、依頼自体してこなかっただろうな。
「……それじゃあ……!」
「うん、交渉成立、だね!」
「………っ………!!」
へ、なんで泣き出すの美琴?なんで身構えてるの?
どうして突っ込んでくるのぉー!?
「ぐふっ!?」
うぅ、いいタックルだねまったく……
勢いありすぎて、ソファーにめり込んじゃったじゃないか。
……ソファーのカバー、破けてないといいんだけど……
胸元から聞こえてくる「ありがとう」は、服と涙声のせいで小さくなってしまっているけど、美琴の気持ちだけは体温とともにしっかりと伝わってくる。
僕は頭をソファーに預けながら、今後のスケジュールへと想いを馳せた。
「(休日は週一回。今回の依頼にそれを当てるとすると……)」
休みはゼロ、か。
大丈夫かな、僕の精神と肉体……
◆◆◆◆◆◆
はぁ……月が綺麗だね……秋の虫がそこらじゅうで鳴いて、風情があるね。
美琴が泣き疲れて眠っちゃったときはどうしようか悩んだけど、一応自室に連れて行っといたから大丈夫だよね?
なんか女の子の部屋に勝手に入ったことへの罪悪感で庭先まで逃げてきちゃったけど……って、いまさらすぎるか……
「あれ、お兄ちゃん?」
「あ、やっぱり海斗だぁ!」
澄んだ秋の空気に、聞き慣れすぎた声がよく通る。
振り返ると我が姉と妹が手を振っていた。
もう夜の11時くらいだというのに、二人はまだ眠くならないのだろうか。
「どうしたの二人とも、こんな時間に外にいるなんて」
「それはこっちのセリフなんだけどね……」
苦笑いしながらツッコんでくる妹。やはり兄妹だからだろうか、ツッコミがさまになってるね。
「いやね、さっき海斗の下着を漁ってたら、窓に海斗の姿が映っていたのよ。それで気になって外に出てきたらたまたま志穂とも鉢合わせてね」
「わたしのほうはお姉ちゃんが外に行くのが見えて、気になったから着いてきたの」
「なるほどねぇ。とりあえず姉さんにはあとで聞きたいことがあるから」
「ああ……やっちゃった……」
地面に両手両膝をついて項垂れる姉さん、自業自得ですらないよ。
堂々と弟の下着を物色するような姉はビシッと言うのが一番だ。決して甘やかしちゃいけない。
……一度甘やかしたことがあったんだけど、あのあといろいろと面倒なことになったんだよねぇ……
「そういえばお兄ちゃん、最近学園のほうはどうなの?」
「ああ~……それは……」
一瞬言ってしまいそうになったのを、喉元で抑える。
たぶん問題はないのだろうけど、変に話して風紀委員の人たちがここを嗅ぎつけたりでもしたら厄介だ。
ここは話さないのが得策か。口は災いのもとってよく言うし。
「海斗~、お姉ちゃんに隠し事~?」
「ふにゃあ!?」
ぞくっとした!姉さんの指が急に首筋をなぞるもんだから、つい変な声が……
うぅ、男として情けない。
(おお海斗よ、女々しくなるとは情けない)
黙れ妖精さん!君はもう出てくるなって言ったはずだよ!!
「うりうり~、さっさと話してみなさいな~。どんな話でも、お姉ちゃんが海斗の柔肌ごとガシッと受け止めてあげるから!」
「ふえぇ!?お姉ちゃんそれってどういう……」
「姉さん!いかがわしい言い方をするんじゃない!!」
ああもう姉さんが変なこと言うから、志穂が顔真っ赤にしちゃってるじゃないか!
志穂も志穂でいったいどんなことを想像してるんだ!中学生なのにソッチの知識豊富って、兄としていろいろ不安になるんだけど!?
くっ、このままじゃグダグダだ。なんとか話を逸らさねば……
「そ、そうだ!二人のほうはどうなのさ」
よし、ベタだけどなかなかいい切り替えしだ。これならうやむやにされることも少ない。
すると二人は急に満面の笑みになって僕を見つめた。とても爽やかで、それでいてどこか「待ってました」とでも言わんばかりの何かを孕んでいるような……そんな笑顔だった。
……なんだか、嫌な予感がする……
悪い予感じゃなくて、あくまで『嫌な予感』がする。
姉さんが僕の肩を思いっきり抱く。志穂も僕の腕をぎゅっと抱きしめる。
「それが聞いてよ海斗!志穂ってば、この前大きな商談を見事成功させたのよ♪」
「お姉ちゃんもすごいんだよ!顔がトカゲみたいな人との貿易路を作り出したりしてるし!!」
それと同時に始まったマシンガントーク!鼓膜がぁ!?
そ、そういえば二人とも、商人ギルドの実力者だったっけ。
二人とも……いや、みんな僕の知らないところでいろいろとすごいことをやっているんだな。
たまに、『もしかして自分だけ苦労してるんじゃないのかな』って思うときがあるけど、僕なんてまだまだだったんだね。
これは僕も弱音を吐くわけにはいかないね!
……それにしても――――
「物怖じしないで交渉を進めていく志穂、かっこよかったわよ~♪」
「お姉ちゃんもね、トカゲの人と笑顔で握手したりして、とっても仲良しになっててね、すごかったんだよ!」
ものすごく盛り上がってきてる……
きっとこれが『嫌な予感』の結果なんだろうな。
……今日、部屋で寝れるかな?
前々から考えてたネタがうまい具合に繋がりました。ここからいい感じに派生していけたらなと思っています!
感想・評価、東方の神子さんを壁紙にしつつ待ってます♪
※……またです。また投稿を止めなくてはなりません。
テストが終わってから早一週間が経過しましたが、もうすでにテスト期間へと移行してしまい、現在勉強の嵐に呑まれてしまっています。
せっかくみなさんが読んでくださっているのに……本当に申し訳ありません。感想をもらえたり、ブックマークしてもらえて、本当に嬉しいです!いつもありがとうございます!
次回の投稿日は2015年11月14日になります。
必ず戻ってくるので、どうかよろしくお願いします!!




