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17、レクチャーしました

「と、とりあえずそこに座って」


「あ、ああ…」


結局断ることのできなかった僕は、ロロの体を洗うことになってしまった。


はぁ、どうしてあそこでびしっと『無理です!』って言えなかったんだろう。姉さんたちが言ってきたときは即答できるのに。


別に嫌ってわけじゃないんだけど…ロロが女の子だってわかった途端、なんだか気まずくてしょうがない。


(…できるだけはやく終わらせてしまおう)


そう思った僕は、手に握っているタオルを石鹸で泡立てていく。わしゃわしゃと布が擦れる音がするだけで、あたりはものすごく静かだ。


何か…何か話題を……!


「そ、そういえば姉さんたちはどうしたのかな?ロロは何か知ってる?」


「はぇ!?」


「うわっ!」


びっくりした~!声掛けただけでこの反応…体に触れたりなんかしたら気絶してしまうんじゃないだろうか…


落ち着け、落ち着くんだ僕。洗うのはきっと背中だけだ。さっと洗えばあっという間だ。


姉さんたちの行方はあとで聞くことにしよう。


「…それじゃあ体洗うから…背中出して」


「あぅ…こ、これでいいか?」


ロロの体に巻かれていたタオルが剥がれ、その背中があらわになる。痣や傷はなく、スラリとした綺麗で小さな背中だ。


いい感じに泡立ったタオルを握り締め、意を決して腕を伸ばす。


ロロの体に触れるまで1秒とないのに、妙に長く感じる…


「ひゃん!?」


「わわっ、大丈夫!?」


ロロの背中に触れた途端、ロロが可愛らしい声を上げた。さっきまでの荒っぽい口調からは想像もできないほどの甘い声色だった。


声に驚いて僕は咄嗟に手を離した。タオルが冷たかったんだろうか…


「うぅ…だ、大丈夫だから…つ、続けてくれ…」


「わ、わかった…」


ロロのゴーサインを確認し、今度は手のひらだけでなく指も肌に触れないように、慎重に体に触れた。タオル越しにロロの体温を感じる。ちょっと熱い…


体温だけでなく、柔らかい感触まで感じる。って、いかんいかん!落ち着くんだ僕。こういうときこそ冷静に…無になるんだ!


無心になって手を動かしていく。ロロが小さいおかげか、あっという間に背中を洗い終えることができた。


よし、これでミッションクリアだ!


ふぅ、これでやっと開放される。


「はい、洗い終わったよ。さて、それじゃあ僕はそろそろ上がっ―――」


「ま、まだ洗い終わってないだろ!ま、前もたの…む…」


「…さすがにそれは自分でできるのでは?」


というか、前はまずい!男同士でも前はさすがに躊躇するし、ましてやロロは女の子!そんなことをすれば、いろいろと問題が…


「ま、前だって洗い方がわかんねぇんだよ!ほら、さっさと洗ってくれよ!ボ、ボクだって恥ずかしいんだからな!!」


「だったら自分で洗えばいいでしょう!あ、ちょ、手を勝手に――――」


ロロが強引に僕の手を握り、自分のお腹に押し付けられた。背中以上に柔らかい感触が…しかも腕を握られた拍子に、手にしていたタオルを落としちゃったから、お腹の感触が直に伝わってきて…


(ま、まずい…状況に流されてる…このままじゃ…)


「くぅ、なんだよ…これ。は、恥ずかしいじゃねえか…」


そりゃそうでしょうね!僕だってかなり恥ずかしいよ!


というか恥ずかしいならやらなきゃいいのに。


「ねぇ、恥ずかしいなら自分で洗えばいいんじゃ?」


「だ、だから!ボクは体の洗い方なんてちっとも知らねぇんだよ!だからあんたがやってくれるのを覚えようしてるんじゃないか!」


うっ、本当に体の洗い方がわからないみたいだ…顔真っ赤だし涙目だし…


姉さんたちの悪ふざけとかと違って、本気で言ってるんだ。


…だったら、僕もふざけてる場合じゃないや。


「ロロ、体の洗い方を教えるだけなら、別の方法もあるよ」


「ふぐぅ…え?別の方法?」


僕の左手を握る手が緩んだ隙に、すぐさま腕を引き抜き、ロロから離れる。離れた途端『あ…』とロロが悲しそうな声を出したのが、ちょっと心苦しい…


そしてロロのすぐ隣にあるシャワー前の椅子に腰掛け、ロロに顔だけを向ける。


「僕も一緒に洗うから、ロロはそれを見て自分でやってみて♪」


手に握り締めたタオルを顔の位置まで挙げてニッと笑ってみせた。


するとスマイル効果のおかげか、涙目だったロロも顔をこちらに向けてニッと笑って見せてくれた。


さぁ、クリーニングタイムだ!







