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27、帰りたくなくなりました

「……本当にすみませんでした…あんなに取り乱してしまって…お恥ずかしいかぎりです…」


「いやいいですって。別に謝るようなことではありませんから」


胸のあたりから聞こえてくるとても弱々しく、どこか可愛げのある女性の声。


声の持ち主であるソラリスは、しばらくしてようやく落ち着きを取り戻してくれた。


叫び疲れて体に力が入らないらしく、ソラリスは遠慮しつつも僕の体に体重を掛けたままの体勢である。


いろいろと柔らかいものが当たって、正直つらいけど、事情が事情なだけに仕方ない。


「それにしても、ソラリスさんってあんなに強かったんですね。驚きましたよ」


ソラリスの話を聞く前に、先ほどからずっと気になっていることを聞いてみることにした。


ソラリスのことだから、躊躇してしまって自分から何かを話すことはしてくれないだろうからね。


するとソラリスは僕の胸に埋めていた顔を上げ、僕の目をじっと見つめてきた。


頬は夕日のせいか、若干赤く見える。目には何かを懐かしむような、やさしい何かが宿っている感じがした。


「この力は…わたしの父に教わったものなんです」


「お父さんに?」


目を細めたソラリスは、小さな声で……しかしよく通る澄んだ声でソラリスは語り始めた。


「まだわたしやフィーが幼かった頃、武術の達人だった父がたまに稽古をつけてくれたんです。剣術や槍術などの武器を扱ったものから、素手でも闘える格闘術……いろんなことを父から教わりました。まさか、こんなことで使うことになってしまうだなんて……」


なるほど、だからソラリスは素手でギルドのみんなを吹っ飛ばしていたのか。


フィーが強いのにも納得がいく。


「……カイト様、改めて…本当に、申し訳ありませんでした!」


体を起こしたかと思った途端、ソラリスが急に深々と頭を下げてきた。


ベッドの上とはいえ、女の子に土下座される男って……絵的にかなりまずいのでは!?


「な…何に対して謝っているのかは大体検討はつきますけど…とりあえず頭を上げてください!いやほんとに!!」


なんとか顔を上げてもらえるように、説得を試みることにした。


これで少しでも改善してくれれば…


「いいえダメです!わたしはそれだけの過ちを犯したんです!むしろ謝罪だけでは足りないくらいで……そ、そうだ!お詫びといっては粗末ですが、わたしの体を好きにしてください!!」


あ…悪化した…だと…?


また錯乱し始めたソラリスは、何を考えたのかスルスルと自分の服を起用に脱ぎ始めた。


まずい!非常にまずいよこれは!?


「落ち着いてください!とりあえず服を脱がないでください!!」


女の子の裸をこんな形で見るなんて、僕はしたくない!


それに、ソラリスには、ちゃんと好きな男とこういうことをしてほしいし。


「そ…そうですよね…こんな下品な体では、カイト様は満足致しませんよね…すみません…本当にすみません…」


もう嫌だ…なんでこのこんなにネガティブ思考になってるのさ…


さっきまで普通だったのに、どうしたらここまで悪化してしまうんだろうか…


「カイト様の気に障るようなわたしなんて…死んだほうがいいですよね?」


そう言って今度は自分の首に手を掛け――――


って待て待て待て!!


「ホントに落ち着いてください!僕は別にソラリスさんのことが嫌いなわけじゃありません!むしろ、その…魅力的というか…」


僕はいったい何を言っているんだ!こんな状況で、何アホな考えを曝け出しているんだ!!


「え…?」


ほら、ソラリスが困惑しちゃってるじゃないか!


……僕のほうが一回死んだほうがいいんじゃないのだろうか?


「と、とにかく!今回の件に関してはもうおしまいです!もうこの話はしてはいけません!!いいですか!?」


「は…はい!」


僕の勢いに流されて、ソラリスも同意の声を上げた。


よし、計画通り!


「……本当にカイト様は…どこまでもお優しい方です…」


ボソボソと何かを言うソラリスは、両頬に手をあてて恍惚とした面持ちでいる。


……生憎、僕はどこぞのラノベに出てくるような主人公じゃないから、全部聞こえちゃってるんだよね…


僕はそんな優しい人間なんかじゃないんだけどなぁ。


というかなんで僕には『難聴』のスキルが常時発動してないんだ!勇者の特権じゃないのか!!


…はぁ…言ってても仕方ないか。


「あ、そうだ。エレメントはしっかりと討伐してきたから、もう危険はないはずだよ」


話を切り替えたかった僕は、なんとか話題を見つけ出してソラリスの思考をエレメントに移し変えた。


「まぁ、本当に倒されてしまったのですか?やはりカイト様はお強いのですね…」


正確に言うと無力化しただけだから、討伐ではないけど。


ま、そのあたりは別に話さなくてもいいかな?


