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18、問い詰めました

「ふぅ、いい湯だった~♪」


ロロへのお風呂レクチャーを済ませた僕は、一足先に上がらせてもらった。そろそろ『お母さんモード』が切れそうだったからである。


いや、あの場合は『お兄ちゃんモード』でもいいのかな?


浴場を出て、服を着て、廊下に出たあたりで、お風呂場からドッタンバッタンと騒がしい音が聞こえてきたんだっけ。たぶんロロの思考がリセットされて、羞恥心に悶え始めたんだと思う。


僕もいまさらながらに恥ずかしくなってきた…


で、ちょっと休憩するために今はリビングのソファでゆったりとしているだ。テーブルには麦茶、壁際にあるショーケースの上のエアコン…じゃなくて『空気調節結晶』で冷房完備という、この暑い夏には最適の状態だ。日本でいったらそろそろ8月の終わりごろだろうけど、モスカルの夏はまだまだ続きそうだ…


「ふわぁ~…このまま寝ちゃいたいな…」


でもこのまま寝たらたぶん風邪引くだろうし、身体も痛くなるから明日の仕事に支障が出そうだ。


って、Zランクだからギルドの仕事は強制じゃないんだっけ。あ~でもやっぱり困ってる人がいるんなら助けてあげたいし…


ふぅ、とりあえず今は考えなくてもいっか。明日起きてから考えよう。


「それにしても、やけに静かだな…」


そう、妙に部屋が…否、屋敷の一階部分が静かなのだ。おそらくこのフロアにいるのは僕と、まだお風呂場で悶絶しているであろうロロだけだ。


みんなそれぞれの部屋に行ったのかなと思ったけど、すぐにその考えは消え去った。優奈や美琴といった前からここに住んでる人たちはまだいい。


問題は子供たちのほうだ。一応部屋は別棟の…あのレンガ造りの建物のほうに用意してあるけど、その割り当てなどはまだしていない。今日はリビングにある『子供部屋』のほうで寝てもらって、部屋割りは明日決めようと思っていたからだ。


でもそれじゃあいったいどこに…


「…海斗、どうしたの?」


「あれ、美琴?」


ソファで寝転がった体勢から見える、玄関とリビングを繋ぐ扉から美琴が入ってきた。手には牛乳だと思われるものが入ったコップを持っている。


「こっちの世界に来てからも、寝る前に牛乳を飲むのは続けてるんだ」


「…うん…私、胸小さいから…んぐんぐ…ぷはっ…これで大きくする」


「そう…なんだ…」


美琴は自分の胸を小さいと評価しているが、実際はそれなりにあるほうだと思う。


もし美琴の今の発言を優奈の前で言えば、優奈が泣き叫ぶか発狂するだろう。優奈は胸の小ささがコンプレックスらしいし。


「…ちなみに去年はBだった…今年はC…来年はDになる予定…」


「言わなくていいからそういうことは!!」


胸を強調するように腕組みをする美琴を一喝。まったく、美琴に羞恥心というものはないのだろうか…


「…海斗はエッチなことに耐性がないから、反応が可愛い……」


「耐性がなくて悪かったね。あと可愛い言うな!!」


こういうことをサラッと言うんだよね、美琴って。他の人たちも似たような感じだけど…


というか考えてみたら一年間でバストが一回り大きくなるのって、けっこうすごいことなんじゃないんだろうか…これも一概に牛乳パワーの賜物なんだろうか…


あぁ…僕はなんでこんなことをまじめに考察しているんだ…


「あ、そうだ。美琴に聞きたいことがあるんだけど」


「…んく…んく…ふぅ…聞きたいこと?」


自前のインデックスから牛乳の入った大きな缶を取り出し、ふたたびコップに注いで飲み始める美琴。あの缶って確か30リットルくらい入る輸送用の缶だったような…


まさかあの量をこの短時間で…?バカなっ!?


僕は今僕の目の前にある牛乳缶から目を逸らし、美琴に視線を戻した。


なんでこんなに静かなのか、子供たちがどこにいるのか、美琴なら何か知ってるかも。


そう思った僕は美琴に質問の内容をかいつまんで伝えた。


「……こ、子供の行方…?」


「何か知ってるの?」


子供のことについて伝えた途端、美琴が動揺し始めた。振動のせいで、手に持っているコップから牛乳がポタポタと床に落ちる。


あの冷静沈着な美琴が動揺するなんて、よっぽどのことだ。やっぱりなにかあったのだろうか…


はっ、まさか何か事件に巻き込まれたとか!?


