7、夕飯を作りました
城に到着した僕は、フィーと一緒に他の人に気づかれないようにしながら自室へと向かった。他の人に気づかれると、深々と頭を下げられたり、妙に気を遣われたりして面倒だからだ。
それに他の人と目をあわせたり会話したりしたら、また『愛され体質』が発動しかねないからね。
…もうやだこの体質。
閑話休題
部屋に着いた僕は、用意されていたキングサイズのベッドに寝転がった。なんだかんだで疲れていたみたいで、体のあちこちがだるい。
「カイト様、もう寝てしまわれるのですか?お食事がまだですが。」
どうやらフィーは、僕がこのまま寝てしまうと思ったらしい。
肝心の僕は、空腹がピークなので寝れる気なんて全くないけど。
「いや、まだ寝ないよ。とりあえず、ご飯を食べようかと思っていたところだよ。」
「でしたらキッチンにいる者に作らせましょうか?」
う~ん、こっちの料理も満喫したいけど時間的に迷惑だしな。
よし!
「いまから頼むのもあれだし、自分で作るよ。」
「へ?」
あれ、なんだろうこの反応。
「カ、カイト様はお料理ができるのですか?」
「え?まぁ毎日作っていたわけだから、それなりにはね。」
「毎日!?」
僕の家庭はとある事情で父と母がいないのだ。お姉ちゃんも妹も家事ができないから家事についてはすべて僕が受け持っていたのだ。
「というわけで、厨房を借りれないかな?」
「…毎日カイト様の手料理…毎日カイト様の手料理…毎日―――」
フィーがトリップしながらぶつぶつなんか言ってる。
「おーい、大丈夫?」
「ふぇ?あ、えっと。って、ダメですよそんなこと!」
「え、どうして!?」
急に大声で言われたので驚いてしまった。
「カイト様は勇者様なんですよ。そのカイト様を厨房に立たせるなんて許されることではありません!」
「誰に許されないの?」
「それはもちろん、王様ですよ。」
ふぅ~ん、王様ね~。
「よし。ちょっと王様説得してくる。」
そう言いながら僕は王様の部屋へと向かった。
「え、ちょ、カイト様ー!?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「まったくカイト様ったら。わたしはしばらく生きた心地がしませんでしたよ。」
「あはは、ごめんよ。」
王様への説得に成功した僕とフィーは今、城の厨房にいる。
厨房全体が石壁で覆われるような造りをしている。広さは家庭科室くらいかな?
ちなみに王様は、僕が厨房を使いたいという事を伝えると、『いくらでも使っていいぞ』と速攻で返してきた。
閑話休題
「それじゃあさっそく作っていきますか。」
僕はインデックスから食材―――ここへ来る途中に食料庫から拝借して来た。―――を取り出すと、早速調理を始めた。
ちなみにこの世界でも、食材は元の世界と一緒だったので困らずに済んだ。
まず、人参と玉ねぎをみじん切りにして、鶏肉を一口大に切る。それらをフライパンで炒めていく。
「カイト様、一体何を作る気なのですか?」
フィーが僕の後ろでそんなことを聞いてきた。
「僕の家の定番料理さ。」
僕はあえて答えを濁した。作ってから言ったほうがおもしろそうだからね。
炒めた食材に炊きたてのご飯を入れて混ぜ合わせていく。
「このとき、切るように混ぜるとご飯がパラパラになりやすいんだ。」
「誰に言っているのですかカイト様?」
しまった、つい料理番組っぽくやっちゃってた。
き、気を取りなおして。
混ぜ合わせたご飯にケチャップ(自家製)を入れてさらに混ぜていく。
え、なんでケチャップなんて持ってるのかって?いいじゃないか、好きなんだから!
軽く炒めたら、チキンライスの出来上がり。
こっからは仕上げ。
フライパンにとき卵を入れ、まんべんなく広げる。半熟の状態で取り出し、先ほどのチキンライスに乗せる。
最後に卵の上にケチャップをかけて、
「新井家特製オムライスの完成!」
もちろん二人前。
「カイト様、これは一体?」
「オムライスっていう料理だよ。多分おいしいから食べてみて。」
「おむらいす?わ、わたしなどがカイト様の手料理を食べてよろしいのですか!?」
なにをそんなに驚いているのだろう?
「もちろん。フィーの分もちゃんと作ってあるから。」
そういいながら僕は、厨房にあるテーブルにオムライスを置いてフィーを椅子に座らせる。
僕もフィーの対面に座って手を合わせる。
フィーはしばらくの間躊躇していたが、やがて覚悟を決めたような顔をしてオムライスを口に含んだ。
瞬間、フィーが最高に幸せそうな顔をして気絶した。
「フ、フィー!?大丈夫かな、そんなにまずかったかな。」
僕もオムライスを頬張る。
「ふむ、63点くらいかな。もっとご飯をパラパラにしないと。」
僕もまだまだだな…
ちなみにフィーはこのあと30分くらい「おいしすぎます~」といいながら気絶していた。