それにしても、やっぱりソラリスはまだ今日のことを引きずってるみたいだ。


さっきのだって、どこか無理している感じがそこはかとなくしたし。


う~ん、何かいい案はないかな?


……そうだ、これならいいかも。


「ねぇソラリスさん。実は、僕から二つお願いがあるんです」


「え?お願い……ですか?」


きょとんとしているソラリスを見て、僕は首を縦に振る。


「はい。ひとつは僕のお屋敷にたまに遊びに来てくれることです。実はちょっと事情ができちゃいまして」


事情というのは、もちろん子供たちのことだ。今日は姉さんたちが非番だったからよかったけど、普段はみんな仕事があるから、たまに全員が屋敷を空けてしまう事がある。


しかし子供たちがいる以上、それではいささか不安がある。


そこで閃いたのが、ソラリスに手伝ってもらうこと。


全員が出て行ってしまうことは非常に稀なので、そのときだけ屋敷に赴いて子供たちの世話をしてくれたら、と思ったからだ。


「そしてもう一つは…僕のパーティーに入ってもらうことです」


「……はい?」


ソラリスは意味がわからないというような表情を浮かべているけれど、実はこっちが本題。


僕はまっすぐソラリスの目を見て、真剣に言葉を紡いでいく。


「ソラリスさんには僕のパーティーに加入して、ギルドの仕事をいくつか一緒にこなしてほしいんです。もちろん、中には危険が伴う仕事(、、、、、、、)もあるのですけど…」


「あ……」


一つ目の内容は、そのうち相談しようと思っていたものだけど、こっちはついさっき考えたものだ。


ソラリスが気にしているのは、僕を|危険なことに巻き込んだ《、、、、、、、、、、、》という罪悪感。


ならば、僕からも同じことをしてやれば、それは罪の意識とともに打ち消されてしまう。


これが僕の狙いだ!


…ドヤ顔で言うようなことでもないや。


まぁ本当に危険な目にあわせるわけじゃないけれど、建前上はこう言っておかないと、ソラリスの罪の意識は消せないだろうし。


まったく、我ながらなんて不細工な解決方法なんだろうか。


もっとこう…呼吸をするようにキザなセリフを言いながら、穏やかに収めることができればなぁ…


「ギルドの受付の仕事もあって、大変なのは百も承知なのですが…どうでしょうか?」


「もちろんっ!こちらこそ、よろしくお願いします!!」


「あ…!よかった…」


一瞬、『ギルドの受付の仕事が…』と言われて断られてしまうのでは?と思ったけど、返事は僕の望んだものだった。


どうやら、作戦はうまくいったみたいだ。


ソラリスは、さっきまでの疲労は何処へやら、ベッドの上で嬉しそうに飛び跳ねている。


「やった!」だの「もう最高です!」と、とても嬉しそうに言うソラリスを見ていると、これでよかったんだな、と自分の不恰好な作戦を褒めてやることができた。


………あれ?