「お願い美琴!知ってることがあるなら教えて!」


僕は無我夢中になって美琴の肩を掴んだ。


美琴は目を見開いてアワアワして、もとのクールさはもはや皆無だ。


「…か、海斗…わ、私は何も…何も知らない!」


しかし、最後の気力を振り絞って耐え切ってきた。でも、そこまでして否定しているあたり、逆に何か隠しているって言っているようなだけの気もする…


やはり美琴はどこか抜けているみたいだ。


「本当に何も知らないの?」


「…私は嘘をつかない」


「本当に?」


「…何度でも言う…私は嘘をつかな――――」









『あー!ママ、こんなところにいたー!!』


『おいてっちゃうなんてひどいですよー!』


『ふぇぇぇんまま~!ごわがっだよ~!!』


『いいなぁお母さん…お父さんに抱っこされて…』


『パパーわたちもだっこー』









「嘘は…なんだって?」


「…ワタシハウソナンテツカナイ」


「片言になってる時点でアウトだよ!!」







◆◆◆◆◆◆







「で、どういうことなのこれは?」


僕はとりあえず、美琴ときっちり話をすることにし、ソファーに隣り合うようにして座らせた。


最初はテーブルを挟んだ向かい同士でいいと思ったんだけど、とある事情でこういう形になった。


…頭が重い。


隣に座る美琴は、まるでイタズラの見つかった子供のような、軽い絶望の底にいるような顔をしていた。


そこまで深刻になるようなことをしていたのだろうか。


『ねぇぱーぱーあそんでよー』


『あそんであそんでー』


「うわわ、待って、首はまずい…!」


急激な重みが掛かって、僕の首が悲鳴を上げた。犯人は4歳の男の子と3歳の女の子。


さすがに首がもげるかと思った。


「…お願い美琴…早く説明してくれないと…僕の体がもたない…」


「……自分を人質にして脅すなんて…斬新…!」


「そんなのんきなこと言ってる場合じゃないから!!」


完全に冷静さを取り戻した美琴は、うれしそうに僕の顔を見てそう言ってきた。その冷静さで、僕の首が後ろに90度以上沿っている危機を感じ取ってほしいよ…

 

とりあえずロリとショタを膝にのせて、あやす。すると、途端に糸が切れたように眠ってしまった。時刻は夜の9時をとうに過ぎていた。こうなってしまうのも致し方ない。


『父様、母様…僕はそろそろ眠いです…』


『情けないわね!あたしはまだふわぁ~…ねむく…なんて…むにゃ…』


『あ、あ、二人ともしっかりっ!』


「…子供たちももう寝る時間だしさ、手短に説明してくれない?」


「…わかった」


ようやく観念したのか、美琴がようやく事の真相を話す気になってくれた。


いったいどんなアホな真相が隠れているんだろうか…聞かないとわからないんけど…あんまり聞きたくない自分がいるから不思議…


「話す前に、子供たちを寝かせよう」と美琴に言い、眠そうにしていた残りの子をとなりのソファーに寝かせた。


まだ意識がはっきりとしている10歳くらいの女の子は『わたしが面倒を見ますね♪』と言って、僕の膝の上で眠る2人をもう一個のソファーに連れていってくれた。


「さて、どういうことか、聞かせてもらおうかな?」


「……わかった。でもその前に―――」


ぽふんっ、と音を立てて美琴が僕の胸に寄りかかってきた。って、ええ!?


「あの…美琴さん?」


「……せっかくみんなが隣同士にしてくれたから…だめ?」


「いや…だめじゃないけどさ…」


さすがに恥ずかしいです、はい。あと上目遣いはやっぱり反則だと思うんだよね僕…


ちなみに美琴に言ったとおり、向かい同士に座らなかったのは、今ソファーで眠っている子供たちの要望だったからだ。


どうしてこうしたかったのかも、これから美琴の言う言葉からわかるだろう。


僕の胸に顔をうずめ、ちょっと鼻から出血しながら、美琴は事の始まりを語りだした。







◆◆◆◆◆◆






~午後8時頃~



「よし、片付けは終わったわね!」


「……ええ、灰も土に埋めてきた」


眠ってしまった海斗のかわりに、美琴わたしたちはバーベキューの片付けを済ませた。


灰を捨てに行くときにちらっと海斗の寝顔を見たが、可愛すぎて死にそうだったので、すぐに目を逸らしてしまった。


…この前魔法ギルドで作ったカメラで写真に収めたので、問題はない。あとでじっくりと使う(、、)ことにしようと思う。


「ねぇ美琴」


「…何?」


海斗の写真コレクションに思いをはせていると、首にタオルをかけて、いかにも活発なイメージのある優奈から話しかけられた。


いったいなんだろうか。


「さっき果穂さんにも相談したんだけどさ…この子たちの寝る場所、どうしよっか?」


「…うん、そういえば」


優奈の視線の先には、庭ではしゃぎまわる大勢の子供たち。海斗の『作戦』とやらで、今日からこの屋敷でいっしょに暮らすことになった子たちだ。


たしかに寝床を決めていなかった。海斗のことだから、そういうのは用意してあるだろうけど、今の海斗は決して浅くはない眠りについてる。ちょっと揺らすくらいじゃ起きないかもしれない。