◆◆◆◆◆◆







「体を簡単に濡らしたら、まずは腕を擦る。このとき、自分が気持ちいいなって感じるくらいの強さでやるようにね」


「ふんふん」


レッスンを開始した僕は、ひとまずいつもどおりに体を洗い始めた。一応解説もつけてみたけど、正直言って役に立つかはさっぱりだ。


隣に座るロロは僕の様子をしばらく観察して、同じように自分の体を洗って、また僕を見て…の繰り返しをしている。泡立ったタオルで擦るたび、体の汚れが見る見る落ちていく様子を『おおっ♪』とか『すげぇ!』と楽しそうな声を上げている。


ちなみに今ロロが使っているタオルは、ロロが体に巻いていたものなので、現在のロロは全裸である。


だがしかし、お母さんモードに入った今の僕にはなんてことはない障壁だ!湯気もあるから完全に見えるわけでもないし、これならまったく問題ない。


僕はそのまま右腕、首元、胸からお腹、太もも…と順に洗ってゆく。ちゃんとロロが洗えているかを細かく確認し、うまく洗えていないところをちょくちょく指摘していった。


指摘するたび、嫌な顔ひとつせずに指示に従うロロが、なんだか微笑ましく思えた。


「最後に背中を洗うよ。背中はタオルを伸ばして背中に掛けて、両腕でこう順番に引いて―――ってどしたの?」


つんつんと僕の脇をつつかれているのに気づき、右下に首を傾げる。すると、しゃがみこんで夢中になって僕のわき腹をつつくロロが視界に入ってきた。


ロロはもう裸でいることに羞恥心を感じなくなっているらしく、隠す気がまったく感じられない…不自然な湯気がロロの体を覆っているので問題はないけどね。


慣れって恐ろしいね…


「うぇ!?あ、いや、綺麗な体だなって思ってさ」


「そうかな?」


僕の視線に気づいたのか、ロロは慌てて元の位置に戻っていった。


う~ん、僕の体ってそこまで綺麗かな?別に平均の男性と同じだと思うんだけどな…


「そういうロロも、ものすごく綺麗な白肌じゃないか」


「な!?」


スラムで生活していたから、てっきり肌はかなり焼けているもんだと思っていたけど、以外にも肌は真珠のように綺麗な白色をしていた。どうやら体中を泥や汚れで覆っていたせいで、肌はあまり直射日光に晒されなかったようだ。