ふと、部屋が暗くなっていることに気がついた。


おそるおそる窓のほうへ視線を送る。


そこからは、なんとも美しい月明かりが部屋を少しだけ白けさせていた。


……どうしよう…夕方さんがとっくの昔に山の向こうへ帰っていただなんて…


ぴょんぴょんと嬉しそうに部屋を飛び回るソラリスとは対照的に、僕の心と目の前は真っ暗になっていた。









◆◆◆◆◆◆








「それじゃあまた来ますので!僕達はこれでっ!」


「また来るでのぅ~♪」


『おう!また来いよ二人とも!』


『今度はカイト君のお友達全員で来てね~』


「カイト様、またお会いしましょう~!!」


背中から聞こえてくる見送りの声を聞きながら、僕とムラマサはギルドを飛び出した。


あたりはもうすでに真っ暗である。頭上には青白い月が浮かび上がり、あたりを薄暗く照らしている。


「はぁ…はぁ…ムラマサ、やっぱりこの状況って、かなりまずいよね?」


「ふぅ…ふぅ…うむ、たぶん主の想像しているとおりか、あるいは、それ以上のことに……」


走りながらムラマサに確認を取り、結局後悔した。


僕達が急いでいる理由、それはもちろん子供たちが心配というのもあるんだけど……今僕達が危惧しているのは、優奈たち5人のほうだ。


優奈たちにはある特徴があって、夕方を過ぎても僕が帰ってこないと、なんというか……暴走する。


あるときは泣き叫び、あるときは自室に僕を拉致し、あるときは……これ以上は考えたくないや…


まだギルドで仕事をし始めたばかりの頃、何度か遅くなってしまったときがあった、で、そんな日は必ず、みんな暴走状態になっている。


なのでそれ以来、僕は必ず陽が沈む前に帰宅するようにしていたのだ。


なのに、このザマである。笑い話にもなりゃしないよ。


「確かに彼奴きゃつらの気持ちもわかるのじゃが……そのとばっちりがわしにまでくるのはさすがに困るのじゃ…」


そう、姉さんたちの暴走の被害はムラマサにまで及ぶ。


なんでもムラマサの場合は、朝まで尋問され続けた挙句、しばらく僕と会話することを禁じられそうになるんだとか。


禁止を強要されるたび、必死に抵抗しているらしいのだけど、そろそろ耐え切れなくなってきているらしいんだ。


……ご愁傷様である。


「はぁ…はぁ…あぁどうしよう…はぁ…お屋敷が…ひぃ…見えてきちゃったよ」


「ふぅ…ふぅ…い、嫌なのじゃ…はひぃ…早く帰りたいのに…けほっ…帰りたくないのじゃ…」


疲労のせいか、はたまた恐怖のせいか、僕らの呼吸はだいぶ乱れている。いつもならこれくらいの距離、まったく呼吸を乱さないで走れるはずなのに…


ちなみに、ムラマサの意見にはまったくの同意である。


帰りたいのにカエリタクナイ。矛盾しているようでしていない、この複雑な気持ち。


だんだんと門が見えてきた。人影は…ない!


「よし、このまま中に突入するよ!」


「了解なのじゃ!」


足に力を入れて、速度を増していく。


そして門の5mほど手前で地面を思いっきり蹴り、門に向かって跳躍した。


僕の家自慢の背の高い門を、掠るギリギリのところで飛び越え、なんとか地面に着地した。


隣に視線を送ると、ムラマサも同じように地面に着地するところだった。


「あぶっ!?」


ムラマサ、着地失敗。


盛大にこけ、顔から地面にダイブしてしまっていた。幸い、着地したのは芝の上だったからよかったけど、レンガや土の上だったら洒落になってなかっただろう。


……想像したらなんか冷や汗出てきちゃった。


「うぅ~いだいのじゃ~あるじ~」


「はいはいよしよし」


鼻のあたりに擦り傷を作ったムラマサは、まるで子供のように泣きながら僕の胸に飛び込んできた。


まぁ見た目は完全に幼女だから、これが普通なのかな。いつも爺言葉だから、年齢とかがよくわかんなくなってくるや。


…さて、どうしたものかな。


痛みに泣き叫ぶムラマサをあやしながら、屋敷のほうへと目をやる。


別棟からも明かりが漏れていることから、どうやら子供たちの部屋割りはちゃんと済んだみたいだった。


そして本館のほうはというと……


「うわぁ…見たくないものが見えるよ……」


見た目は普通。しかし、そこかしこから禍々しい気配を感じる。


ソラリスが暴走していたギルド、あるいはそれ以上の殺気が満ちているような、そんな雰囲気を醸し出していた。


正直言うと、これ以上は近づきたくない。本能的な危機感を感じるんだ。


絶望のあまり、肩を震わせてムラマサと抱き合う。ムラマサはもはや虚空を眺めて、来世へと思いを馳せてしまっている。


「はぁ…ふぅ…たくっ、一体全体どうしたってんだよ…わけわかんねぇよ…」


そんな僕らの前方、おぞましい気配を漂わせる屋敷から誰かが歩いてきた。


(誰だろう…暗くてよくわからないや)


声からして暴走した姉さんたちではなさそうだし…


そうこうする内に人影は、だんだんと輪郭をはっきりとさせていく。短めの髪、小さめの身長、細い手足…


やがて僕は、その人影がロロのものだと認識することができた。


「ロロ、こんなところで何してるの?」


「あ?この声…まさかカイトか!?」


暴走少女たちじゃないとわかり、安堵した僕はロロに軽い気持ちで声を掛けた。


まさかこれが命取りだとも知らずに…


ロロは僕に駆け寄り、腕を強く握り締め、そして無理矢理に僕を引きずり始めた。


「え、ちょ、ロロ!?」


「話はあとだ!なんか知らねぇけど、カホやフィーとかが急にわけわかんねぇ状態になっちまったんだよ。原因はわからねぇけど、うわ言みてぇに『カイト…カイト…』って言ってたから、たぶんお前が行けばなんとかなるはずだ!」


そう言いながら、ロロは屋敷の入り口へと足を進める。僕の腕をがっちりと掴みながら。


「…わしは生まれ変わったら…人間になりたぃのう…」


ついでに、生まれ変わった姿を想像するムラマサも、僕に抱きしめられているので強制的に巻き添えを食らった。


……あぁ、僕も来世のこと、ちゃんと考えといたほうがいいかな?


ようやくギルド編が終わりました。長引いてしまい、すみませんでした。


感想・評価、理科に四苦八苦しつつ待ってます♪

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