かと言って起こすために、海斗と長時間接触すれば、今度は私たちの理性が持たない。そうしたら子供の前では見せられないような事態になっていまう。


どうしたらいいのだろうか。


「あ、ちょっとそこの二人~こっちに集まって~」


「あ、果穂さんが呼んでる!いこっ、美琴♪」


「…ん、わかった」


何事だろうか。そんなことを考えながら、私は優奈といっしょに、大げさに手を振る果穂のところへ向かった。


ちなみに私は年上である果穂も呼び捨てである。敬語というのは、どうも私には合わない。


果穂も「ため口でいいわよ♪」と前に言っていたので、大丈夫だ。


「果穂さ~ん、何かいい案が浮かんだんですか!」


「ええ♪それでみんなに伝えようと思って」


果穂のもとにたどり着くや否や、優奈が目を輝かせながら果穂に迫った。相変わらずこの二人は仲がいい。


ここに集まったのは、海斗を除いたいつものメンバー。果穂、志穂、優奈、孝、イリア、フィー、ムラマサ。そして私。孝とイリア、海斗を除いたメンバーは、海斗絡みの件でよく話し合うので仲がいい。無論、その中には私も含まれている。


幼いときと比べると、ずいぶんと友人が増えた。私はそのことを、改めてうれしく思った。


「で、その案というのはいったいどういうものなのじゃ?」


海斗の得物、ムラマサが作戦の概要について果穂に質問を浴びせた。この和服ロリが本当にあの刀だということを、私はいまだに信じられていない。


でも、もしそれが本当だとすれば、常に海斗の腰に密着できるということ…


……ウラヤマシイ…


「!?なんじゃ、今なにか悪寒が…」


なかなか鋭い。


質問をされた果穂は、待ってましたと言わんばかりに胸を張った。


その胸の一部をもらうことはできないだろうか…


「今回、私が提案する案。それは、『子供が出来ちゃったよ☆』作戦~!」


私と果穂を除いた全員が、そのネーミングセンスのなさにずっこけた。さすがの私も、その場で盛大に転倒しそうになり、なんとか耐えた。危ない危ない。


「な、名前はともかくとして…その内容はいったい?」


一番早く立ち直った孝が、その意味不明な作戦の内容についての説明を要求した。さすがにあれだけでは、内容がさっぱりわからない。


…まさか、寝ている海斗と桃色合体を…!?


……さすがに胸が熱くなってきた。


そんな私の妄想を尻目に、作戦の内容は至って単純なものだった。


「この『子供が出来ちゃったよ☆』作戦は、ここにいる子供たちを私たちが分担して面倒を見るというものよ!誰がどの子の面倒を見るかは、子供たちに決めてもらうことにしましょ♪」


なるほど、それなら小さな子の心配もないし、みんなで分担するから負担も少なくてすむ。


「ついでに…『自分と海斗は夫婦で、あなたは私たちの子供なのよ?』と洗脳………じゃなくて教えてあげることもできるわ。つまり、既成事実を作ることが可能なのよ!!」


「洗脳って今言わなかったか!?」


「何よ~孝君。君だってイリアちゃんと夫婦ごっこができるのよ。なんならそのまま本物にも、ね?」


「ね?じゃないですよ!!何言ってるんですか!!」


「わ、私がタカシ様とふ、夫婦…はぅ…」


「おいイリア!?しっかりしろ、間に受けるんじゃない!!」


顔を真っ赤にしたイリアは、そのまま地面に向けて倒れてしまった。地面に着地する前に、なんとか孝が抱きかかえ、必死に意識を取り戻そうとしている。


その様子をにやにやしながら見守る一同。なかなか悪趣味である。


まぁ、かくいう私も顔が少しニヤついてしまっているけど…


孝とイリアの夫婦漫才はいいとして…既成事実をでっち上げる…か…


「「「「「「悪くないわね!」」」」」」


どうやら私たちは心のどこかで通じ合っているようだ。


そうと決まればさっそく子供たちに選んでもらって、『教育』をするとしよう。




美琴編はもうちょっと続きます。書ききれず、申し訳ありませんです。


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