「お、お世辞なんてよせよ!」


そういいつつニヤけちゃってるロロが、素直に可愛かった。


「なっ、なにニヤニヤしてんだよカイト!」


「さて、体は洗い終わったことだし、次は髪を洗うとしますか」


「無視すんじゃねぇー!!」


叫ぶロロを軽く無視しつつ、お風呂場に置いてあるシャンプーボトルから適量の液体を手のひら出す。


僕が完全に反応しないとわかったロロも、僕と同じように手のひらに液体を垂らした。


「うわっなんだこれ!なんかヌルヌルするぞ!?」


「それがシャンプー。髪を洗うときに使うものだよ」


ヌルヌルするシャンプー液に若干興奮気味なロロ。ああ、口にしたりしないか、お母さん(仮)心配です。


っと、レクチャーレクチャー。


「この液体を手のひら全体にならしたら、お湯で濡らした髪につける」


「こ、こうか?」


「うん。そしたら髪全体にシャンプーを馴染ませるように優しく揉んでいく」


「うんうん…ってうおっ!?なんか泡が…泡がっ!!」


「で、髪全体に馴染んだら頭皮を揉み洗いして、あとは洗い流す」


「うわぁー!目が!目があぁぁぁ!!」


「…………」


なんか、ものすごくベタな状況になっているんだけど…


なんとな~く予想はしていたけど、やっぱりなっちゃったか…


「カイト~!目が…目が痛ぇよ~!」


「あぁあぁ…ちょっと落ち着いて。ほら、洗い流すからじっとして!」


パニック状態のロロをなんとか確保し、泡を洗い流していく。あまり洗えていなかったようで、髪はまだ泥か何かで汚れたままだ。


全部洗い流した僕は、半ベソ状態のロロを椅子に座らせた。


「うぅ~泡怖ぇよ…」


ロロさん、すっかりシャンプーの泡にビビっちゃてます。


でも髪はまだ汚れたままだから、このまま放っておくわけにもいかないし。


「しょうがない。今日は僕がロロの髪を洗うよ」


「ぐすっ…ホントか?」


「別に嘘なんてつかないよ。ほら、ちゃんと前向いて」


「あ、あぁ」


ロロはクルッと前に向き直り、ふたたび僕に背中を向けてきた。


ロロは女の子だけど、髪はせいぜい肩くらいなので、洗うのは簡単だったりする。僕の髪は伸ばすとお尻くらいまであるので、これくらいなら楽勝なのである。


「ちゃんと目つぶってるんだよ?」


「わ、わかった…」


ぎゅっと目をつぶるロロが鏡越しに見える。そこまで必死にやらなくても大丈夫なんだけど、微笑ましいからいいかな。


僕は先ほどと同じボトルから液体を手のひらに出し、両手のひらに馴染ませてく。実は髪にシャンプーをつける前に軽く手の中で泡立てておくと、頭皮に優しいんだとか。


よし、準備は整った。


「それじゃあ洗い始めるよ~」


「う、うぅ…」


泡だらけになった両の手をロロの頭に乗せ、ゆっくりと髪の毛に泡を絡ませていく。あまり激しくしすぎると、絡まった髪の毛に指が引っ掛かってしまうので、ゆっくりとほぐしてゆく。


だいぶ馴染んだら、今度は頭皮を揉むようにして洗ってゆく。本来は髪の汚れがひどいときは、この時点で一度洗い流してしまったほうがいいんだけど、アルティナ特製のやつだから一気に洗っちゃっても問題ないのだ。


「どう?気持ちいい?」


「…なんか、ホッとする…」


「ふふっ♪そっか」


こういうのって、結構悪くないかも。お母さん…は性別も歳もあれだから、お兄ちゃんみたいな気分かな?ロロと同い年の志穂がいるからなおさらそんな気分になる。


「よーし、洗い流すからしっかり目をつぶっててね?」


「も、もっと強くか?」


「あはは、ご自由に♪」


完全に泡ビビリになってしまったロロがおかしくって、つい笑ってしまった。


ロロが反論してきそうだったので、間髪いれずにシャワーを浴びせた。


泥やら汚れやらを吸収した泡が見る見る落ちてゆく。なんか、どれも真っ黒なんだけど…


そして泡の下からロロの本来の髪が出てきた。


「「…綺麗」」


ロロと声を合わせてそうつぶやいた。


ロロの髪は、少し灰色がかった水色で、正直かなり似合っていた。


こういう色って、現実でやると不自然になるものだって思っていたけど、驚くほどロロに似合っていた。


「ボクってこんな髪だったのか…」


鏡に映る自分の姿を見て、感嘆の声を上げるロロ。目を輝かせて、少し頬を赤らめている。


「いままで見たことなかったの?」


「まぁ…髪を洗う機会はなかったし、自分の顔もあまり見たことなかったし…」


照れくさそうに頬をかく姿は、やっぱり女の子なんだな、と今さらながらに思わされた。


「似合ってるよ、その髪」


「あ…えと…ありがとな…」


顔を真っ赤にして俯いてしまった。でも表情はなんだか嬉しそうに見えた。


いろいろとハプニングはあったけど、ロロとは少し打ち解けられたかな?






――――――――――――――――――――――――――




~フィキペディア~


『アルティナ特製シャンプー』


アルティナの力によって生み出されたシャンプー。どんな頑固汚れも落とす&なくならないというシャンプーにしておくにはもったいないくらいの能力を持っている。

鮮やかなピンク色で桃の香りがする。安眠効果まであるんだとか。

お風呂場の付属品としてついてきた。


髪の色の表現はタブーという声がけっこうあったのですが、あえて今回も書かせていただきました。


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